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プロローグ
~プロローグ~ その花の名は
ハインと名乗る賞金稼ぎの前には檻があり、その中に、一人の女性がいた。
その女性は麻薬漬けにされ、ボロ布を纏い、逃げ出せないようにと片足を砕かれたのだろう、足が明らかにおかしな方向を向いている。
ただ、剥き出しになったその左の腕には、芸術的な実写さながらの、とても美しい花の刺青が彫られていた。
「ウフフッ……貴方も、きっと殺されるわぁ!あたしを殺しにヴァインガーが来る!!そうなれば、ここの皆は皆殺しよ!あたしをこんな目に合わせた貴方達を、彼等はきっと許さない!!」
「気にするな。この女はもう、正気じゃない。よくこんな、訳の解らん事を口走るようになっただけだ。だが、この芸術品は、そうそうお目に掛かれる物じゃない。知っているか?これは絶滅したとされる部族の生き残り、レ・ザンだ。これぞ生きた芸術!金持ちが、挙って欲しがる芸術品だ!!」
「……それで?」
「お前にも、この女を抱く権利を与えよう。好きにして構わない。その代わり、私の敵をその手に掛けてくれ。お前は腕の良い賞金稼ぎだ。金さえ払えば人殺しだろうと何だろうとするのだろう?」
「まぁ、貰える物さえ貰えれば」
「分かっている分かっている。金も好きなだけくれてやるさ。今度、その敵を、我が屋敷に招待するから、それまでこの女を抱いて遊んでいろ。色々と仕込んであるから、お前も存分に楽しむと言い」
ハインは表情を全く変えずに女性を一瞥し、彼女に問う。
「……貴女の仲間はどこにいる?」
「知らないわよそんな事!死んじゃえ!死んじゃえ!!死んじゃえぇっっ!!!皆、皆、みいぃんな彼等に殺されれば良いんだわぁぁっっ!!アハハハハッ、ウフッ、ウフフッ♪彼等が来るわぁ、きっと来る!あたしを殺しに来るんだわぁ♪」
「さすが賞金稼ぎだな、目の付け所が金持ちと同じだ。だが、いくら聞いても無駄だぞ。私も時間を掛けて散々聞いたが、買った時から仲間はいないの一点張りだ。どんな拷問を掛けても何一つ漏らさなかったんだ」
「……そうですか」
「まぁ、元々稀少な部族だ。この女が最後の生き残りと言う事も有り得る。だがな、この女も絶滅したとされている部族だ。居ないとは言い切れないぞ?だから私は諦めない。死ぬまでに絶対、この女以外にも、必ず見付けて見せるさ!」
「はぁ。……見付かりますよ、きっと。死ぬまでには」
ハインは無表情のまま男の言葉に頷いた。
その夜、森の奥深くに隠されているかのような、ひっそりと佇む、城、と言ってもおかしくないその屋敷が、業火の炎に包まれていく。
その屋敷の中で対峙するは、当主の男とハインの二人のみ。
他に生きている者は居なかった。
「お前ぇっ、誰に雇われた!!まさか、あいつか?!あいつなのか!!!」
「貴方の言うあいつが、誰を指すのか知りませんが、わたしは誰かに雇われた訳では有りませんよ」
「噓を言うな!!雇われていないなら、何故このような凶行に及ぶ?!?」
「先程、地下の彼女に会って来ました。この手で殺す為に」
「?!!」
「彼女は言っていた。彼等に殺されると。彼等が来ると。……ヴァインガー、それはわたしの事ですよ」
「?!?」
ハインは得物の刃物で、男の心臓を一突きにする。
「ああ。死ぬまでに見付けるのでしたね、彼女の仲間を。安心して眠って下さい。わたしが彼女の仲間の一人なので、貴方はちゃんと出会ってますよ」
ハインは事切れた男の死体から刃物を抜き取り、最後に見た彼女との邂逅に思いを馳せる。
彼女は最初、ぼんやりとハインを見返していた。
ハインが誰かも解らずに。
そして、ハインは彼女に声を掛ける。彼女の腕に刻まれた花の名である彼女の名を。
「ルベラティア。望み通り、貴女を殺しに来ましたよ」
