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二章『【凪の村】』編
第五話「霧の中の敵」-2
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「いえ、わからないわね。死霊術も使用に際して魔力に近いエネルギーの痕跡を残すから、これで判断することはできないわ。ただ、犯人がこの場所に潜んでいたのは間違いなさそうね」
「なるほどな……。でも、こんなところに子供を連れ込んだら、すぐにバレるんじゃないか? 衛兵はすぐに駆け付けたんだろ、無理矢理連れて行こうとして子供が騒いだりしたら、簡単に見つかるだろ」
「ええ、その通りよ。薬や魔術で眠らせたりした可能性はあるけど、それにしたって相当手際よくやらなければいけないわ。ほんの少しでも暴れたりしたら、手こずるはずだしね」
「だったら、どうして――」
そこまで言って、不意に背後に気配を感じた。
誰だ、と、僕は瞬時に、懐の霊符に手を伸ばす。
そのまま振り向きざまに、一枚を投擲しようとして。
「おい! 待てって、俺だよ、俺!」
その声に、どうにかギリギリのところで踏みとどまった。
そこに立っていたのは、先ほど僕らを襲い、そのまま集会所への案内人にされた、あの栗毛の男だった。
両手を上げて降伏のポーズをとったその姿は、哀れになるくらい間抜けに見える。
「……なんだ、お前かよ。僕らに何の用だ?」
僕は警戒しながら言った。
また難癖をつけに来たのだろうか。
あれだけリタに殴られたというのに、腫れも退かないうちに懲りない奴だ。と、僕は思ったが、しかし、どうやらそうではないようだった。
「何の用だも何も、あんたらの案内を村長に頼まれたんだよ。迷惑かけたんだから、その分協力して来いってな。そうじゃなきゃ、誰がお前らなんか……」
「協力? 何のこと?」
「あんたらだけじゃ、事件が起こった家がどこなのかもわからねえだろ。それに、俺の仲間たちが、またあんたにちょっかいを出すかもしれねえしな」
なるほど、本音はそっちか。
先ほど据えられた灸がよほど効いたと見える。
僕らへの協力なんてのは建前で、つまるところは僕らの監視とこれ以上リタが暴れるのを防ぎたいということだろう。
どちらにせよ、僕らにとっては渡りに船といったところか。
これ以上村人たちに不信感を抱かれることはなくなるし、彼は僕らよりも生きた情報――事件当時の空気感や言葉では表しづらいような詳細まで知っているに違いない。
「……まあ、そういうことなら、いいんじゃないか? なあ、リタ――」
と、言いながら振り返って。
「…………」
リタの表情は、何故か曇っていた。
眉間に皺を寄せながら、ジッと栗毛の男を睨みつけている。何か気になることでもあるのだろうか。
どうかしたのかと、問おうとすると同時。
「……いいでしょう。あんた、名前は?」
溜息と共に、リタはふっと口元を緩めた。
一瞬だけ確かに、険しい表情をしていたように見えたが……僕の気のせいだったのだろうか。
「ああ、俺はイアンってんだ。一応爺さんの代から、この村で暮らしてる」
「そう、じゃあ、イアン。村の案内は任せてもいいのよね?」
「構わねえよ。で、どこに連れてきゃいいんだ、【赤翼】サマ?」
彼は言いながら、ゆるゆると首を振った。その言葉には、やはりというか含むところがあるように思えた。
原因のほとんどはこちらにあるような気がするので、何とも言えないが。
リタは「そうね……」と、顎に手を当ててしばらく考えこんでから、「とりあえず、三人目の事件が起こった家に連れていってもらおうかしら」
イアンは静かに頷くと、「ついてこい」とだけ言って、歩き出した。
リタもそれに続こうとしていたので、僕も一緒に、と、歩き出そうとして。
ふと、視界の端に小さな人影が映った気がした。
「なるほどな……。でも、こんなところに子供を連れ込んだら、すぐにバレるんじゃないか? 衛兵はすぐに駆け付けたんだろ、無理矢理連れて行こうとして子供が騒いだりしたら、簡単に見つかるだろ」
「ええ、その通りよ。薬や魔術で眠らせたりした可能性はあるけど、それにしたって相当手際よくやらなければいけないわ。ほんの少しでも暴れたりしたら、手こずるはずだしね」
「だったら、どうして――」
そこまで言って、不意に背後に気配を感じた。
誰だ、と、僕は瞬時に、懐の霊符に手を伸ばす。
そのまま振り向きざまに、一枚を投擲しようとして。
「おい! 待てって、俺だよ、俺!」
その声に、どうにかギリギリのところで踏みとどまった。
そこに立っていたのは、先ほど僕らを襲い、そのまま集会所への案内人にされた、あの栗毛の男だった。
両手を上げて降伏のポーズをとったその姿は、哀れになるくらい間抜けに見える。
「……なんだ、お前かよ。僕らに何の用だ?」
僕は警戒しながら言った。
また難癖をつけに来たのだろうか。
あれだけリタに殴られたというのに、腫れも退かないうちに懲りない奴だ。と、僕は思ったが、しかし、どうやらそうではないようだった。
「何の用だも何も、あんたらの案内を村長に頼まれたんだよ。迷惑かけたんだから、その分協力して来いってな。そうじゃなきゃ、誰がお前らなんか……」
「協力? 何のこと?」
「あんたらだけじゃ、事件が起こった家がどこなのかもわからねえだろ。それに、俺の仲間たちが、またあんたにちょっかいを出すかもしれねえしな」
なるほど、本音はそっちか。
先ほど据えられた灸がよほど効いたと見える。
僕らへの協力なんてのは建前で、つまるところは僕らの監視とこれ以上リタが暴れるのを防ぎたいということだろう。
どちらにせよ、僕らにとっては渡りに船といったところか。
これ以上村人たちに不信感を抱かれることはなくなるし、彼は僕らよりも生きた情報――事件当時の空気感や言葉では表しづらいような詳細まで知っているに違いない。
「……まあ、そういうことなら、いいんじゃないか? なあ、リタ――」
と、言いながら振り返って。
「…………」
リタの表情は、何故か曇っていた。
眉間に皺を寄せながら、ジッと栗毛の男を睨みつけている。何か気になることでもあるのだろうか。
どうかしたのかと、問おうとすると同時。
「……いいでしょう。あんた、名前は?」
溜息と共に、リタはふっと口元を緩めた。
一瞬だけ確かに、険しい表情をしていたように見えたが……僕の気のせいだったのだろうか。
「ああ、俺はイアンってんだ。一応爺さんの代から、この村で暮らしてる」
「そう、じゃあ、イアン。村の案内は任せてもいいのよね?」
「構わねえよ。で、どこに連れてきゃいいんだ、【赤翼】サマ?」
彼は言いながら、ゆるゆると首を振った。その言葉には、やはりというか含むところがあるように思えた。
原因のほとんどはこちらにあるような気がするので、何とも言えないが。
リタは「そうね……」と、顎に手を当ててしばらく考えこんでから、「とりあえず、三人目の事件が起こった家に連れていってもらおうかしら」
イアンは静かに頷くと、「ついてこい」とだけ言って、歩き出した。
リタもそれに続こうとしていたので、僕も一緒に、と、歩き出そうとして。
ふと、視界の端に小さな人影が映った気がした。
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