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本編
56 男の正体
そんな事、ハインは当然知る由も無い。
「いいえ」
「俺はこの女の婚約者だ!その俺が、この女に手を出して何が悪い?!」
男の言葉に、ハインは女へと目を向ける。
「……婚約者候補、と言うだけで、まだ正式な婚約者では有りません」
震えながらも、必死でハインに訴える女に対して、男は嘲る。
「ああ、そうだ。だが、純潔を穢せばお前は他の男に嫁げなくなる!親姉兄に言えるか?俺に穢されたと。言おうが言うまいが、どの道結局は俺の物になるしかないのさ!」
男はハインの方を振り向き、その見た目に驚きはするものの、それでも男だと、ある提案を持ち掛ける。
「おい、小僧。俺に手を貸せば、それ相応の褒美を取らすぞ。何なら俺がこの女を抱いた後、この女を回してやる」
男の言葉に、女が更なる恐怖を抱き、恐る恐るハインを見ていると、ハインは男の首筋から剣を下す。
その様子に男が会心の笑みを浮かべ、姫と思しき女が青ざめる。
ドスッ!!
ハインの放った膝蹴りが、男の鳩尾へと見事に決まった。
男が軽く後ろに吹っ飛び、苦悶する中、ハインが先程と同様、冷たく冴えた声音で言葉を発する。
「貴方が誰であろうとわたしには関係無い。わたしの仕事は不審者を排除し、姫君を守る事。姫がわたしに助けを求めるなら、わたしはそれに応えるだけです」
剣の切っ先を再び男に向け、姫であろう女の前、彼女が男の姿を見ずに済む位置へと移動し、立ち塞がるハイン。
「もうじきここに、知らせを受けた方々が駆け付けて来るでしょう。大事になる前に、早くここから立ち去るのが賢明だと思いますよ?」
「くそっ!」
男が悪態を吐き、激痛に耐えながらも部屋から逃げ出すのを見届け、気配が遠ざかってから剣を鞘へと戻すハイン。
そして、気が抜けたであろう座り込んでいた状態の女へと向き直り、視線を合わせる為に膝を折る。
「姫君、ですよね?わたしはハイン。つい先日、王子直属近衛騎士、クラウス=ジェイド隊長の下に見習いとして入った者です」
「……クラウスの?」
震える声で、どうにか声を出す女。
顔は青ざめ、恐怖で全身を震えさせているが、その容貌は可憐で清楚な花そのもの。
その瞳には、未だに怯えの色が濃く残るが、ハインはその瞳に既視感を覚える。
ふと、頭に浮かんだ顔は、聡い娘のベルベッシュ。
ハインの最愛の家族の一員であり、七つ違いの妹だ。
(そうか……。外見や色合い、年齢は全く違うけど、ベルの醸し出す雰囲気と似てるんだ)
そう思い至った途端、思わず笑みが零れるが、ハイン自身に自覚は無い。
それ程に僅かな笑みで、よく見ていなければ気付かれない程の笑みだった。
「いいえ」
「俺はこの女の婚約者だ!その俺が、この女に手を出して何が悪い?!」
男の言葉に、ハインは女へと目を向ける。
「……婚約者候補、と言うだけで、まだ正式な婚約者では有りません」
震えながらも、必死でハインに訴える女に対して、男は嘲る。
「ああ、そうだ。だが、純潔を穢せばお前は他の男に嫁げなくなる!親姉兄に言えるか?俺に穢されたと。言おうが言うまいが、どの道結局は俺の物になるしかないのさ!」
男はハインの方を振り向き、その見た目に驚きはするものの、それでも男だと、ある提案を持ち掛ける。
「おい、小僧。俺に手を貸せば、それ相応の褒美を取らすぞ。何なら俺がこの女を抱いた後、この女を回してやる」
男の言葉に、女が更なる恐怖を抱き、恐る恐るハインを見ていると、ハインは男の首筋から剣を下す。
その様子に男が会心の笑みを浮かべ、姫と思しき女が青ざめる。
ドスッ!!
ハインの放った膝蹴りが、男の鳩尾へと見事に決まった。
男が軽く後ろに吹っ飛び、苦悶する中、ハインが先程と同様、冷たく冴えた声音で言葉を発する。
「貴方が誰であろうとわたしには関係無い。わたしの仕事は不審者を排除し、姫君を守る事。姫がわたしに助けを求めるなら、わたしはそれに応えるだけです」
剣の切っ先を再び男に向け、姫であろう女の前、彼女が男の姿を見ずに済む位置へと移動し、立ち塞がるハイン。
「もうじきここに、知らせを受けた方々が駆け付けて来るでしょう。大事になる前に、早くここから立ち去るのが賢明だと思いますよ?」
「くそっ!」
男が悪態を吐き、激痛に耐えながらも部屋から逃げ出すのを見届け、気配が遠ざかってから剣を鞘へと戻すハイン。
そして、気が抜けたであろう座り込んでいた状態の女へと向き直り、視線を合わせる為に膝を折る。
「姫君、ですよね?わたしはハイン。つい先日、王子直属近衛騎士、クラウス=ジェイド隊長の下に見習いとして入った者です」
「……クラウスの?」
震える声で、どうにか声を出す女。
顔は青ざめ、恐怖で全身を震えさせているが、その容貌は可憐で清楚な花そのもの。
その瞳には、未だに怯えの色が濃く残るが、ハインはその瞳に既視感を覚える。
ふと、頭に浮かんだ顔は、聡い娘のベルベッシュ。
ハインの最愛の家族の一員であり、七つ違いの妹だ。
(そうか……。外見や色合い、年齢は全く違うけど、ベルの醸し出す雰囲気と似てるんだ)
そう思い至った途端、思わず笑みが零れるが、ハイン自身に自覚は無い。
それ程に僅かな笑みで、よく見ていなければ気付かれない程の笑みだった。
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