ハインの言葉にルベラティアと呼ばれた女が反応する。
「貴方は、だあれ?」
「貴女と同じ、ヴァンガルー族のヴァインガー。ハインと言います」
彼女は大きく目を見開き、驚いた顔をする。それもそうだろう。
元々ヴァンガルー族は、北の厳しい山奥、他部族が来れないような、険しい場所に集落を構えているのだ。
それなのに、こんな場所に、彼女が本気で望む相手が現れるなんて、望んでいた彼女自身、全く信じていなかったのだから。
だからこそ、ハインはその証拠を見せる。右腕に隠す、ヴァインガーである証を。正統な赤い弓矢の、息を吞む程に美しい刺青を。
そして、ハインは彼女の心臓に刃物を突き立てる。
「ハイン……そう……貴女は……ハインリッシュ、なの、ね……」
急所の一突きだから、苦しみも痛みも女は感じなかった。ただ、ハインにこれだけは伝えたいと、口を開く。
「あ、りが……とぅ……」
女は笑顔で微笑んでいた。晴れ晴れと、本当に嬉しそうに。
その時、この屋敷に来て、ハインは初めて顔を歪ませたが、それも一瞬の事だった。
そしてその後、ハインは地下に油を撒き、遺体に火を付け屋敷に火が回り切る前に、屋敷にいた者達を全員、次々に殺めて行き、最後に残った当主をその手に掛けたのだった。
「貴女の魂に安らぎ有れ」
燃え盛る屋敷を背に、ハインは静かにその場を去った。
ヴァインガー。
それは、ヴァンガルーと呼ばれる部族の守護者にして、狩人の異名を持つ血族の末裔。その正統なる血族は、赤い弓矢をその右腕に刻み、部族の敵を狩る者なり。
その刺青の美しさに魅了された、他部族の人間による人狩りが横行され、人が住むには困難な山奥へと北上して行くが、人狩りによって次々と殺され、このままでは滅ぶと反撃に出た男の子孫であり、今現在も脈々と受け継がれるヴァンガルー族の守護者。
一族の敵か味方かの判断を委ねられ、他部族のみならず同じ一族であっても、一族に害を与える人間は、狩る事の出来る存在。
元はレ・ザン、放牧民族だった為、部族名がレ・ザンだと勘違いする者が多いが、滅亡したとされる、幻の一族だ。
その女性は麻薬漬けにされ、ボロ布を纏い、逃げ出せないようにと片足を砕かれたのだろう、足が明らかにおかしな方向を向いている。
ただ、剥き出しになったその左の腕には、芸術的な実写さながらの、とても美しい花の刺青が彫られていた。
「ウフフッ……貴方も、きっと殺されるわぁ!あたしを殺しにヴァインガーが来る!!そうなれば、ここの皆は皆殺しよ!あたしをこんな目に合わせた貴方達を、彼等はきっと許さない!!」
「気にするな。この女はもう、正気じゃない。よくこんな、訳の解らん事を口走るようになっただけだ。だが、この芸術品は、そうそうお目に掛かれる物じゃない。知っているか?これは絶滅したとされる部族の生き残り、レ・ザンだ。これぞ生きた芸術!金持ちが、挙って欲しがる芸術品だ!!」
「……それで?」
「お前にも、この女を抱く権利を与えよう。好きにして構わない。その代わり、私の敵をその手に掛けてくれ。お前は腕の良い賞金稼ぎだ。金さえ払えば人殺しだろうと何だろうとするのだろう?」
「まぁ、貰える物さえ貰えれば」
「分かっている分かっている。金も好きなだけくれてやるさ。今度、その敵を、我が屋敷に招待するから、それまでこの女を抱いて遊んでいろ。色々と仕込んであるから、お前も存分に楽しむと言い」
ハインは表情を全く変えずに女性を一瞥し、彼女に問う。
「……貴女の仲間はどこにいる?」
「知らないわよそんな事!死んじゃえ!死んじゃえ!!死んじゃえぇっっ!!!皆、皆、みいぃんな彼等に殺されれば良いんだわぁぁっっ!!アハハハハッ、ウフッ、ウフフッ♪彼等が来るわぁ、きっと来る!あたしを殺しに来るんだわぁ♪」
「さすが賞金稼ぎだな、目の付け所が金持ちと同じだ。だが、いくら聞いても無駄だぞ。私も時間を掛けて散々聞いたが、買った時から仲間はいないの一点張りだ。どんな拷問を掛けても何一つ漏らさなかったんだ」
