最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない

花瀬ゆらぎ

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第二章 初めての贈り物は甘くて危険な賭けでした

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 琥珀色の光が室内を照らし出す。ベルベットのカーテンに、革張りのソファー。木製のカウンターには、真鍮の秤が置かれ、その奥のガラス棚の中には、ネックレスや冠などの宝飾品が飾られていた。

 その煌びやかな店内を眺めたシルヴィオは、「……ほう」とつぶやくと、ソファーへと腰掛けた。

「公爵様より、英雄たる若旦那様に相応しい品を用意せよと仰せつかり、ご用意したものがこちらでございます」

 カウンターの奥から姿を現したバルタザールの手には、真紅の布に覆われた盆があった。彼は仰々しく布をめくり、シルヴィオの前へと差し出す。

 中央の台座に鎮座するのは、大きな宝石を支える銀の指輪だった。
 中央にはめ込まれた黒い石は、周囲の光を吸い尽くしたかのように黒々と輝いている。その、否応なしに目を引きつける強烈な強さに、リーゼは警戒心を強めた。

「これは?」
「王都でも入手困難と言われております、大変珍しいブラックダイヤモンドでございます」
「これを、ヴァルディエ公爵が俺に?」

 信じられない……と首を振ったシルヴィオは、指輪を手に取ると、灯りにかざすようにして眺めた。
 その様子を、バルタザールはにこやかに見つめている。まったく隙のない笑顔がやけに不気味に見える。

(何を企んでいるのかしら……)

 リーゼは用心深く周囲を見回す。

 カウンターの奥には、雑然と積まれた紙の束。使われていないランプにはほこりがうっすらと積もり、昨日今日、急いで作らせた宝石店のようには見えない。
 
 しかし、半年あれば……。
 レナート失脚のために、用意周到な準備をする十分な時間はあったとも言える。

「……素敵だわ、シルヴィオ様。私にも見せてくださいますか?」
「あ、ああ。……驚いたよ。これほど見事な宝石は見たことがない」

 リーゼはシルヴィオから指輪を受け取ると、じっと光る石を眺めた。

「本当に素敵」

 闇のように深くて暗い石だが、何か仕掛けられているようでもない。

(……考えすぎだったかしら)

 父はただ単に、シルヴィオに指輪を送りたかっただけだろうか。

 しかし、すぐにその考えを否定する。
 あの冷酷無比なアルブレヒトが、意味もなくこのような施しをするはずがない。

 指輪を台座に戻そうとしたリーゼは、わずかに息をのんだ。

 銀の輪の内側には、見覚えのある模様が刻印されていた。

 それは、暁の紋章に違いなかった。

 アルブレヒトはこれをシルヴィオに持たせ、国王に叛意がある者として糾弾するつもりなのか。それはのちに、シルヴィオを重用するレナートの罪になると考えて。

 リーゼの胸に迷いが生まれた。

 知らぬふりをして、シルヴィオにこの指輪を勧めればいい。そうすれば、弟のリヒトは助かる。もうアルブレヒトの言いなりになる必要もない。

「では、これをもらおう」

 シルヴィオがブラックダイヤモンドを指差した。

 黙っていればいい。勧めたわけじゃない。シルヴィオが勝手に買うと決めたのだ。
 罪の意識などいらない。

 でも──

「では、お包みいたしますので少々……」

 バルタザールが腰を浮かすと同時に、リーゼは冷や汗が背中に流れるのを感じながら、シルヴィオを見上げた。

 何も知らない彼は、罪のない笑みを見せている。リーゼの心臓は張り裂けそうに拍動した。

 ──氷の騎士と呼ばれる、戦場では冷徹に戦う彼との結婚が決まったときは、公爵家での生活と変わらない冷たい毎日が待っていると思っていた。

 けれど、そうじゃなかった。エルナもシモンも……使用人たちは皆、留守にするシルヴィオの代わりに、リーゼを大切に扱った。
 それもこれも、シルヴィオがそうするように命じたからだ。

 シルヴィオは結婚したその日から、リーゼを妻として慈しんでくれていたのではないか。

 そんな彼を、本当に……、本当に、裏切ってもいいの?──

「待ってくださいっ! ほ、ほかの宝石も見せてくださるかしら?」

 リーゼはバルタザールを引き止めた。彼は一瞬、眉をひそめたが、すぐに笑みを取り繕った。

(ああ……、どうしよう。お父さまの計画を潰してしまったわ。報いは何かしら……。リヒト……、あなただけは無事で──)

 祈るように両手の指を絡ませると、バルタザールはいくつもの宝飾品を運んできた。

「これらはすべて一級品でございます。当店には、これ以上のものはございません。どうぞ、心ゆくまでご覧ください」
「あ、ありがとう。シルヴィオ様には、もう少し明るいお色がお似合いになると思いまして」

 早口で取り繕ったリーゼは、それらの中から、銀の鎖に青い宝石がきらめく首飾りを選び取った。

「シルヴィオ様の瞳のように力強くて美しい宝石ですね」
「ブルーサファイアでございます。よくお似合いになると思いますよ」
「ええ、そうね。……私、こちらがいいわ」

 宝石に触れる指先がわずかに震えていた。それでも、不思議と後悔はなかった。
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