氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
231 / 805
本編

179

しおりを挟む
 リラ達が王宮に滞在したその夜、王妃の部屋の前に二人いる近衛の内の一人の腹の具合がおかしいと、その場を離れた隙を見計らい、もう一人の近衛を誘き寄せる為に、侍女が大声を上げて注意を引き寄せる。


「何事だ?!!」

「あれっ、あれぇっっ!!!」


 駆け付けた近衛に侍女は、前持って用意していた蛇に怯えた振りをして、王妃の部屋の扉から、近衛を退ける事に成功する。

 実は、もう一人の近衛に、下剤をこっそりと混ぜた物を飲ませていたのだ。

 侍女が近衛を引き付けている間に、隠れ潜んでいた貴族の男が、王妃の部屋に侵入する。王妃の部屋に侍女はいない。今日の夜勤当番は、手引きした侍女だからだ。

 近衛が蛇を排除するのを見届け、侍女はお礼を言い、王妃の部屋の中へと戻る。

 時折王妃に頼まれたからと言って、本を返しに行く事が有るので、それを利用し、外へ出て、男を手引きし連れて来ていたのだ。

 そうして時間差で王妃の部屋に入り、一人愉悦に浸る。

 今頃王妃は寝室で、男に組み敷かれているに違いないと。

 どうせなら、あの幸せ一杯のポヤポヤした顔が、恐怖と絶望に歪む様を、じっくり見てやりたいと、王妃の寝室へと向かう。

 きっとあの王妃は、何故こんな目に合っているのかも分からないだろう。

 可愛くて綺麗な王妃様。誰にでも優しく、幸せ一杯の王妃様。でも、そんな王妃が他の男に何度も抱かれたと知ったら、陛下の寵愛は消え失せる筈だ。今夜は始まりに過ぎないのだから。

 恨みなんて無いけれど、あのポヤポヤした顔を見ているだけでムカつくのだ。

 幸せに育っただけの頭の軽い女。まるで、その地位は、初めから自分に決まっていたかのように振る舞う女。だから、何としても、その位置から引き摺り下ろしたくなった。

 大丈夫。陛下をお慰めするのは、貴女じゃなくても出来るのよと、そんな思いで王妃の寝室の扉を開ける。

 あの男が王妃を組み敷き、王妃を犯している姿を想像しながら。

 だが、そこにるのは侍女が想像した物とは全く異なっていた。


「何で……何でここに?!?」


 侍女が扉を開け一歩入った瞬間、侍女は床に倒され、背中を押さえ付けられて動けない状態だ。

 何をされたのか分からないまま、上を見上げれば、そこには今日から昼の護衛に付くと言っていた護衛と、今日入った追加の侍女達。


「何で……って、それはこっちが聞きてぇな。何で王妃様の寝室に、こんな男が入り込めたんだ?それに、呼ばれもしてねぇのに何でここに入った?」


 返事をしたのはダンだが、侍女を手早く後ろ手で拘束したのはルネだ。


「言いたくなけりゃ、言わなくても良いぞ。どうせあんたは国賊として、確実に娼館に送られるからな」

「……はぁあ?!何よ!それっ!!?」

「当然だろ?王妃様が他の男と不義密通してました。だけで済むと思ってたのか?もしもこれが成功してたって、この男だけでなく、お前等侍女や近衛、全員の首が飛ぶだけだ」

「当然でしょう?王妃様に何か有った場合、その責任は、王妃様付きに当たる者達、全ての責任なのだから」


 そんな事すら分からなかったのかと、その場にこっそり隠れ潜んでいたアナスタシアと、エヴァンス家の者達は、呆れた視線で侍女を見下げた。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...