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オマーンと瑠璃
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カチャリとなにかがぶつかった小さな音で、瑠璃の意識は重い泥沼から引き上げられた。
「・・・っん」
体をゆっくりと起こして、目をパチパチと瞬いた。
「おはよう、瑠璃」
ティーポットとガラスコップを手に持って、ぎしりと音を立ててマシュマロみたいなベッドに腰掛けた男は、瑠璃の前髪に触れ、額にキスを落とした。
「大丈夫か?痴漢に遭ったんだってな」
男はベッドの横にある机にポットとガラスコップを置くと、すーっと近くに寄ってきて、男は瑠璃を優しく抱きしめた。
「オマーン様、なの?」
その手の温もりと不安なときにしてくれる優しいキス。幼い頃にして貰っていたのと同じだ。
「ああ、そうだ。すまない、迎えに来る時間が遅くなってしまった」
その答えを聞いて涙がじわりと浮かんできた。そのまま止まらなくなりオマーンにしがみついて、声を殺しながら泣きついた。
「怖かっただろう、すまなかった。守ってやれなくて」
オマーンは背中を優しく撫でてくれる。それが余計に涙を誘った。顔を上げてオマーンを見るとオマーンは瑠璃にしか見せない優しい笑顔を浮かべていた。瑠璃の涙をペロリと舐めて、目尻にキスを落とした。それで涙を止めることが出来た。
「遅いの、オマーン様」
水を飲みながらオマーンの胸を軽く殴った。もともと力のない瑠璃が殴ったところで、オマーンにとっては痛くもかゆくもない。
「すまない、でもやっと瑠璃と一緒にいられる」
オマーンはぎゅっと瑠璃を抱きしめた。そこでネックレスをしていることに気がついた。
「瑠璃、これは?」
「オマーン様が毎年誕生日に送ってくれたネックレス。覚えてない、の?」
オマーンに凭れながら水をおかわりして、幸せそうな顔をする。
「もちろん覚えてる。まさか身につけてくれているとは思わなかった」
ベッドの横にある机にガラスコップを置いて、ネックレスを外した。そのネックレスにはダイヤモンドが埋め込まれたハートがぶら下がっていた。
「あと、鞄の中にオマーン様に貰ったイヤリングとかも入ってる」
瑠璃を抱きしめる腕に力が入った。スリスリと自分の頭を擦り付けてくるオマーンは子犬のように思えてくる。
「瑠璃、日本を案内してくれるか?」
「う、うん。良いけど」
「そうか、ありがとう。なにか欲しいものがあったら言うと良い。買ってあげよう」
ここで注意しなければならないのは、オマーンの金銭感覚が異常だと言うこと。お店1つ買おうとしたり、ブランドごと買おうとする。
「着替えて行こう、瑠璃。絶対に似合う服を用意している。それに俺以外の男に触られた服なんて着ておくべきではない」
「ふふっ」
つい笑ってしまった。
「どうした」
「嫉妬深いのは変わってないな~って思って」
「・・・・・・わ、悪いか」
「いいえ、嬉しいだけ」
「そうか・・・・・・。服は着やすいものにしてある。他人恐怖症の瑠璃が行きやすい場所に行こう」
オマーンが部屋を出て行くと、早速着替え始めた。日本製なのか着やすくてこの真夏にぴったりの涼しさだ。風通しが良い。ベッドの下に丁寧に並べられたヒールを履くと、部屋の外に出た。
「着換えられたのか。行こう」
オマーンと瑠璃は仲良く手を取って、東京の街に出て行った。2人を見送る頭を垂れた者たちは数え切れないほどだった。
日本~京都~
瑠璃とオマーンが向かったのは、古い歴史を持つ京都だった。歴史好きの瑠璃が良く来る場所だ。
京都の名所と言えば、清水寺や伏見稲荷大社、金閣寺、平安神宮などがある。
