最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない

花瀬ゆらぎ

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第六章 壊れた首飾りが伝える嘘は真実の愛でした

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 ラグローリアでもっとも豪華絢爛たる王城の奥深く、会議の間に集められたのは、アルブレヒト・ヴァルディエに、シルヴィオ・ヴァイス、その夫人リーゼだった。

 そして、豪奢なシャンデリアの下、長テーブルの上座には、マリウス・フォン・ラグローリア国王陛下が静かに腰を下ろし、その両隣には、宰相のマシュー・ブライと、レナート・ブラッツが控えていた。

「揃ったようですね」

 若く澄んだ少年の声が、室内によく響く。

 まだ十八歳のマリウスは、爽やかな風貌に、気品のある佇まいを見せていた。しかし、その穏やかな語り口に反し、場の乱れを許さない風格を備えていた。

 リーゼは緊張で押しつぶされそうになりながら、臣下の礼をとるシルヴィオに続き、深く頭を下げた。

「陛下、このような騒ぎとなり、まことに申し訳ございません。騎士団の多くはエルラントへ向かいました」
「かまいません。ノマールで不穏な動きがあると聞き、騎士団自らが結集したのです。出兵の許可は私の判断です。……そこで、ヴァルディエ」

 マリウスが流し目でアルブレヒトを見る。

「エルラントで反乱軍の動きありとの情報は、本当ですか?」
「はい。以前より、暁の反乱を起こしたヨハン・ノイエルの息子、リヒト・ノイエルを中心とした農民たちが、エルラントを解放すると、馬鹿げた思想を掲げ、我が兵士たちを襲撃しております。すでに武器を手に取っており、放置すれば、王国の秩序を脅かす事態になりましょう」

 マリウスは玉座の肘掛けに指先を置いたまま、アルブレヒトから視線を外さなかった。そして、スッと冷めたような目をして、穏やかに問う。

「なぜ、すぐに報告をしなかったのです?」

 アルブレヒトはあわてる様子なく、口もとをわずかに緩めた。まるで、その言葉を待っていたかのようだった。

「泳がせていたのですよ。リヒト・ノイエルはいまだ、15歳の少年。先導する者が必ずいるはず。その者が誰か……、証拠をつかみ次第、陛下にご報告申し上げるつもりでした」
「本当ですね?」
「ええ。統治には何ら落ち度はございません。すでに、農民どもは拘束済み。王国騎士団の到着を待つ必要もございません」
「……信じます。しかし、ブラッツの話では、リヒト・ノイエルは王都に向かっているとのこと。王都で騒ぎを起こせば、ヴァルディエ、あなたの責任が問われますよ」
「ご安心ください、陛下。先導者はわかっています」

 アルブレヒトは高らかに声を上げ、厳しい表情で見守るマリウスに対し、雄弁に続けた。

「先ほども申し上げました。リヒトはまだ少年。やつをそそのかし、反乱を企てる男がおります」
「目星がついているのですね?」
「ええ。単刀直入に申し上げます」

 アルブレヒトは腕を持ち上げると、振り向きざまにその指先をひとりの男へと向けた。

「シルヴィオ・ヴァイス! この男こそが、国を揺るがす反逆者。暁の反乱軍を利用し、我がヴァルディエ家を乗っ取ろうとするばかりか、ブラッツとも協力し、あわよくば王座を手に入れようと企てているのですっ!」

 マリウスはぴくりとも表情を変えず、シルヴィオを見つめたあと、レナートへと目を移す。

 シルヴィオもレナートも、眉ひとつ動かさず、ただじっとマリウスの言葉を待っている。

「……ヴァルディエ、そこまで言うなら、証拠はありますよね?」
「ございますとも! この男は、騎士団長の地位を利用し、反乱軍の娘であるリーゼ・ノイエルを妻に迎えたのです!」

 アルブレヒトの言葉に、リーゼは息を呑んだ。ノイエルであることを、この場で暴露されるとは思ってもなかった。

「リーゼ・ノイエル……? あなたの娘ではないのですか?」
「いえ、違います! こやつは公爵家の娘になりすまし、ヴァイスと婚姻を結びました。すべては、エルラントを統治するヴァルディエ家を逆恨みし、ヴァイスやブラッツとともに王家を乗っ取るため!」

 アルブレヒトは芝居がかった口調で嘆いてみせる。

「私は娘を人質に取られ、脅されていたのです。しかし、これ以上、彼らの悪行を見過ごすわけにはいきません。……この男が、反乱軍の首謀者である何よりの証拠が、そこにあります!」

 突き刺すような眼差しでアルブレヒトが見つめるのは、シルヴィオの胸元だった。

「その首飾りです、陛下!」
「……首飾り?」
「はい。シルヴィオが肌身離さず持っているその宝石の中には、反乱軍の紋章が刻まれているのです!」

 マリウスの視線が、シルヴィオの胸元へ向けられる。そこで静かに輝くのは、ブルーサファイアの首飾りだった。

 シルヴィオは表情を変えず、ただ静かにアルブレヒトを見据えていた。

「ヴァイス。……申し開きはありますか?」

 マリウスに問われたシルヴィオは、ゆっくりと首を横に振った。

「……いいえ、ございません」
「ならば、その首飾りを見せなさい」

 マリウスの命令に、シルヴィオがためらうように胸元に手をやる。
 その隙を見逃さず、アルブレヒトが飛びかかった。

「往生際が悪いぞ!」

 ブチッ、と荒々しい音がして、銀の鎖がひきちぎられる。

「あっ……!」

 リーゼは悲鳴を上げた。
 アルブレヒトの手には、無残にもぎ取られたブルーサファイアが握られていた。

『これを外すときは、あなたが俺を失うときだ』

 シルヴィオの言葉が、呪いのようにリーゼの脳裏をよぎり、血の気が引いていく。

 さらにアルブレヒトは、それを地面に叩きつけると、革靴のかかとで踏み砕いた。
 ブルーサファイアを支える爪が外れ、銀の土台に刻まれた模様があらわになる。

「ご覧ください、陛下! これこそが動かぬ証拠ですぞ!」

 アルブレヒトは勝ち誇ったように、土台を陛下の目の前で掲げた。

 シャンデリアの光に反射して浮かび上がるのは、太陽を模した禍々しい模様──反乱軍の証、暁の紋章だった。
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