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学院編
第九話 夏季休業と帰省
しおりを挟む「夏休みだー!」
エルンの元気な声が生徒会室に響き渡る。
試験は終わり、結果が張り出された。アレクセイが首位、ついでレイムダル、アインズと続く。これはゲームでも同じ。ただゲームでの僕は教員に賄賂を渡して上位にいるが、そんなことをしていないので、僕の順位は下から数えた方が早い。それはエルンとヴィンセントも同じ。赤点は免れたけれど、ある一定の順位以下の生徒は夏季休業時の課題を追加されている。これはゲームでも同じで、課題をしないと攻略対象者と交流を深めることができない。逆に僕としては課題に集中してエルンと僕が他の人と仲良くせずに済むからいいかなと思った。けれどゲームでは課題をこなす場合夏季中の育成ができずに、行軍訓練でのバッドエンドにつながるリスクが高い。体感七~八割はバッドエンドになっていた可能性がある。
でも課題をやらないと絶対にバッドエンドになるから、課題を渡されて嫌そうな顔をしているエルンに釘を刺す。
「エルン。課題はちゃんとやるんだよ。」
「う、はーい。」
「もしもエルンが嫌じゃなかったら、教会に行って一緒に課題をしようか。」
「本当に!?やった!みんなで待ってる!シスターも会いたがってるからたくさんきて!」
ああ、シスターもまだ教会にいるのか。僕が最後に会った時はシワが目立ち始めていたから、おばあちゃんになっているだろうか。
そんな故郷に想いを馳せていると、アレクセイが困惑していた。
「セインは王宮で寝泊まりするんじゃないのかい?」
「…?そんな約束はしていないよ。僕に用事があれば、君から尋ねてくればいいじゃないか。まあ家にはずっといないけど。教会にくればいるんじゃないかな。」
「ならば、私は夏季休業中はセインの家に泊まってもいいかな。」
それって王子としていいの?公務とか、社交とか、やらないといけないことがあるんじゃないの。
「駄目でしょ。」
「そうだね。だからセインに王宮にいてほしいんだ。私の婚約者として、私の唯一無二の癒しとして。」
「嫌なんだけど。王様に気を使うの。それにクロとシロもいるし。お城のもの壊したら大変。」
「ああ、それなら私と離宮にいよう。あそこはお婆様がいるが、質素倹約の方でね。骨董品やら無駄なものは置かない主義なんだ。お話ししたら、滞在を許可してくださるだろう。」
いやそうじゃなくて。王様一族と夏季休業中。つまり一月以上も近くで暮らすなんて、気を使いすぎて死んじゃう。
「おい、セインが嫌だっつってんだろ。無理強いすんなよ。余裕のない男は嫌われるぜ。」
「アインズ。しかし。」
「親父には言っとくから、伯爵家に泊まりに来い。
セイン、親父には猫達のこと言ってある。飼育の許可も降りたが、のびのび過ごせるようにって、敷地内にセインとクロ、シロ用に別邸はもう作ってあるってよ。親父達と顔合わせたくなかったら、来なくていいとさ。まあオウジサマは絶対そっちには泊まらせないけどな。」
「何故だ!寮では同室だぞ!」
「余計にだよ。無理矢理セインと同室になりやがって。今でも俺は許してねーから。親父達も一人部屋か、俺と同室にって思ってたみたいだし。
婚約者とはいえまだ婚前だ。大事な長男をこれ以上傷物にされたらたまらねえからな。」
なんだか伯爵は僕にすごく気を遣っているみたいだ。でも、すでに傷はあるんだけれど。
「じゃあアインズ。エルンも泊めてあげてもいい?」
「あ?あー、まあオウジサマと同条件ならいいんじゃねえか。明日帰ったら親父に言ってみな。セインの言うことなら、なんでも聴いてくれるさ。」
そうだろうか。でもゲームでも伯爵は僕にやりたい放題させていたし、傷に対する罪悪感でもあるのだろうな。
その後レイムダルとヴィンセントも伯爵家に来たがり、いつ誰が僕の家に来るか、いつ教会に訪問するかを事細かに決められてしまった。僕を置いて。なので僕は諦めてクロとシロと遊ぶのだった。
そして次の日。無事に伯爵家に帰省した。エルンもついでに馬車に乗り、僕らの家の前で別れた。
義父と義母に会うのは緊張する。いつまでも余所余所しい二人は、今日も僕と目線を合わせることはない。
流石に帰省した直後の夕食くらいは一緒に食べようと思い、同席した。
「…二人とも、息災か。」
「元気そうで、よかったわ。」
「おー、元気だよ。な、セイン。」
「はい。…クロとシロのためにわざわざ別邸を作っていただきありがとうございます。」
「気にするな。」
「…。」
会話が続かない。僕自身も何を話していいかわからないからカトラリーの控えめな音だけが、耳に響く。
「セイン、言わないといけないことあんだろ。エルンのこと。」
「エルン、というのはフェアリーズ教会の少年のことか。確かお前達と同じく生徒会の所属だったか。帰りの馬車に一緒に乗っていたな。何かあったか」
「僕の成績が振るわなくて、夏季休業中の課題を追加されたのです。エルンは平民だったので授業についていくのがやっとで、同じように課題を増やされていました。僕に用意してくれた別邸での勉強を提案され、了承しました。終わりが遅くなると教会から少し距離があり、いくら領内は騎士が巡回していても危険なので、エルンを泊まらせてあげたいのです。」
「セイン説明が長すぎる。エルンと仲良くしたいからお泊まりさせてほしいんだろ。」
別に仲良しこよしがしたいわけじゃない。エルンがちゃんと課題をしないと僕らのエルン自身の命やアレクセイ達の人生に関わるから。
「ち、違うよ。」
「それと、アレクセイも泊まり来るってさ。夏季休業中にセインに会えないと、セイン不足で死ぬって。」
「…そうか。」
許可してくれるだろうか。伯爵は眉間に皺を寄せて、難しい顔をしている。
彼が声を出す前に、夫人がにこりと笑って一言告げる。
「あら、いいじゃない。お泊まり。私が学生の時もお泊まり会、したわよ~。お父様達に隠れてダンジョンにも行ったものね~。」
「…君が言うのなら。ただし、ダンジョンには行かないように。」
あっさりと許可された。それでいいのか。というか、義母はダンジョンに行っていたのか。おっとりした見た目でそんな風には見えないが、確かアインズと初対面の時に魔獣討伐と言っていた気がする。
実は女傑なのだろうか。
いや、気にしないでおこう。
「ありがとうございます。伯爵、夫人。では後ほど日程をお伝えしますので、僕は失礼します。」
食事も終わったし、お泊まりの許可ももらえたわけだし、僕は別邸に戻る旨を伝えて席をたった。
僕が部屋から出た後、
「セインちゃん、今でも仲良くしてくれないわね~。」
「…どうすれば、親子らしく話せるだろうか。アインズは学院では上手くやれているか?」
「まあな。親父はもっと笑顔でいろよ。」
僕と良好な関係を築こうと家族会議をしていたそうだ。アインズからは、僕ももう少し愛想良くしてほしいと言われた。
…善処します。
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