まず最初にオマーンに見せたのは、伏見稲荷大社だった。ここは綺麗な鳥居が見えるので、外国人旅行者にも人気だ。
「ここは知ってるぞ!」
オマーンも興奮し始めた。もう皇子と言うこともすっかり忘れている様子だった。移動中の車の中で街に出てもあまり騒がれない格好に着換えさしていた。
「伏見稲荷大社といえば、「千本鳥居」は必ず見なくちゃ。その美しさが評判を呼び、海外でも有名なの。 願いことを祈りながら、千本鳥居を通ると、願いが叶うという言い伝えもあるわ」
歴史好きの知識が役に立った。瑠璃はオマーンの興奮っぷりに、嬉しさがこみ上げてきた。
「センボントリイ、とはなんだ?」
「この赤いのが鳥居なのは知ってる?」
目の前に立つ鳥居にそっと触れて、聞いてみた。鳥居がなにかは知っているようだ。
「この鳥居が奥にずらーっと千本あるってこと」
鳥居を1つ1つくぐりながら、説明した。真っ赤な鳥居はとても魅了される。
「お参りしよう、オマーン様」
オマーンの手を取って鳥居を全てくぐり抜けると、手を洗うために御手洗の前に連れて来た。オマーンはどうやってしたら良いのか分かっていないそぶりを見せた。ずっと瑠璃の方ばかり見ている。
「オマーン様、こうやるの」
瑠璃はオマーンにやって見せた。
① 右手で柄杓(ひしゃく)を持ち、水を汲んで左手にかけ左手を清める。
② 次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清める。
③ 再び柄杓を右手に持ち、左の手のひらに水を受けて口をすすぐ。
④ 口をすすぎ終えたら、もう一度水を左手に流す。
⑤ 最後に水の入った柄杓を立て、柄に水を流してから伏せて置く。
の順番だ。今の時代これも出来ない若者が多い。
「オマーン様も」
柄杓をオマーンに手渡す。それを受け取ったオマーンはぎこちない動きで水を掬い瑠璃と同じようにした。
「次は」
拝殿の前に連れて来て、またやって見せた。参拝が終わってから何故かオマーンからの視線が気になって仕方がなかった。
「・・・っん」
体をゆっくりと起こして、目をパチパチと瞬いた。
「おはよう、瑠璃」
ティーポットとガラスコップを手に持って、ぎしりと音を立ててマシュマロみたいなベッドに腰掛けた男は、瑠璃の前髪に触れ、額にキスを落とした。
「大丈夫か?痴漢に遭ったんだってな」
男はベッドの横にある机にポットとガラスコップを置くと、すーっと近くに寄ってきて、男は瑠璃を優しく抱きしめた。
「オマーン様、なの?」
その手の温もりと不安なときにしてくれる優しいキス。幼い頃にして貰っていたのと同じだ。
「ああ、そうだ。すまない、迎えに来る時間が遅くなってしまった」
その答えを聞いて涙がじわりと浮かんできた。そのまま止まらなくなりオマーンにしがみついて、声を殺しながら泣きついた。
「怖かっただろう、すまなかった。守ってやれなくて」
オマーンは背中を優しく撫でてくれる。それが余計に涙を誘った。顔を上げてオマーンを見るとオマーンは瑠璃にしか見せない優しい笑顔を浮かべていた。瑠璃の涙をペロリと舐めて、目尻にキスを落とした。それで涙を止めることが出来た。
「遅いの、オマーン様」
水を飲みながらオマーンの胸を軽く殴った。もともと力のない瑠璃が殴ったところで、オマーンにとっては痛くもかゆくもない。
「すまない、でもやっと瑠璃と一緒にいられる」
オマーンはぎゅっと瑠璃を抱きしめた。そこでネックレスをしていることに気がついた。
「瑠璃、これは?」
「オマーン様が毎年誕生日に送ってくれたネックレス。覚えてない、の?」
オマーンに凭れながら水をおかわりして、幸せそうな顔をする。
「もちろん覚えてる。まさか身につけてくれているとは思わなかった」
