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二章『【凪の村】』編
第五話「霧の中の敵」-3
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広場の端。建物の陰。確かに見えたはずなのだが、どういうことか、僅かに目を逸らした隙に消えてしまっていた。
僕は二人から離れて、その陰のあたりに近づいていく。
ゆっくり、ゆっくりと、一歩、二歩。そして、ゆっくりと覗き込む。
が、そこには誰もいなかった。やはり気のせいだったのだろうかと、首を傾げて。
「……兄ちゃん、こっちだよ」
不意に、かけられた声。
どこだ、と、見渡すが、やはり誰もいない。
頭に疑問符を浮かべながら、もしかして、と、僕は反射的に首元のロザリオに手を伸ばしていた。
そして、視線を下ろす。すると、声の主はそこにいた。
僕の腰ほどの背しかない、小さな子供だった。その褐色の肌には張りがあり、つやのある黒髪も短く切り揃えられている
ただ、目の中には怯えるような光を宿したまま、僕を睨みつけていた。
どう反応しようか一瞬迷ったが、まさかここまで来て無視するというわけにもいくまい。
「あー、怪しいもんじゃないよ。ちょっと、お仕事で来てるんだ。君は、村の子か?」
僕は少年と視線を合わせるために屈みながら、そう言った。
警戒を解こうとしての行動だったのだが、少年はむしろ驚いたように目を見開く。
「……兄ちゃん、わかるんだ」
「まあな。そのくらいなら朝飯前だ。君は――」
「オイラはこの村の……外れにある畑の裏の家の子だよ。兄ちゃんは、町の人だよね」
ああ、と、頷く。僕のような人間と会話をするのに慣れていないのか、少年はまだこちらの様子を伺っているようだった。
「怯えなくていいぞ。……って言っても、無理か。この村も物騒みたいだしな」
「……うん。大人たちがみんな、すごくピリピリしてるんだ。村の子たちもみんな、外には出ちゃダメだ、遊びに行っちゃダメだ、って」
「……そうなのか、そりゃあ、寂しいだろ」
少年は小さく頷いた。
目を伏せて、見れば、組んだ指先は静かに震えている。
今にも泣きだしそうなその顔が、何だか放っておけないような気がして、僕は思わず、少年の頭に手を伸ばそうとした。
「安心してくれ、僕らは怪しいもんじゃないさ。この村で起きた事件を、解決しに来たんだ」
「解決……兄ちゃんが?」少年は首を傾げながら言う。
「いや、僕じゃなくて、僕の連れ……まあ、知り合いが、なんだけどな。とにかく、君は――」
僕の手が、彼に触れるか触れないか、という、その刹那だった。
「あんた、こんなところで何してんのよ」
背後から声が聞こえた、と、思った時にはもう遅かった。
襟首のあたりに力を感じた――途端、強く後ろに引っ張られる。
「ぐっ、あ、リタ? ちょ、ちょっと待てって……」
「何言ってんのよ。一刻も早く子供たちを見つけなきゃいけないんだから、道草食ってる暇なんかないでしょうが」
そのまま、リタは僕の体をズルズルと引きずるようにして歩き出した。
大の男を片手で引きずるって、こいつどんな腕力してるんだ。
少年はなす術もなく連れていかれる僕をなんだか複雑そうな表情で見つめていた。
呆れと困惑の混じった、まるで玉乗りに失敗したピエロを見るような目だった。
「――と、とにかく、安心していいからな、少年。僕らに任せとけ!」
手を振りながら叫ぶ僕に、リタは「誰と話してんのよ」と、呆れ切った調子で言った。
後から来た彼女には少年の姿が見えなかったのだろう。にしたって、自分で歩けるから早く離してほしいのだが。
お前の付き人、変わってんな。イアンの呟きに返す言葉も見つからないまま、僕らは広場を後にする。
出口のあたりまで来た頃には、もう少年の姿は見えなくなってしまっていた。
僕は二人から離れて、その陰のあたりに近づいていく。
ゆっくり、ゆっくりと、一歩、二歩。そして、ゆっくりと覗き込む。
が、そこには誰もいなかった。やはり気のせいだったのだろうかと、首を傾げて。
「……兄ちゃん、こっちだよ」
不意に、かけられた声。
どこだ、と、見渡すが、やはり誰もいない。
頭に疑問符を浮かべながら、もしかして、と、僕は反射的に首元のロザリオに手を伸ばしていた。
そして、視線を下ろす。すると、声の主はそこにいた。
僕の腰ほどの背しかない、小さな子供だった。その褐色の肌には張りがあり、つやのある黒髪も短く切り揃えられている
ただ、目の中には怯えるような光を宿したまま、僕を睨みつけていた。
どう反応しようか一瞬迷ったが、まさかここまで来て無視するというわけにもいくまい。
「あー、怪しいもんじゃないよ。ちょっと、お仕事で来てるんだ。君は、村の子か?」
僕は少年と視線を合わせるために屈みながら、そう言った。
警戒を解こうとしての行動だったのだが、少年はむしろ驚いたように目を見開く。
「……兄ちゃん、わかるんだ」
「まあな。そのくらいなら朝飯前だ。君は――」
「オイラはこの村の……外れにある畑の裏の家の子だよ。兄ちゃんは、町の人だよね」
ああ、と、頷く。僕のような人間と会話をするのに慣れていないのか、少年はまだこちらの様子を伺っているようだった。
「怯えなくていいぞ。……って言っても、無理か。この村も物騒みたいだしな」
「……うん。大人たちがみんな、すごくピリピリしてるんだ。村の子たちもみんな、外には出ちゃダメだ、遊びに行っちゃダメだ、って」
「……そうなのか、そりゃあ、寂しいだろ」
少年は小さく頷いた。
目を伏せて、見れば、組んだ指先は静かに震えている。
今にも泣きだしそうなその顔が、何だか放っておけないような気がして、僕は思わず、少年の頭に手を伸ばそうとした。
「安心してくれ、僕らは怪しいもんじゃないさ。この村で起きた事件を、解決しに来たんだ」
「解決……兄ちゃんが?」少年は首を傾げながら言う。
「いや、僕じゃなくて、僕の連れ……まあ、知り合いが、なんだけどな。とにかく、君は――」
僕の手が、彼に触れるか触れないか、という、その刹那だった。
「あんた、こんなところで何してんのよ」
背後から声が聞こえた、と、思った時にはもう遅かった。
襟首のあたりに力を感じた――途端、強く後ろに引っ張られる。
「ぐっ、あ、リタ? ちょ、ちょっと待てって……」
「何言ってんのよ。一刻も早く子供たちを見つけなきゃいけないんだから、道草食ってる暇なんかないでしょうが」
そのまま、リタは僕の体をズルズルと引きずるようにして歩き出した。
大の男を片手で引きずるって、こいつどんな腕力してるんだ。
少年はなす術もなく連れていかれる僕をなんだか複雑そうな表情で見つめていた。
呆れと困惑の混じった、まるで玉乗りに失敗したピエロを見るような目だった。
「――と、とにかく、安心していいからな、少年。僕らに任せとけ!」
手を振りながら叫ぶ僕に、リタは「誰と話してんのよ」と、呆れ切った調子で言った。
後から来た彼女には少年の姿が見えなかったのだろう。にしたって、自分で歩けるから早く離してほしいのだが。
お前の付き人、変わってんな。イアンの呟きに返す言葉も見つからないまま、僕らは広場を後にする。
出口のあたりまで来た頃には、もう少年の姿は見えなくなってしまっていた。
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