ヴァインガー ~過去と未来を結ぶ絆~

カザハナ

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本編

82 小さな要望

 こうしてシェリルはルナルティーザの専属侍女として雇用契約を結び、その日からルナルティーザに付き添い、周囲の人に色々教わりながら仕事をこなしていく。

 馴れない仕事で大変では有るが、ルナルティーザは大人しく、大した手間の掛からない主人だ。

 現在、ウィンザックスの近衛騎士達がルナルティーザの近衛も兼任していて、クラウスやハイン、副隊長の二人が護衛として傍に居る事が多く、緊張は大いにするが、一般人だと言っていたハインも居る為、話し掛け易い事だろう。

 元々ルナルティーザは部屋に籠りがちだが、庭に散歩に行きたいと言っても、前の近衛隊長が『あまり仕事を増やさないで下さい』と、小言のように言うので、部屋から眺める事が多く、余計に部屋から出なくなってしまっていたのだが、クラウスが兼任するようになると、久し振りに外……と言っても庭にだが、出てみたくなり、クラウスに声を掛ける。


「あの……クラウスお兄様。お仕事を増やしてしまいますが、少しだけ、庭を散歩しても宜しいでしょうか?」

「それぐらい、良いに決まってる」


 クラウスの言葉にホッとするルナルティーザ。

 そんな姿のルナルティーザを見て、ハインがルナルティーザに話し掛ける。


「少し良いですか?」

「ええ」


 ハインは一応クラウスにも視線を向けて、クラウスが頷くのを確認した後に、話し出す。

「ルナ姫、外に行きたいと言うのなら、周辺警戒や警備上で時間が掛かるでしょうが、自邸……姫の場合はこの城ですが、この城や城の敷地内の散策程度なら、仕事を増やした内には入りませんよ。それで増えたと言う者が居たら、単にその者の力量が無いだけです」


 無表情で言い切るハインにルナルティーザはキョトンとする。


「ですが、ガースは……」


 前の近衛隊長は、仕事が増えると嫌な顔でも見せていたのだろう。

 ハインは心の中で、あの無能がと言葉を吐き、念押しとばかりに言葉を繰り返し、説明もする事にした。


「力量が無いだけです。雇われ者の身で有れば、護衛対象からの希望や要望に応える努力をするのは当然ですし、しないのは怠慢です。そもそもあれ・・は、雇われ者としては論外です。どこからお金が出ていたのかは、わたしには知り得ない事ですが、お金を貰っている以上、実現不可能な事で無い限りは、護衛対象の要望には極力応えるべきで、出来ないと言う事は無能を晒す事と同意です。仕事の数が増えれば増える程、それを処理する数が多ければ多い程、有能と言えるんです。ですので、要望は沢山出して、わたし達の能力を向上させる機会を増やして下さい」


 普段、自分からは滅多に喋らないハインが、無表情のまま、捲し立てるように言う。

 その姿に少し驚きつつも、ルナルティーザは素直に頷く。

 それを見たハインは、良くできましたとばかりに微笑み、それを真正面から見たルナルティーザは頬を少し赤く染め、照れた。
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