ベッドの横にある机にガラスコップを置いて、ネックレスを外した。そのネックレスにはダイヤモンドが埋め込まれたハートがぶら下がっていた。
「あと、鞄の中にオマーン様に貰ったイヤリングとかも入ってる」
瑠璃を抱きしめる腕に力が入った。スリスリと自分の頭を擦り付けてくるオマーンは子犬のように思えてくる。
「瑠璃、日本を案内してくれるか?」
「う、うん。良いけど」
「そうか、ありがとう。なにか欲しいものがあったら言うと良い。買ってあげよう」
ここで注意しなければならないのは、オマーンの金銭感覚が異常だと言うこと。お店1つ買おうとしたり、ブランドごと買おうとする。
「着替えて行こう、瑠璃。絶対に似合う服を用意している。それに俺以外の男に触られた服なんて着ておくべきではない」
「ふふっ」
つい笑ってしまった。
「どうした」
「嫉妬深いのは変わってないな~って思って」
「・・・・・・わ、悪いか」
「いいえ、嬉しいだけ」
「そうか・・・・・・。服は着やすいものにしてある。他人恐怖症の瑠璃が行きやすい場所に行こう」
オマーンが部屋を出て行くと、早速着替え始めた。日本製なのか着やすくてこの真夏にぴったりの涼しさだ。風通しが良い。ベッドの下に丁寧に並べられたヒールを履くと、部屋の外に出た。
「着換えられたのか。行こう」
オマーンと瑠璃は仲良く手を取って、東京の街に出て行った。2人を見送る頭を垂れた者たちは数え切れないほどだった。
日本~京都~
瑠璃とオマーンが向かったのは、古い歴史を持つ京都だった。歴史好きの瑠璃が良く来る場所だ。
京都の名所と言えば、清水寺や伏見稲荷大社、金閣寺、平安神宮などがある。
まず最初にオマーンに見せたのは、伏見稲荷大社だった。ここは綺麗な鳥居が見えるので、外国人旅行者にも人気だ。
「ここは知ってるぞ!」
オマーンも興奮し始めた。もう皇子と言うこともすっかり忘れている様子だった。移動中の車の中で街に出てもあまり騒がれない格好に着換えさしていた。
「伏見稲荷大社といえば、「千本鳥居」は必ず見なくちゃ。その美しさが評判を呼び、海外でも有名なの。 願いことを祈りながら、千本鳥居を通ると、願いが叶うという言い伝えもあるわ」
歴史好きの知識が役に立った。瑠璃はオマーンの興奮っぷりに、嬉しさがこみ上げてきた。
「センボントリイ、とはなんだ?」
「この赤いのが鳥居なのは知ってる?」
目の前に立つ鳥居にそっと触れて、聞いてみた。鳥居がなにかは知っているようだ。
「この鳥居が奥にずらーっと千本あるってこと」
鳥居を1つ1つくぐりながら、説明した。真っ赤な鳥居はとても魅了される。
「お参りしよう、オマーン様」
オマーンの手を取って鳥居を全てくぐり抜けると、手を洗うために御手洗の前に連れて来た。オマーンはどうやってしたら良いのか分かっていないそぶりを見せた。ずっと瑠璃の方ばかり見ている。
「オマーン様、こうやるの」
瑠璃はオマーンにやって見せた。
① 右手で柄杓(ひしゃく)を持ち、水を汲んで左手にかけ左手を清める。
② 次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清める。
③ 再び柄杓を右手に持ち、左の手のひらに水を受けて口をすすぐ。
④ 口をすすぎ終えたら、もう一度水を左手に流す。
⑤ 最後に水の入った柄杓を立て、柄に水を流してから伏せて置く。
の順番だ。今の時代これも出来ない若者が多い。
「オマーン様も」
柄杓をオマーンに手渡す。それを受け取ったオマーンはぎこちない動きで水を掬い瑠璃と同じようにした。
「次は」
拝殿の前に連れて来て、またやって見せた。参拝が終わってから何故かオマーンからの視線が気になって仕方がなかった。
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