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魔王から世界の半分を貰ったら丸く収まった
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俺は勇者。まさに今、魔王の前に立っている。
魔王四天王を倒す過程で僧侶、魔法使い、戦士を失った。正直に言って分が悪い。
だが、見る限り魔王側も追い詰められている。俺と戦えるほどの強者はもういない。
部屋の前にいた近衛兵も全滅。側近が何人かいるが……どうみても文官だ。
魔王自身も年老いており、肉弾戦よりも内政、頭脳派といった風貌だ。
魔王は剣を構えた俺に問う。
「勇者よ。わが片腕となれ。さすれば世界の半分をお前にやろう」
常識的に承諾するはずのない質問。だが俺の体力も少ない。少しでも回復を図るために俺も問う。
「魔王よ。世界の半分とはなんだ。死の世界か?闇の世界か?」
魔王は俺の傷口を一瞬視界に入れると構えていた杖を下ろし、穏やかに話し始めた。
「半分とは、光の世界。つまり人間界だ。人間界をお前にやろう」
「は?」
思わず声に出る。魔王は何を言っているのだろうか。散々人間界に攻め込んでおきながら
その人間界を俺にくれるだと?意図が読めない俺は混乱を極めた。
「勇者よ。聞いてくれ、我々魔族は闇の世界の住人だ。闇の世界と光の世界……闇の世界とは魔界。光の世界とは人間界だ。魔界と人間界では環境が大きく違う。我々が光の世界で活動することは、魚が陸上で活動するようなもの。だからな、いらんのじゃ、住みにくい人間界など」
いらない?ならば何故、魔王は人間界に攻め込んだ?俺の疑問はすぐに解消する。
「光りあるところに闇がある。この言葉を勇者も知っているだろう。これが世界の摂理なのだ。裏を返せば光のないところに闇はない。あるのは無である」
「だからなんだ!」
「つまり、人間界の光が弱くなると魔界の闇も弱くなる。植物が育たなくなり土地が瘦せ、家畜が減る。魔族の暮らしも厳しくなる」
魔王は一歩下がり、玉座に座る。もう戦う意思はなさそうだ。
「この200年。人間界は衰退の一途であった。王族は見栄と家柄ばかりに執着し民を助けない。貴族は腐り、私腹を肥やすことばかり。領地は荒れて領民も苦しむ」
「それはお前ら魔族が攻め込んだせいだろう!」
俺が一歩前に出る。
「いや違う。我々が戦に出たのはせいぜい10年前。勇者よ、お前が子供のころだ。魔族との戦争になる前の世界は豊かであったか?人々に笑顔はあったのか?」
俺は記憶を遡る。5歳前後記憶はあいまいだ。だが父は出稼ぎでいつもいなかった。母は痩せ食事も薄いスープや味のないイモだった。ちゃんとした食事は俺しか食べていなかった……
そうだ辛い世界だった。作物を沢山育てても領主に限界まで搾取され、みんな追い詰められていた。
いつから?いつから俺は魔族との戦争のせいだと思っていた?
「思い出したか?魔族との戦争以前に、もう人間の王政は限界であった。民の不満が蓄積し、一部の貴族が領民に襲われる事件も起きていた。そこで人間の王は考えた。怒りが王家に向かないようにこれは魔族の責任だとな」
「どういうことだ?つまり人間側が魔族に攻め込んだのか?」
「いや、それは違う。魔族が攻め込んだのは事実。だがそれは、人間の王を倒し、人間界を再建するためだ。光の世界……人間界が滅亡してしまう前に、自分たちの魔界を守るためにな。」
「そうか、俺たち人間が滅びたら光が消える。つまり魔族も」
「そういうことだ。もう一度問おう、いや何度でも問おう。勇者よ、お主の力と魔族の兵をもって腐りきった王政を倒してくれ。そしてお前が王となり光の世界に繁栄をもたらすのだ」
魔王はそういうと、杖を俺に向けた。殺気も予備動作もない、洗練された動作。
騙された。俺は致命傷をもらう。一瞬でそれを理解した。
しかし、魔王の放った魔法は治癒の魔法であった。俺の傷は塞がり、まるで町を出発した直後のように体が軽くなる。
「ぐぅ」
魔王に目を向けると、多くの魔力を消耗した魔族特有の疲弊した魔王がいた。
勇者である俺の体力は人外と言っていい。その体力をすべて回復するなど僧侶でも1日以上は寝込むレベルの重労働のはず。
つまり魔王は俺に託したのか。魔王を討って魔界と人間界を統べるもよし、魔王と手を組んで人間界を統べるも良しと。
俺は剣を納め、魔王に答えた。
「魔王の片腕にはならない。だが世界の半分は俺がもらおう。魔界の面倒まで見てやるほど俺は親切じゃないんだ」
そういうと魔王に背を向けて、俺は魔王を討つ千載一遇の好機を投げ捨てた。
だがこの決断は、後に人間界と魔界の交友につながり、光と闇がともに繁栄する世界の始まりとなった。
50年後、俺は病で死の淵にいた。
「結局、魔王から世界の半分を貰ったら丸く収まったなぁ」
ゆっくりと消える意識の中で、俺はつぶやいた。
ー完ー
魔王四天王を倒す過程で僧侶、魔法使い、戦士を失った。正直に言って分が悪い。
だが、見る限り魔王側も追い詰められている。俺と戦えるほどの強者はもういない。
部屋の前にいた近衛兵も全滅。側近が何人かいるが……どうみても文官だ。
魔王自身も年老いており、肉弾戦よりも内政、頭脳派といった風貌だ。
魔王は剣を構えた俺に問う。
「勇者よ。わが片腕となれ。さすれば世界の半分をお前にやろう」
常識的に承諾するはずのない質問。だが俺の体力も少ない。少しでも回復を図るために俺も問う。
「魔王よ。世界の半分とはなんだ。死の世界か?闇の世界か?」
魔王は俺の傷口を一瞬視界に入れると構えていた杖を下ろし、穏やかに話し始めた。
「半分とは、光の世界。つまり人間界だ。人間界をお前にやろう」
「は?」
思わず声に出る。魔王は何を言っているのだろうか。散々人間界に攻め込んでおきながら
その人間界を俺にくれるだと?意図が読めない俺は混乱を極めた。
「勇者よ。聞いてくれ、我々魔族は闇の世界の住人だ。闇の世界と光の世界……闇の世界とは魔界。光の世界とは人間界だ。魔界と人間界では環境が大きく違う。我々が光の世界で活動することは、魚が陸上で活動するようなもの。だからな、いらんのじゃ、住みにくい人間界など」
いらない?ならば何故、魔王は人間界に攻め込んだ?俺の疑問はすぐに解消する。
「光りあるところに闇がある。この言葉を勇者も知っているだろう。これが世界の摂理なのだ。裏を返せば光のないところに闇はない。あるのは無である」
「だからなんだ!」
「つまり、人間界の光が弱くなると魔界の闇も弱くなる。植物が育たなくなり土地が瘦せ、家畜が減る。魔族の暮らしも厳しくなる」
魔王は一歩下がり、玉座に座る。もう戦う意思はなさそうだ。
「この200年。人間界は衰退の一途であった。王族は見栄と家柄ばかりに執着し民を助けない。貴族は腐り、私腹を肥やすことばかり。領地は荒れて領民も苦しむ」
「それはお前ら魔族が攻め込んだせいだろう!」
俺が一歩前に出る。
「いや違う。我々が戦に出たのはせいぜい10年前。勇者よ、お前が子供のころだ。魔族との戦争になる前の世界は豊かであったか?人々に笑顔はあったのか?」
俺は記憶を遡る。5歳前後記憶はあいまいだ。だが父は出稼ぎでいつもいなかった。母は痩せ食事も薄いスープや味のないイモだった。ちゃんとした食事は俺しか食べていなかった……
そうだ辛い世界だった。作物を沢山育てても領主に限界まで搾取され、みんな追い詰められていた。
いつから?いつから俺は魔族との戦争のせいだと思っていた?
「思い出したか?魔族との戦争以前に、もう人間の王政は限界であった。民の不満が蓄積し、一部の貴族が領民に襲われる事件も起きていた。そこで人間の王は考えた。怒りが王家に向かないようにこれは魔族の責任だとな」
「どういうことだ?つまり人間側が魔族に攻め込んだのか?」
「いや、それは違う。魔族が攻め込んだのは事実。だがそれは、人間の王を倒し、人間界を再建するためだ。光の世界……人間界が滅亡してしまう前に、自分たちの魔界を守るためにな。」
「そうか、俺たち人間が滅びたら光が消える。つまり魔族も」
「そういうことだ。もう一度問おう、いや何度でも問おう。勇者よ、お主の力と魔族の兵をもって腐りきった王政を倒してくれ。そしてお前が王となり光の世界に繁栄をもたらすのだ」
魔王はそういうと、杖を俺に向けた。殺気も予備動作もない、洗練された動作。
騙された。俺は致命傷をもらう。一瞬でそれを理解した。
しかし、魔王の放った魔法は治癒の魔法であった。俺の傷は塞がり、まるで町を出発した直後のように体が軽くなる。
「ぐぅ」
魔王に目を向けると、多くの魔力を消耗した魔族特有の疲弊した魔王がいた。
勇者である俺の体力は人外と言っていい。その体力をすべて回復するなど僧侶でも1日以上は寝込むレベルの重労働のはず。
つまり魔王は俺に託したのか。魔王を討って魔界と人間界を統べるもよし、魔王と手を組んで人間界を統べるも良しと。
俺は剣を納め、魔王に答えた。
「魔王の片腕にはならない。だが世界の半分は俺がもらおう。魔界の面倒まで見てやるほど俺は親切じゃないんだ」
そういうと魔王に背を向けて、俺は魔王を討つ千載一遇の好機を投げ捨てた。
だがこの決断は、後に人間界と魔界の交友につながり、光と闇がともに繁栄する世界の始まりとなった。
50年後、俺は病で死の淵にいた。
「結局、魔王から世界の半分を貰ったら丸く収まったなぁ」
ゆっくりと消える意識の中で、俺はつぶやいた。
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