ヴァインガー ~過去と未来を結ぶ絆~

カザハナ

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本編

50 ハインの得物

 浴場の使い方を教えて貰い、一人で入る際に、念の為扉が開かないように、首に巻いているタイで、扉の持ち手を括って固定する。

 これで少しの時間稼ぎにはなるだろう。

 外で待たれているので、ゆっくりなんて入っていられないとは思うものの、久し振りの湯だ。嬉しくない訳は無い。

 手早く身体を洗い、湯を使う。


「あの……お先に有難うございました」

「何だ、もう出たのか。俺達の事は気にせず、もっとゆっくり浸かっていても良いんだぞ?」


 クラウスはそう言うが、ハインからすれば、ゆっくりする訳にはいかないので、これで充分ですと言って置く。

 クラウスは、先に汗を流して来いとイージーとゼクトに言い、二人が出て来た後に交替で入り、ハインに与えた部屋へと向かう。


「今日はこのまま休んで良いぞ。慣れない環境で疲れただろう?明日は早いから、今の内に確りと休んで置け」

「はぁ」


 ハインは素直に頷くが、精神的には疲れたものの、身体的にはそれ程疲れてはいないので、部屋で剣を含めた得物の手入れをして、ある程度の時間を費やしたのだった。





    翌朝目を覚まし、周囲の家具を傷付けないよう気を付けながら、音を立てないように、身体を動かす。

 と言っても、本来ハインの得物は剣では無いので、細かい動作の確認作業と言った物に近い感じの動きだ。

 本格的に動くので有れば、野外の方が良いのも有る。

 暫くそうしていると、隣の部屋で人の動く気配を感じたので、ハインは剣を持ったままベッドに腰掛けていると、少し経ってクラウスの部屋との間に有る扉がノックされる。


「ハイン、起きてるか?」

「はい。もう準備は出来てますので、いつでも部屋を空けられます」

「そうか。じゃあ、部屋を出るぞ」


 コートは羽織らずに、見た目は何の変哲も無い、特殊な作りをした厚手のジャケット姿で廊下に出る。

 これは昨日も着ていた物だが、コートを脱ぐと見える場所、足の太股部分に本来の得物を装着していたので、コートを脱がなかったのだ。

 今は背中で交差させ、ジャケットを羽織り、完全に見えなくしている状態だ。

 因みにハインの得物は、ハインの部族ヴァンガルー族でのみ使用されている、ガルクーンと呼ばれている万能刀で、ヴァインガーのみが二刀を持つが、形状は、サバイバルナイフと呼ばれる物が一番近い部類だろう。

 ヴァンガルー族の刃物は、ヴァンガルー族しか知らないオルクルと呼ばれる特殊な鉱物が使用され、鉄よりも硬く、鋭く、とても軽く、ある程度の柔軟性も有り薄いが、手入れを怠ると、紙すら切れなくなる程切れ味が鈍くなり、その軽さからも粗悪品や飾り物だと誤解される事も多い。

 手入れを怠った所で強度は変わらず、手入れをし直せば切れ味も元に戻る優れ物なので、ヴァインガーの持っている刃物は更に強度が増すように作られている。

 そして、ガルクーン同様に使いこなしてしているのは、ハインの部族でシークーンと呼ばれる小刀だ。

 シークーンには、ハインの部族が多用する猛毒が塗られている物も有り、ハインの着るジャケットや靴、ハインが荷物の中に入れてる矢筒にも仕込まれていたりする。

 シークーンは、ジャケットに計6本、靴に4本、荷物に入った矢筒に1本仕込まれていて、それを手入れ交換する為の予備が同数、ハインの部族特有の飾り紐で縛って有る。

 荷物の口紐もそうだが、この飾り紐の結び方も特殊で、解き方を知らない者が解こうとすると、逆に固く絞まっていき、結び方や解き方を、一度や二度見た程度では、到底理解出来ない上に、結び方も多数有るのだ。

 元々ヴァインガー、狩人は長剣を使う訓練は受けていない。森や木の多い場所での狩りが主だからだ。

 その為、ヴァインガーを名乗る者達の得物の大半は、ガルクーンとシークーン、それと弓矢だったりするのだ。

 ハインが普段使用する長剣は、ヴァンガルー族の集落から離れ、他所で手に入れた物だから、ハインの本来の動きやスピードを落とすだけの物にしかならない事は、当然の事だと言えるだろう。
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