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本編

48 ゼクトとの手合わせ

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 ハインの催促により、ゼクトはハインと手合わせをする。

 ゼクトはイージーやクラウスと違う基礎を習っている為、本来この国の者からすれば、非常にやり難い相手と言える。

 ゼクトは、他国に嫁いだこの国の貴族令嬢の息子で有り、幼少期は他国で暮らして居たのだが、両親が事故に遭い死亡。

 この国の祖父に引き取られたが、その頃には既に父親の国の基礎が身に付いていたのだ。

 因みにゼクトの容姿は、父親から色合いを引き継いだので、この国にはあまり居ない色合いなのだ。

 ただ、ハインにとっては、どんな基礎だろうと関係無く、相手の動きを先読みしている為、一対一だと相手の攻撃を悉く阻止出来るのだ。

 当然ゼクトとの手合わせも、ハインは難無く先読みし、対処した。


「さすがとしか、言いようが無いな。その剣が多少の重石になるかと思ったが、全く問題無いようだ」

「はぁ」


 ゼクトにそう言われるものの、ハインの速さは本来の武器と比べると、明らかに遅く、充分に重石としての役割を果たしているのだが、本来の武器となる得物の存在を知らず、剣が主流と思い込まれているので、そう思われても仕方が無いのだが、ハインは本来、剣が主流では無い事や、本来の得物で有る武器をちゃんと携帯している事実を黙っている。

 喩え味方であろうと、手札を多く隠し持って居る事が普通であり、敵に情報が漏れる事も少なく、戦いで有利になる事が多いからだ。

 その為賞金稼ぎや傭兵は、戦闘時に手札を見せる事は有っても、練習試合と言った訓練の段階では、極力手数を晒さずに戦うのが通常である。

 勿論、実力の有る者達しか出来ない話では有るが。


「次、お願いします」


 ハインは二回戦を終えても平然と言うが、さすがにクラウスは首を横に振った。


「俺との手合わせは、明日以降だ。無制限の一本勝負なんてすれば、今からどれ程の時間が掛かるか、予想も付かないからな。今日の所はこれで終わろう。馴れない環境に疲れた筈だ。浴場が有るから入りに行くぞ」


 クラウスのその言葉を聞いて、ハインはクラウスに誤解されているような気はするものの、よく有る事、いつもの事なので、訂正せずにそのまま流した。


「……すみません。お気持ちは嬉しいのですが、わたしは浴場に入れません」

「入れない?」

「その……わたしの身体には、見られたくない傷痕や……刺青がーー」


 ハインは性別を語る事無く、無表情ながらも、普段より若干声を低めて事実を告げた。
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