氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
685 / 805
後日談

エヴァンス家の日常 1

しおりを挟む
 エヴァンス家での日常は、アシュリーにとってはとても有意義な物で、ゴート領にいた頃とは雲泥の差だ。

 花嫁修業も有るには有るが、侍女達とワイワイ楽しみながらする事も多く、先生となる者の教え方も上手い。

 ゴート家では、教師となる者は居なかった。

 あの父親が教師になれる筈も無く、また、アシュリーの為になるような事はせずに遊び呆けていたような男だ。そんな男が、教師となる者を雇う訳が無い。

 ここでは教師となれる使用人達が居るだけでなく、博識なジーンもアシュリーの疑問に答えてくれるのだ。

 勉強が出来る事だけでは無い。

 同性の友人と言うべきか、親しくしてくれる姉妹のようなリラとアナスタシアや、未来の夫となる素敵な婚約者で有るジーンが居て、今は王都に居ないが、優しくも頼もしい、義理の両親達、親身になってくれる使用人達が居るのだ。

 友人も家族も婚約者にも恵まれてなかったアシュリーは、些細な事でも幸せに感じ、それを与えてくれるエヴァンス家の面々には感謝しか無い。

 アシュリーは普通の貴族令嬢とは違い、元々朝が早いが、それを咎める者も居ない。

 ゴート家の仕事を父親の分までしていたからだが、アシュリーの自由になる時間は皆無と言える程に多忙で、それは、長年ゴート家に仕えてくれていた使用人達を切った事や、サラが家計状況を気にせず好き勝手に買い物をしようとした所為も有る。

 それでも義母が諌めてくれたり、アシュリーが止める事が多かったのだ。

 そのストッパーが無い状態のサラは、喩え侍女として潜入していたサリーが唆さなくても、今までの鬱憤を晴らすかのように買い込んでいた事だろう。

 そんな義妹が居たから、ドレスや装飾品を新調しようと言われると、アシュリーはどうしても尻込みしてしまうのだが、その度に侍女達は金銭感覚が確りしたお嬢様だわと思いながらも、エヴァンス家の総資産を知れば失神しそうだなと思っていたりする。

 何せ、浪費家の一人や二人が散々散財したとしても、大した影響にはならない程の潤沢な資産を抱えているのだ。

 しかも、代々の当主が年々増やし続けていると言う有り様だ。

 良いと思えば多額の資金を投入して、新しい事業や政策を領内で取り入れ、一時的に消費する事は有れど、長期間続けてそれを物にし、元を取る所か、倍以上の成果を出す事も多い。

 そんなエヴァンス家の花嫁に選ばれたと言うのに、当のアシュリーは、元の家庭環境が最悪だった為か、王都の貴族令嬢とは違い、実に謙虚だ。

 些細な事でも感謝を示し、幸せそうに微笑むアシュリーを、エヴァンス家の面々が甘やかしたくなるのは当然と言えよう。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...