ヴァインガー ~過去と未来を結ぶ絆~

カザハナ

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本編

81 納得出来る理由

「姫君の専属?……わっ、わたしがですか?!」

「護衛や警備なら何も問題無いですが、さすがにわたしや他の隊員が、姫君の着替えや身の回りの世話をするのは、無理が有りますから」


 ハインは無表情で言い切る。

(普通の服とかなら、妹達の着替えを手伝ったりしてたから出来るだろうけど、さすがにドレスは無理だから)

 そもそも性別自体を間違われてるのだから、ハインに頼まれる事は無いだろう。

 ハイン自身は性別を隠している訳では無いが、毎回訂正するのも面倒だと思っているし、女と知られれば首にされたり、態度を変えられたりとしてきたので、気付かれなければそれで良いとすら思っている。

 そんなハインの言葉で、男性が姫様の世話をするのは駄目だとシェリルは納得出来るが、元々他の貴族や令嬢達に目を付けられたく無かった為の下働きだったのだ。

 それがルナルティーザの専属となれば、妬みや逆恨みをされそうで怖いと思うのは仕方無い事だが、シェリルにこの話を断る勇気は当然無い。

 ただ、仕える事になるルナルティーザの事を、シェリルは何も知らない。

 姉姫の事はよく耳にしていたが、妹姫の噂は、病弱な引き籠りとしか聴いた事しか無いのだ。

 シェリルはセカンドネームを持つ古参の貴族家系に当たるが、田舎とも呼べる長閑な領地なので、昔から領民との距離が近く、お人好しな父親が他の貴族に騙され、借金を抱える羽目になり、その借金を工面する為仕事を探しに王都に出て来て、偶々お触書を見て、下働きの使用人として働き出した経緯が有る。

 父親には物凄く謝られたが、父親のお人好しな所は今に始まった事では無いからと割り切っているシェリルは、他国に留学中の兄に、手紙だけは出しておいた。

 兄が帰って来るまでに家を潰す訳にはいかないからと。


「細かな交渉はわたしでは無理ですが、多少の融通は聞いて貰えるかと。それに姫君は、わたしのような平民にも、愛称で呼んでも良いと言われる気さくで優しい方なので、心配する事は無いかと思います。なので、引き受けて頂けませんか?」


 ハインはそう言うが、シェリルには少し懸念する理由が有る。

 妹姫の近衛騎士が『護り甲斐の無い姫だ』と、愚痴を言っていたのを耳にした事が有るからだ。


「……分かりました。お引き受け致します。ですがその……姫様の好みも何も分からないので、色々と教えて頂けますでしょうか?」

「ああ。それならここに居る、ルナ姫本人から直接聞けば良いかと。人伝よりも確実ですし、その方がルナ姫本人も喜ばれますよ」


 ハインがルナルティーザに視線を向けると、意図を察したルナルティーザがハインに近寄る。


「貴族の方ならばご存知かと思いますが、わたくし、ルナルティーザ=ルール=ステラと申します。どうぞ、ルナとお呼び下さい。この度、わたくしの侍女を引き受けて下さり、誠に有難う御座います。至らぬ所も有りますが、どうぞ宜しくお願い致します」


 シェリルはルナルティーザの丁寧過ぎる挨拶と穏やかな笑顔に驚く。

 我儘だろうと文句は言えない立場だと思っていたからだ。

 そして、よくよく見れば、この場に居るのは王子の近衛騎士のみで、本来居る筈の妹姫の近衛騎士は見当たらない。

 それは詰まり、姫を護るべき近衛騎士達も、内通者の疑いを掛けられていると言う事だとシェリルは理解した。
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