氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
710 / 805
後日談

12

しおりを挟む
 前領主に不当解雇されていた者達の殆どは、数年の空白期間ブランクが有るので、勘を取り戻すべく、仕事を熟していたのだが、それでも明らかに邸に居た者達よりも仕事が速かった。

 しかも仕事量にも差が有り、邸に居た者達は一般的な他家の貴族に仕える使用人と比べると、入ったばかりの新人レベルと言ってもおかしくない程の質だろう。

   そうは言っても、ネイルは一般的な貴族の常識には当て嵌まらないので、一般的な貴族の使用人として通じる不当解雇組でも、四苦八苦する事が多い。

 通常業務に加え、ネイルが持ち込んだ苗や種等、保管の仕方や育て方等々覚える事は山積みだ。

 側近のジョシュアが言うには、ネイルの育てる植物を栽培すると、商人だけでは無く、周辺領主の貴族は勿論、遠方の高位貴族も買い付けに来る可能性が高いとの事。

 その上、植物学者として本も出している為、数々の植物に関する相談の手紙が届くようにもなるらしい。

 因みにネイルが所有する邸は実家の侯爵領に有るだけで無く、王都にも有り、ネイルの個人資産は年々増加傾向に有る。

 ジョシュアが、その総資産を管理するのは私の役目だがと前置きした上で、金額に換算して教えると、元ゴート家の政務に携わっていた使用人達がゴート領の総資産よりも軽く上回る金額に、物の見事に固まった。


「私達の主人で有るネイル様は本来、植物や奥方様に関する事以外に時間を使う事を嫌います。何よりその時間を邪魔されるを厭うのです。その為使用人達は最低限、実力の有る者達しか居ませんでした。私は資産管理を任されている者として敢えて言わせて頂きますが、無能者に出すお金は有りません。給金も能力に応じて出させて頂きます。私の仕事はネイル様に損害を出させない事。無能に雇われていたからと言った理由で、同情する気も無ければ手心を加える気も有りません。努力はどんな環境でも出来る筈ですから。なので、傍に居ないから、見ていないからと気を抜かないで下さいね?サボっていたら、給金から天引きしますし、掛かる時間に依っても給金に影響させますから」


 ジョシュアはニッコリと笑顔で宣うが、その瞳は笑っていない。

 それもそうだろう。

 ジョシュアはネイルに人手は足りていると断られても、粘って自身を売り込んで、やっと雇って貰えたのに、何もしてない連中が何の苦労も無く雇われるなんて良い気がしないのは当然だ。

 それが無能なら尚更だろう。


「まぁ、私が納得出来る仕事振りを見せて頂ければ、給金も自ずと上がりますよ。今まで使用人として何年も働いてられたのですから、頑張れば出来る筈ですよね。なので早く新人雑用係りから這い上がって来て下さいね」


 ジョシュアの笑顔と絶対零度の雰囲気に、新人レベルの使用人達はただただ背筋を震わせていた。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

処理中です...