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本編

13 他人を思いやる心 (クラウス視点)

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(ハインの言葉の端々に、これまでの生活が、どれ程劣悪なのかを見せ付けられた気分になっていたが、本当に、こいつと言う奴は……)

 戦場に、邪道や正道なんて無く、有るのは生死の境だけだと言い切ったハインに、クラウスは思った。

 そうでもしなければ生きて行けなかったのかと。

 遣る瀬無い気持ちが只管ひたすら積もるものの、唯一の救いは、ハインが生き延び続けていたと言う事だけ。

 理不尽な扱いに慣れ過ぎた所為か、無愛想で表情が乏しく、それが当たり前になっているハイン。

 こうなる要因を作った馬鹿者共を、一度、全員シメてやりたいと、殺気すら抱きそうになったクラウスは、隊員達の居た前では、態と話を終らせた。

 そうしなくては、やり場の無い怒りを、ハインに向けてしまいそうになったから。

 ハインは全く悪く無い。

 悪いのは、ハインに対し、そんな対応しかしなかった連中共だ。

 ハインは広い、と言ったが、ここはそれ程広いとは言えない。

 強いて言えば、宿屋の一室と同じような物だと言って良いぐらいの広さなのだ。

 それなのに。

『隊長はどこで寝るんですか?』と、ハインは無表情のまま、首を傾げて聞いてきた。

 これまでのハインの言葉の数々に、一々衝撃を受けなければならないクラウスは、怒りを通り越して、呆れながらも、クラウス他人を思いやるハインに対し、理不尽な、不当な扱いを受けていたと言うのに、初対面とも言える他人を気遣うなんて、こんな奴もいるんだなと、思わず感心してしまったのだ。


「心配するな。隣の部屋にもベッドは有る。用が有る時は、そこに有る扉をノックしろ。俺も、ハインに用が有る時はそうするから。言ったろう、ここはお前の部屋だ。遠慮無く好きに使え」


 そう断言するクラウスの前で、ハインは無表情ながらも戸惑っているようだ。

 まだまだハインが慣れるのに、時間が掛かりそうだなと、クラウスは思ったのだが。


「……どうして?どうしてこんなにも、良くしてくれるんですか?」


 本当に不思議そうに、無表情のまま、ハインはクラウスを見詰める。


「言っただろう。俺はお前の指導者で、監視役になると。これから行動を共にする部下を、世話しないでどうする」

「でも……それこそ隊長自らが、する必要は、無い筈です。なのに……どうしてそんなにも優しいんですか?」


(優しい。ハインにとっては、この程度で優しいのか。本当……今までこいつが出会って来た奴等を、絞め殺してやりたくなる……)

 クラウスは必死で仄暗い思いを抑え込んだ。
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