「……そうですか」
「まぁ、元々稀少な部族だ。この女が最後の生き残りと言う事も有り得る。だがな、この女も絶滅したとされている部族だ。居ないとは言い切れないぞ?だから私は諦めない。死ぬまでに絶対、この女以外にも、必ず見付けて見せるさ!」
「はぁ。……見付かりますよ、きっと。死ぬまでには」
ハインは無表情のまま男の言葉に頷いた。
その夜、森の奥深くに隠されているかのような、ひっそりと佇む、城、と言ってもおかしくないその屋敷が、業火の炎に包まれていく。
その屋敷の中で対峙するは、当主の男とハインの二人のみ。
他に生きている者は居なかった。
「お前ぇっ、誰に雇われた!!まさか、あいつか?!あいつなのか!!!」
「貴方の言うあいつが、誰を指すのか知りませんが、わたしは誰かに雇われた訳では有りませんよ」
「噓を言うな!!雇われていないなら、何故このような凶行に及ぶ?!?」
「先程、地下の彼女に会って来ました。この手で殺す為に」
「?!!」
「彼女は言っていた。彼等に殺されると。彼等が来ると。……ヴァインガー、それはわたしの事ですよ」
「?!?」
ハインは得物の刃物で、男の心臓を一突きにする。
「ああ。死ぬまでに見付けるのでしたね、彼女の仲間を。安心して眠って下さい。わたしが彼女の仲間の一人なので、貴方はちゃんと出会ってますよ」
ハインは事切れた男の死体から刃物を抜き取り、最後に見た彼女との邂逅に思いを馳せる。
彼女は最初、ぼんやりとハインを見返していた。
ハインが誰かも解らずに。
そして、ハインは彼女に声を掛ける。彼女の腕に刻まれた花の名である彼女の名を。
「ルベラティア。望み通り、貴女を殺しに来ましたよ」
ハインの言葉にルベラティアと呼ばれた女が反応する。
「貴方は、だあれ?」
「貴女と同じ、ヴァンガルー族のヴァインガー。ハインと言います」
彼女は大きく目を見開き、驚いた顔をする。それもそうだろう。
元々ヴァンガルー族は、北の厳しい山奥、他部族が来れないような、険しい場所に集落を構えているのだ。
それなのに、こんな場所に、彼女が本気で望む相手が現れるなんて、望んでいた彼女自身、全く信じていなかったのだから。
だからこそ、ハインはその証拠を見せる。右腕に隠す、ヴァインガーである証を。正統な赤い弓矢の、息を吞む程に美しい刺青を。
そして、ハインは彼女の心臓に刃物を突き立てる。
「ハイン……そう……貴女は……ハインリッシュ、なの、ね……」
急所の一突きだから、苦しみも痛みも女は感じなかった。ただ、ハインにこれだけは伝えたいと、口を開く。
「あ、りが……とぅ……」
女は笑顔で微笑んでいた。晴れ晴れと、本当に嬉しそうに。
その時、この屋敷に来て、ハインは初めて顔を歪ませたが、それも一瞬の事だった。
そしてその後、ハインは地下に油を撒き、遺体に火を付け屋敷に火が回り切る前に、屋敷にいた者達を全員、次々に殺めて行き、最後に残った当主をその手に掛けたのだった。
「貴女の魂に安らぎ有れ」
燃え盛る屋敷を背に、ハインは静かにその場を去った。
ヴァインガー。
それは、ヴァンガルーと呼ばれる部族の守護者にして、狩人の異名を持つ血族の末裔。その正統なる血族は、赤い弓矢をその右腕に刻み、部族の敵を狩る者なり。
その刺青の美しさに魅了された、他部族の人間による人狩りが横行され、人が住むには困難な山奥へと北上して行くが、人狩りによって次々と殺され、このままでは滅ぶと反撃に出た男の子孫であり、今現在も脈々と受け継がれるヴァンガルー族の守護者。
一族の敵か味方かの判断を委ねられ、他部族のみならず同じ一族であっても、一族に害を与える人間は、狩る事の出来る存在。
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