上 下
60 / 85
本編

58 王子との初顔合わせ

しおりを挟む
 ハインは必ず守ると言い切り、音のする方へと顔を向け、少し目を細めながら時を待つ。

 ルナルティーザの背後に回していた手に、常に隠し持っている小刀シークーンを握る。と同時に、一人の男が息を切らせながら、部屋の中へと駆け込んで来た。


「兄様……」


(これが王子……)

 ルナルティーザの呟きに、持っていた小刀を元の場所へと隠すハイン。

 ルナルティーザを抱き締めている格好のハインを認識した王子は、妹が襲われていると思い込み、ハインに激昂し、掴み掛かる。


「貴様ぁっっ!!」


 ハインはされるがまま、ルナルティーザから引き離され、そこに遅れてクラウスが到着する。

 王子が腕を振り上げるのを見て、止めに入ろうとするが間に合わない。


「まっ……止めろ!ウィン!!」


 ガッ!!


 ハインは無抵抗のまま、王子に顔を殴らせる。

 その後直ぐにクラウスが王子を羽交い締めにするが、王子の怒りは治まる筈も無く暴れ出す。


「離せっ!殺してやるっっ!!」

「ちょっと待てっ!取り敢えず落ち着けっっ!!」

「これが落ち着いていられるか!!!」


 思わず、事態の成り行きに付いていけなかったルナルティーザが我に返り、ハインへと駆け寄り、その腕を取る。


「庇えずにいて、申し訳御座いません!」


 ルナルティーザの言動に王子は驚くが、それでも、誤解したままだった王子の怒りは増すばかり。


「ルナ!そいつから離れろ!!」


 王子の言葉に振り返り、ルナルティーザが言葉を放つ。


「兄様の誤解です!この方はわたくしを救って下さったの!わたくしっ……わた、くし……」


 ルナルティーザは誤解されたハインの為に、何が有ったのかを言おうとするが、思い出すだけで震えが止まらず、喉が凍り付いたかのように声が出なくなる。

 その様子にハインは、掴まれた方とは逆の手で、ルナルティーザの手を励ますように優しく摩る。

 妹の異常な雰囲気と、それに対応する無表情のハインを見据え、冷静にならなくてはと、何とか怒りを押し込み、暴れるのを止める。

 王子の抵抗が無くなり、必死で冷静になろうとしている事を理解したクラウスは、王子の拘束を緩める。

 ただし、見せ掛けでは困るので、完全に解く事はしない。


「落ち着いたな?」

「……ああ。何とかな」


 王子は深呼吸をして、ハインに声を掛ける。

「何が有ったのか、説明しろ」


 だが、ハインは答えない。

 一人分の、音と気配が近付いて来ていたからだった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

嫌われ貧乏令嬢と冷酷将軍

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:400

顔も知らない旦那さま

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:324

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:22,409pt お気に入り:269

「サヨナラを大好きな君にあげるから」

キャラ文芸 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:98

【R18】嫌いになりたい、だけなのに

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:10,702pt お気に入り:196

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,040pt お気に入り:5,287

クズ野郎のマイナススタート復縁記〜前日譚〜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:1

処理中です...