氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

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本編

311

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キルロス馬鹿は放って置いて大丈夫みたいだね。キルロスの影に入っててこちらからは見えなかったけど、奥方を連れて来てるなら、もう少し発言に気を付ければいい物を。やっぱり馬鹿だよね」

「そもそも、よくあんな馬鹿に、真面そうな奥方が結婚を了承したな」


 エドワルドの疑問にジーンが答える。


「ああ、それ。僕も疑問に思ったので、直接夫人に聞いてみた所、『馬鹿な子程可愛いと言う類いですね』と言っておられましたよ。自分の女性遍歴を、本気で隠し通せていると思い込んでるお馬鹿ですから、キルロスは」


 全部とまではいかないだろうが、キルロスはかなりな噂が蔓延していた女好きだ。キルロス本人は知らなかったようだが、奥方に態々昔の女性がキルロスとの付き合いを仄めかす事とて有ったのだ。

 勿論奥方は一笑に付していたのだが。

 そんな事も有ったとは、全く知らずに過ごしているのだから、馬鹿だとしか言い様が無いだろう。


「それは馬鹿にも程が有るだろう」


 女性の勘は鋭い。特に恋人や伴侶の隠し事等には敏感だ。

 女性を嘗めているのかと疑いたくなる程に。


「取り敢えず、屋敷の中に入りましょうか。どうせキルロスのお説教は時間が掛かると思いますので」


 ジーンの言葉に賛成したエドワルドは、リラに声を掛ける。


「行こうリラ。あれは反省が必要だ」

「はい。キルロスお兄様が失礼な事ばかり言って、申し訳有りませんでした」

「リラの所為では無いのだから、リラが謝る必要は無いよ。いい大人なのだから、自分で謝らなければね」


 エドワルドはリラの手を取りエヴァンス邸へと入って行く。

 サロンに着くと、ジオラルドとリリーがいた。


「お帰りなさい。ごめんなさいねぇエドワルド様。帰って早々、馬鹿な甥が絡みに行ったでしょう?一応お嫁さんに任せたのだけれど、大丈夫だったかしら?」

「ええ。問題有りません。現在夫人が話し中ですから」

「そう。それは良かったわ。馬鹿な甥でごめんなさいね。あそこまで馬鹿なのはセイル家でも珍しいのだけど……」


 リリーは申し訳なさそうに言う。

 確かにセイル家の人間は、脳筋が多い家系だが、女好きでも無ければ、身内の従妹に悪態を吐くような者もいない。

 そもそも、セイル家の人間に、軽薄なタイプは殆どいないから、キルロスみたいなタイプは滅多に生まれてこないのだ。

 そして、キルロスの母であるリリーの義姉も、真面目で謙虚な女性だったりする為、セイル家では皆首を傾げる程に、キルロスの性格はセイル家とは程遠く、珍しい存在だった。
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