605 / 805
後日談
7
しおりを挟む
王都のエヴァンス邸へと到着したのは、日が暮れて、少し経った頃の事。
本来ならばこの時間、ジーンは王宮にいる事が多いのだが、アシュリーが到着する事を前以て知っていたので、仕事を調整し、日暮れ頃に帰宅していたのだ。
馬車の到着を待ちわびていたジーンは、玄関の馬車停めまで出迎える。
外は暗いが、天上の月が周囲を優しく照らし、ジーンの青みの薄い青銀色の髪を輝かせる。
その姿は、月の精霊と見間違われても不思議では無い。
そんなジーンの姿を、馬車の中からステラが気付き、アシュリーに声を掛ける。
「アシュリーお嬢様、若君自らお出迎え下さいましたよ。あのお方が次期当主のジーン様です」
アシュリーがステラの言葉で馬車の外に視線を向けると、息を呑む程に美しく、思わず人なのか?と、疑いたくなるような美貌の男性がいた。
しかも、その美貌に儚げだとか、なよなよしい印象は一切無い。
アシュリーのこれまでの人生の中で、これ程の美貌を持つ人は、一度たりとも見た事が無かった。
アシュリーは見惚れると言うよりも、ただただ茫然とジーンを見る。
比べるのも烏滸がましいが、あの元婚約者の時ですら、周囲の女性達から散々、不釣り合いだ何だと貶され続けていたのだ。
その時の事が思い出されて、あれぐらいで済むのだろうかと考え込んでいた。
「ーーシュリーお嬢様、アシュリーお嬢様?そんなに不安そうにならなくても大丈夫ですよ。さぁ、若君がお待ちです。降りましょう」
御者が扉を開けたので、出ない訳にはいかない。
アシュリーは意を決して外に出ると、正面に立つジーンが声を掛けてきた。
「初めまして、アシュリー=ゴート辺境伯令嬢。私はジーン。このエヴァンス家の、次期当主です。貴女にお会い出来る日を楽しみにしていましたよ。聞き及んでおられると思いますが、私は貴女を未来の花嫁として、我が家へと歓迎します」
「あっ、アシュリー=ゴートです。よっ……宜しくお願い致します」
ジーンが名を呼んだにも拘わらず、慌てて名乗り、頭を下げるアシュリー。
そんなアシュリーを見て、ジーンは口元に笑みを浮かべ、アシュリーの手を取り口元に運ぶ。
「私は妻になる女性を蔑ろにする気は無い。だから、困った事や思った事、他愛の無い事でも良い、沢山の会話と時間を共有したいと思っている。私は運が良い。貴女のような、理想の令嬢を妻にする事が出来るのだから。長旅でお疲れでしょう。部屋を用意していますので案内します」
ジーンはアシュリーの手に口付けてから、その手を自身の腕に掛けて微笑み、顔を真っ赤に染めたアシュリーを屋敷内へとエスコートするのだった。
本来ならばこの時間、ジーンは王宮にいる事が多いのだが、アシュリーが到着する事を前以て知っていたので、仕事を調整し、日暮れ頃に帰宅していたのだ。
馬車の到着を待ちわびていたジーンは、玄関の馬車停めまで出迎える。
外は暗いが、天上の月が周囲を優しく照らし、ジーンの青みの薄い青銀色の髪を輝かせる。
その姿は、月の精霊と見間違われても不思議では無い。
そんなジーンの姿を、馬車の中からステラが気付き、アシュリーに声を掛ける。
「アシュリーお嬢様、若君自らお出迎え下さいましたよ。あのお方が次期当主のジーン様です」
アシュリーがステラの言葉で馬車の外に視線を向けると、息を呑む程に美しく、思わず人なのか?と、疑いたくなるような美貌の男性がいた。
しかも、その美貌に儚げだとか、なよなよしい印象は一切無い。
アシュリーのこれまでの人生の中で、これ程の美貌を持つ人は、一度たりとも見た事が無かった。
アシュリーは見惚れると言うよりも、ただただ茫然とジーンを見る。
比べるのも烏滸がましいが、あの元婚約者の時ですら、周囲の女性達から散々、不釣り合いだ何だと貶され続けていたのだ。
その時の事が思い出されて、あれぐらいで済むのだろうかと考え込んでいた。
「ーーシュリーお嬢様、アシュリーお嬢様?そんなに不安そうにならなくても大丈夫ですよ。さぁ、若君がお待ちです。降りましょう」
御者が扉を開けたので、出ない訳にはいかない。
アシュリーは意を決して外に出ると、正面に立つジーンが声を掛けてきた。
「初めまして、アシュリー=ゴート辺境伯令嬢。私はジーン。このエヴァンス家の、次期当主です。貴女にお会い出来る日を楽しみにしていましたよ。聞き及んでおられると思いますが、私は貴女を未来の花嫁として、我が家へと歓迎します」
「あっ、アシュリー=ゴートです。よっ……宜しくお願い致します」
ジーンが名を呼んだにも拘わらず、慌てて名乗り、頭を下げるアシュリー。
そんなアシュリーを見て、ジーンは口元に笑みを浮かべ、アシュリーの手を取り口元に運ぶ。
「私は妻になる女性を蔑ろにする気は無い。だから、困った事や思った事、他愛の無い事でも良い、沢山の会話と時間を共有したいと思っている。私は運が良い。貴女のような、理想の令嬢を妻にする事が出来るのだから。長旅でお疲れでしょう。部屋を用意していますので案内します」
ジーンはアシュリーの手に口付けてから、その手を自身の腕に掛けて微笑み、顔を真っ赤に染めたアシュリーを屋敷内へとエスコートするのだった。
24
あなたにおすすめの小説
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
黒騎士団の娼婦
イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる