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第二章 初めての贈り物は甘くて危険な賭けでした
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カーテンの隙間から差し込む白い光が、リーゼのまぶたを焦がすように刺激した。窓辺から小鳥のさえずりが聞こえて、朝の訪れに気づく。
全身を包む気だるさに抗いながら、重いまぶたをこじ開ける。身体を起こそうとしたが、腰の奥に残る違和感に、思わずシーツを握りしめた。
その鈍い痛みだけが、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げていた。
(私……、シルヴィオ様とあんなことを……)
ぼんやりとした記憶をたぐり寄せ、カッと熱くなる頬を手のひらで覆った。
新妻に無関心だと思っていた夫。まさか戦地から戻った彼が、これほど別人のような熱を秘めているとは思いもしなかった。
昨夜の彼は飢えた獣のように情熱的で、それなのに病弱と信じる妻を扱う手つきだけは、腫れ物を扱うように優しかった。
ふと、腰に回された重みに気づき、リーゼはハッとする。
隣には、無防備な顔で眠るシルヴィオがいた。
鍛え上げられた腕が、逃がさないとばかりにリーゼの腰を抱きしめている。
(なんて幸せそうに眠っているの……)
シルヴィオのあどけない寝顔をのぞき込んでいると、リーゼもどこか幸せな気持ちになった。こんな感情を抱くのは初めてに等しい。
(愛おしい……って、こんな気持ちなのかしら)
そう思ってしまって、リーゼはかぶりを振ると、苦しくなる胸もとをぎゅっと握りしめた。
シルヴィオとは、幸せになるために結婚したわけではない。その本分を思い出し、激しく動揺していた。
今日は彼を連れて、父の命じた"バルタザール"へ行かなければならない。怪しまれずにどうやって誘えばいいだろうか。
リーゼが思案していると、シルヴィオの長い睫毛が震え、ゆっくりとまぶたが開かれた。
「……起きていたのか」
寝起きの低い声は、すぐにリーゼのお腹に埋められてくぐもった。
「シ、シルヴィオ……様」
「ずっと……こうしていたい」
甘えるようにつぶやいたシルヴィオに、リーゼはかける言葉が見つからずに黙っていた。
すると、まどろみを残した青い瞳がリーゼを捉え、愛おしそうに細められる。
「リーゼ。……気分はどうだ?」
「あ……、その、よく眠れました」
嘘だった。眠らせてくれなかったのは、シルヴィオではなかったか。
夜中だというのに、メイドに食事を運ばせ、ベッドの上で果実酒を口に含み、まどろむリーゼに口移しで飲ませる姿を、シルヴィオはメイドたちに見せつけた。
結婚したばかりの妻が、戦地に向かった夫の安否を案じず、毎日のびのびと暮らしていたのだから、メイドたちは睦まじい姿にさぞかし驚いただろう。
いまだ、ヴァイス家の使用人に打ち解けていないリーゼを心配しての行動だったのなら、彼の思慮深さに舌を巻かずにはいられない。
しかし、こちらを見つめる濃厚な視線に気づき、ただ単に彼は人目を憚らない男なだけの気もしてくる。
「心配いらなかったか? 今夜も埋め合わせしよう」
上機嫌に笑うシルヴィオを見て、小首をかしげると、彼はますます笑った。
「半年も妻を放っておいたのだ。三日三晩愛でても足りないであろう」
「……あ、何を」
シーツの中へ引きずり込まれそうになり、リーゼが身をすくませると、シルヴィオは「冗談だ」と笑って身体を起こす。
「そろそろ支度をしよう。……今日はあなたを連れて街を案内したい」
リーゼの胸がどくりと跳ねた。
こんなにも都合のいい話が簡単に転がり込むとは思っていなかった。
甘やかな朝の空気は一変し、苦しい現実が頭を冷やしていく。
「……でしたら、バルタザールへ行きたいです」
すかさず、リーゼは申し出た。
「バルタザール……?」
「お父さまが懇意にしている、腕のいい宝石職人がいるのです。ぜひ、シルヴィオ様にご紹介したいと……」
おずおずと告げると、シルヴィオの眉がわずかに動いた。
「ヴァルディエ公爵が……、俺に?」
「は、はい……。やはり、ご迷惑でしょうか」
「いや」
シルヴィオはふっと表情を緩めると、リーゼの頬を指先でなでた。
「あの御仁は俺を煙たがってると思っていた。意外だな」
「お父さまはシルヴィオ様を信頼しています……」
なんの慰めにもならない、取って付けたような言葉にもかかわらず、彼は笑い飛ばして言った。
「美しい我が娘を、好き好んで身分の低い男にくれてやる貴族などいない。せいぜい嫌われないように振る舞うとしよう」
ずきりと痛む胸を押さえる。
シルヴィオがそう思うのも無理はない。アルブレヒトが彼に対し、石像のような冷淡さを崩したことなど、一度としてなかったのだから。
「シルヴィオ様は、いずれ伯爵家の当主となられる方ではありませんか。身分が低いなどと卑下なさらないでください」
「リーゼは見た目通り、優しいのだな。嘘は言わない娘と信じているよ」
シルヴィオはちらりとリーゼを見て、優しく額にそっと口づける。
ますます彼女の胸は痛む。
彼を裏切っている無価値な自分が、どうしようもなく惨めに思えた。
「さあ、出かける準備をするとしよう」
シルヴィオはベッドを降りると、筋肉質の背中にシャツを羽織り、声をあげた。
「エルナ。リーゼの着替えを」
呼び鈴を鳴らすまでもない。すでに部屋の前で待機していたのか、侍女のエルナがすぐに扉を開け、穏やかな表情で深く頭を下げた。
カーテンの隙間から差し込む白い光が、リーゼのまぶたを焦がすように刺激した。窓辺から小鳥のさえずりが聞こえて、朝の訪れに気づく。
全身を包む気だるさに抗いながら、重いまぶたをこじ開ける。身体を起こそうとしたが、腰の奥に残る違和感に、思わずシーツを握りしめた。
その鈍い痛みだけが、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げていた。
(私……、シルヴィオ様とあんなことを……)
ぼんやりとした記憶をたぐり寄せ、カッと熱くなる頬を手のひらで覆った。
新妻に無関心だと思っていた夫。まさか戦地から戻った彼が、これほど別人のような熱を秘めているとは思いもしなかった。
昨夜の彼は飢えた獣のように情熱的で、それなのに病弱と信じる妻を扱う手つきだけは、腫れ物を扱うように優しかった。
ふと、腰に回された重みに気づき、リーゼはハッとする。
隣には、無防備な顔で眠るシルヴィオがいた。
鍛え上げられた腕が、逃がさないとばかりにリーゼの腰を抱きしめている。
(なんて幸せそうに眠っているの……)
シルヴィオのあどけない寝顔をのぞき込んでいると、リーゼもどこか幸せな気持ちになった。こんな感情を抱くのは初めてに等しい。
(愛おしい……って、こんな気持ちなのかしら)
そう思ってしまって、リーゼはかぶりを振ると、苦しくなる胸もとをぎゅっと握りしめた。
シルヴィオとは、幸せになるために結婚したわけではない。その本分を思い出し、激しく動揺していた。
今日は彼を連れて、父の命じた"バルタザール"へ行かなければならない。怪しまれずにどうやって誘えばいいだろうか。
リーゼが思案していると、シルヴィオの長い睫毛が震え、ゆっくりとまぶたが開かれた。
「……起きていたのか」
寝起きの低い声は、すぐにリーゼのお腹に埋められてくぐもった。
「シ、シルヴィオ……様」
「ずっと……こうしていたい」
甘えるようにつぶやいたシルヴィオに、リーゼはかける言葉が見つからずに黙っていた。
すると、まどろみを残した青い瞳がリーゼを捉え、愛おしそうに細められる。
「リーゼ。……気分はどうだ?」
「あ……、その、よく眠れました」
嘘だった。眠らせてくれなかったのは、シルヴィオではなかったか。
夜中だというのに、メイドに食事を運ばせ、ベッドの上で果実酒を口に含み、まどろむリーゼに口移しで飲ませる姿を、シルヴィオはメイドたちに見せつけた。
結婚したばかりの妻が、戦地に向かった夫の安否を案じず、毎日のびのびと暮らしていたのだから、メイドたちは睦まじい姿にさぞかし驚いただろう。
いまだ、ヴァイス家の使用人に打ち解けていないリーゼを心配しての行動だったのなら、彼の思慮深さに舌を巻かずにはいられない。
しかし、こちらを見つめる濃厚な視線に気づき、ただ単に彼は人目を憚らない男なだけの気もしてくる。
「心配いらなかったか? 今夜も埋め合わせしよう」
上機嫌に笑うシルヴィオを見て、小首をかしげると、彼はますます笑った。
「半年も妻を放っておいたのだ。三日三晩愛でても足りないであろう」
「……あ、何を」
シーツの中へ引きずり込まれそうになり、リーゼが身をすくませると、シルヴィオは「冗談だ」と笑って身体を起こす。
「そろそろ支度をしよう。……今日はあなたを連れて街を案内したい」
リーゼの胸がどくりと跳ねた。
こんなにも都合のいい話が簡単に転がり込むとは思っていなかった。
甘やかな朝の空気は一変し、苦しい現実が頭を冷やしていく。
「……でしたら、バルタザールへ行きたいです」
すかさず、リーゼは申し出た。
「バルタザール……?」
「お父さまが懇意にしている、腕のいい宝石職人がいるのです。ぜひ、シルヴィオ様にご紹介したいと……」
おずおずと告げると、シルヴィオの眉がわずかに動いた。
「ヴァルディエ公爵が……、俺に?」
「は、はい……。やはり、ご迷惑でしょうか」
「いや」
シルヴィオはふっと表情を緩めると、リーゼの頬を指先でなでた。
「あの御仁は俺を煙たがってると思っていた。意外だな」
「お父さまはシルヴィオ様を信頼しています……」
なんの慰めにもならない、取って付けたような言葉にもかかわらず、彼は笑い飛ばして言った。
「美しい我が娘を、好き好んで身分の低い男にくれてやる貴族などいない。せいぜい嫌われないように振る舞うとしよう」
ずきりと痛む胸を押さえる。
シルヴィオがそう思うのも無理はない。アルブレヒトが彼に対し、石像のような冷淡さを崩したことなど、一度としてなかったのだから。
「シルヴィオ様は、いずれ伯爵家の当主となられる方ではありませんか。身分が低いなどと卑下なさらないでください」
「リーゼは見た目通り、優しいのだな。嘘は言わない娘と信じているよ」
シルヴィオはちらりとリーゼを見て、優しく額にそっと口づける。
ますます彼女の胸は痛む。
彼を裏切っている無価値な自分が、どうしようもなく惨めに思えた。
「さあ、出かける準備をするとしよう」
シルヴィオはベッドを降りると、筋肉質の背中にシャツを羽織り、声をあげた。
「エルナ。リーゼの着替えを」
呼び鈴を鳴らすまでもない。すでに部屋の前で待機していたのか、侍女のエルナがすぐに扉を開け、穏やかな表情で深く頭を下げた。
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