悪役の僕 何故か愛される

いもち

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学院編

第一話 ゲーム開始

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「セイン、起きろ。朝だぞ。」
「…ん。」
低くて、心地のいい声が耳元で囁かれる。
まだ寝ていたい。春先でも、まだ朝は少し寒い気がする。というか体温の低い僕は寒さが苦手だ。まだ目が開かなくて、目の前の温かいものに縋り付く。寝ぼけている僕は、それが大きなぬいぐるみに錯覚していた。温かくて、逞しくて、…逞しい?

「…アインズ。」
「言っとくが、またセインが夜に寝ぼけて俺のとこに来たんだぞ。俺悪くないからな。」
アインズがいた。この十年で随分大きく、凛々しく育った彼は、僕より随分大きい。僕がすっぽり覆われてしまう。自分の失態に恥ずかしくなる。

十歳を過ぎた頃に、アインズと一緒に寝なくなると、人肌が恋しくなって、アインズの部屋に忍び込むようになってしまった。一度だけ伯爵と夫人の部屋で寝てしまったこともあった。その時には驚愕の表情を浮かべた二人に何を言われるか怖くて、部屋から逃げて、しばらく二人を避けていた。アインズに「二人のことは気にしなくていーよ。でも、俺以外と添い寝しないでね。オウジサマともすんなよ。」と言われた。孤児で醜い火傷痕の僕が起き抜けにいたら怖いだろう。その後からは二度と間違えていないけど、どこか伯爵も夫人も寂しげだった。何故だろう。

「今日は学院の入学式だろ。いい加減起きないと、二人揃って寝坊して遅刻したら、あらぬ噂が出ちゃうかもな。」
「起きよう。早く行こう。」
急いで着替えようとするけど、起きたばかりは右手が強張って、ボタンが外せない。結局僕は、ゲームが始まる今日まで、杖が手放せなかった。
こんな時、魔法がなんとかしてくれるいいんだけど、あの子は人がいると絶対出てこないから、不便だ。一人で寝る時には手伝ってくれるのに。

「んー…とれない…」
「ほら、動くな。セインの魔法は人見知りだからな。代わりに俺がやるよ。」
伯爵家の三人は、流石に僕の魔法のことを知っている。といっても、あの子はそれでも人前に出てこない。本当に人見知りなんだろうな。
「ありがとね、アインズ。」
「いいよ、これくらい。役得。でも学院に行ったら寮に入るだろ。俺とセインが一緒の部屋になるように裏から手配したのに、オウジサマが邪魔しやがったからな。」
ゲームと同じく、僕らは学院に通うと寮に入る。寮でのイチャイチャイベントもあるから、寮に入らないという選択肢はないだろう。だって最初は家から通うとしたら、どこから聞いてきたのかアレクセイが必死の形相で訪ねてきたから。あの時のアレクセイはちょっと怖かった。
「ん?僕一人部屋じゃないの?」
ゲームの僕は、アレクセイに嫌われていて、傲慢な性格もあり、一人部屋をあてがわれていた。
王子とのイベントのため、アレクセイも他の攻略対象者も一人部屋だ。ゲームの僕は、しょっちゅうアレクセイを訪ねては拒否されていた、と記憶している。
「…アレクセイと一緒だよ。」
「ええー。」
「セインならその反応になると思った。俺も心配だよ。」
アレクセイは、僕の行動一つ一つを監視しているようで、何かあるとすぐ飛んでくる。王家の影的な、忍者を使っているそうで、そんな大事なものを僕如きに使うものじゃないと注意したことがある。その時のアレクセイは怖かった。目がキマっていて「セインに何かあったら私の気が狂う。」と真顔で言ってきたので、黙ってしまった。目が本気だった。
というか、この状況は不味い。

「セイン!その変態から離れるんだ!」
やっぱりきちゃった。相変わらず目が怖い。美形なのに、僕のことになると最近変なんだよね。
そういえばアレクセイのバッドエンドは、メリーバッドエンドというか、監禁エンドだった気がする。
このまま主人公に会って恋をしちゃったら、主人公はすぐに監禁されてしまうかもしれない。
「…アレクセイ、アインズは僕の着替えを手伝ってくれているだけだよ。」
「それなら、わ、私が…」
手をわきわきさせながらこっちにこないでほしい。しかも目線は何故か僕の顔より、下に向いている。ついでにアインズも同じ方を見ている。

「……。」
ボタンが全部開いているので、肌が見えている。勿論火傷の痕も。
「いやー、火傷の痕のピンクなのがちょっと色気があっていいよな。」
「癪だが、貴様とはこういう時は話が合うな。無垢な肌に、薄くのる桃色が背徳感がある。」
このゲームって十八禁ではなかったと思うけど、発言が親父くさい。最近そういう言動が二人とも増えた気がする。思春期ってこんな感じなのかな。僕は病気でそういうのはなかったから。でもゲームとか漫画では同性同士で下ネタを言い合っていたから、これくらい普通なのかな。

でもなんだか恥ずかしいので服で肌を隠す。
「そうやって隠そうとするのも唆るよなぁ。」
「ふふ、セイン。恥じらう姿も愛らしい。いつかは私に全て見せてくれるのだから、今から私が全身くまなく用意しよう。」
「いりません。一人で準備できるから、二人は出てって。」
僕が嫌がったからか、緊急事態と判断した僕の魔法が、二人を部屋からつまみ出してくれた。いつもこうしてくれるといいんだけど。
「ありがとうね。でも、どうして人前にほとんど出てこないの?」
『…♡』
魔法は影の形をとって頬擦りしてくる。可愛いんだけどね。不思議な魔法だ。ゲームにもこの子のことは何も出てこないし。
手伝ってもらって制服に袖を通す。ゲームで何度も見たこの服だけど、改めて確認すると、すごく質がいい。さすが貴族の子供たちが通う学校の制服だ。とても軽い。
「その制服は、セイン用の特別製だよ。特別軽く丈夫に作ってあるんだよ。防御魔法の付与された糸で織っているんだよ。因みに、私が作った。」
鍵を掛けているはずなのに、アレクセイがのぞいてきた。というか、これ王子様謹製なの。器用だな。

「アレクセイ。入っちゃダメって言ったよ。」
「見るなと言われるものほど、見たくなる。人の性だな。」
「まあもう着替え終わったからいいけど。」
支度を終えて部屋の外に出る。
二人もゲームで見慣れた姿だ。
二人には懐かれちゃったけど、逆に二人からの好感度を下げないようにしつつ、主人公に優しくすれば、ゲームのセインのようにならないのかな。

一抹の不安を抱えながら、僕は生きる道を模索して、全力で死から抗ってやる。
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