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本編

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 日が暮れ、晩餐の時間になる少し前。時間としてはキルロスが馬車に連れ込まれて二時間程と言った所か。

 サロンにキルロス夫婦が顔を出し、アンナから丁寧な謝罪、そして、キルロス本人からは膝を付き、頭を地面に擦り付けると言う、所謂いわゆる土下座が行われた。

 因みに、ディーランでは奴隷制度は無いが、他の奴隷制度が有る国では、大概奴隷が、主人に許しを請う時の謝罪方法として知られている謝罪方法だ。


「あら、アンナちゃんってばさすがだわ。よくこのキルロスをここまで制御出来たわね」

「クルルフォーン公爵が、どういう立場の方なのか、確りと言い聞かせてみせましたわ。これで解らなければ、離縁して、立派な父親になれそうな方と再婚します、と言って置きました。わたくし同様、キルロス様が好きな息子も、理由を言えば納得し、新しい父親になつこうとするでしょう」

「本当にすみませんでした!だからお願い!!捨てないで、アンナぁ!!」

「解れば宜しい。ああ、お見苦しい物をお見せして、大変失礼を致しました、クルルフォーン公爵様。ですが、これでこの人も少しはマシになるかと思いますので、わたくしに免じて大目に見て下さいね?」

「ああ、とても確りとした夫人に免じ、今回は大目に見よう。ただし、次に同じような事が有れば、次は容赦しないからそのつもりでいろ」


 言葉の後半を、エドワルドがキルロスに冷たい殺気を向けながら言うと、キルロスは身震いして頭を再度床に擦り付ける。


「そろそろわたくし達は、お暇させて頂きます。クルルフォーン公爵様が滞在中、セイル家のお義父様の所にいますので、リラ様の都合が宜しければ、わたくし一人で訪ねて参りますわ。リラ様、滞在中に都合が良い日は有りますか?」

「明日でも構いませんわ、アンナお姉様」

「そうですか。では、明日の昼過ぎに伺わせて頂きますわ。さぁキルロス様、帰りますわよ」


 アンナはリラに微笑んでから、キルロスを立たせて退出する。


「あんな男が、よくあれ程の女性を捕まえる事が出来たな。世の中は不思議な物だ」


 そんな事を言うエドワルドを、リラは不安気にチラチラ見上げて来る。


「?リラ?何故そんなに不安そうにしているのかな?」

「あの……アンナお姉様は人妻なので、好きになったりしないで下さいね?」


(……この生き物は、どうしてこんなにも可愛い事を言うのかな?)


「大丈夫だよ。私はリラ以外に、異性としての興味は全く無いから。今更、どんな女性が現れようと、私が欲しいのはリラだけだからね」


 その分リラにのみ、たっぷりと執着しているのだから。

 その場にいたリラを除く全員が、心の中でそう呟いたのだった。
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