150 / 161
終章『赤き翼』編
第三十三話「骸の王」-4
しおりを挟む「リタ、聞いてくれ。もしかすると、一個だけあいつに近づく方法があるかもしれない」
「……なによあんた、まだ策を隠してたの?」
「だったらよかったんだけどな」僕はおどけるように肩を竦めて。
「残念ながら、思い付きだ」
「成功率はどのくらい?」
「そうさな……二割、あればいい方か」
十分ね、と顔を寄せてきたリタの耳元に、僕は顔を寄せる。そして、一度納得したような頷きを挟んでから、彼女の指先が、固く握り込んだ僕の手に触れる。
それもほんの一瞬。すぐに離れた温もりは、間髪入れずに、翼から羽剣を抜き取った。
「あんたにしては、考えたじゃない。二割とは、随分低く見積もったものね」
「そうか、そりゃ、恐縮だぜ」
そんなやり取りを交わしつつ、僕たちは息を整える。
僕の作戦がうまくいかなければ、恐らく、このまま有効打を与えられずに、僕たちは削り殺されるだろう。
或いは、一か八かで『炎』に賭ける羽目になるかもしれない。そういった意味で、ここは重要な局面――ある意味で、極点とも呼べる状況だったと思う。
状況を決め得る、最後の交差。口火を切ったのは、やはりリタだった。
羽剣を手に駆ける彼女は、迎え撃つウィスプを次々と斬り伏せていく。
「馬鹿め、何度来ようと、骸の王の前には無力だと言っているだろう!」
「その台詞、吐いたやつは例外無く、みんな負けてるわよ!」
リタの周囲を覆うように、ウィスプの雨が降り注ぐ。
しかし、彼女は止まらない。大きく翼を羽ばたかせれば、そこから無数の羽剣が飛び出した。
それは彼女の周りを車輪のように高速で旋回しつつ、火の玉を次々と両断していく。
「『鉄の翼――羽旋回剣』!」
次々と飛来する霊撃を切り裂いたリタに、骸の王がその手を伸ばす。触れるもの皆呪う、悪霊の腕が、再び彼女に飛来する。
振り抜かれた右腕は、リタの周囲を回る剣を半分ほど毟り取る。しかし、彼女自身を捕まえることはできず、赤い閃光は一直線に、リトラの元へ向かっていく。
「くっ、鬱陶しい奴だ……なら、こいつはどうかな!」
骸の王が、雄叫びを上げる。それと同時に、再び周囲から、骸骨が立ち上がるのが見えた。
『贖う者の群れ』。規模こそ先ほどよりも小さいようだったが、それでも、駆けるリタの脚を緩めさせるには十分だった。
「こいつら、邪魔っ! いくらいたって一緒よ!」
焦れたリタは、翼を振り上げる。骸骨たち程度であれば、一振りで一掃できることは、先ほどの一合でよくわかっているからだ。
足止めとしても、大した効果は期待できるまい。
しかし、リトラが狙っていたのは――そこではなかった。
「――かかったな」
翼での一薙を放とうと構えたところで、リタの表情が引き攣る。
彼女も気付いたのだ。自身が、周囲を無数のウィスプによって囲まれていることを。
「……っ!」紅蓮の瞳が、目まぐるしく動く。
四方八方。正しく逃げ場も、死角もない包囲網。彼女の速度をもってしても、もう、逃れることはできないだろう。
「『鉄の翼――羽球体』!」
リタは咄嗟に、巨大化させた鋼の翼で自身を包み込んだ。継ぎ目のない鉄球を思わせるそれは、周囲からの攻撃を防ぎ切る、鉄壁の防御型。
その強度を試すように、ウィスプの雨が放たれる。一波、二波、一度放たれた悪霊も、再び王の元に戻り、再び爆撃に参加する。
「ふははは、そのチンケな翼でいつまで耐えられるかな!」
リトラの哄笑を挟み、攻撃は続く、一秒、五秒、十秒。それでも、翼の盾は霊撃を受け止め続ける。
均衡が崩れたのは、その直後だった。骸の王が、その拳を振り上げる。連打に足を止めた彼女は格好の的。
「終わりだ、リタ・ランプシェード。これ以上、手間をかけさせるな――!」
王の拳はリタに直撃し、そのまま派手に殴り飛ばした。まるで子供のボール遊びのように、二度程バウンドしたリタは、そこでようやく止まり、鋼の翼がふわりと解ける。
再び露わになった彼女の表情は――明らかに、消耗していた。
「……っ、ま、まだよ……!」
すぐに立ち上がったリタは、再び翼を構えようとして――異変に気がつく。
そう、悪霊が纏わりついた翼は、その重さを増し、彼女を地面に縫い止めていたのだ。
その、たった一瞬の間隙。それが、致命的だった。
「――詰み、だな」
リトラの声が静かに響く。そこから間を空けず、数十発のウィスプがリタに直撃した。一発一発が小規模な爆弾にも匹敵する威力のそれは、彼女の矮躯を布のように吹き飛ばした。
赤いローブがバラバラに裂けては、火の玉に焦がされ、転がっていく。そのまま彼女は、地面に倒れ伏し――動かなくなった。
物量の差。熱量の差。どれだけの実力があれど、それはひっくり返せない。
故に、リタ・ランプシェードでは、骸の王を倒すことはできない。屍竜との戦いで予習した通りに、それは最初から、分かりきっていたことなのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる