氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

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後日談

帰郷 1

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 アシュリーがエヴァンス家に嫁いで一年と少し、王都での三回目の年越しの体験を経た後の頃。

 ジーンがアシュリーに唐突に告げる。


「アーシュ、少し遠出の旅行に行こう」

「旅行、ですか?」

「うん。行き先は着いてからのお楽しみ。ステラに用意を頼んで有るし、アーシュは何も心配は要らないからね」


 今回の旅行の行き先はアシュリーの故郷、元ゴート領で、今はグリマード領と呼ばれる場所だ。

 着くまで内緒にしてるのは、ジーンからのちょっとしたサプライズといった所だろう。

 グリマード領では、現領主のネイルが幾つかの食料となる植物を試験的に根付かせ育てて、その内の幾つかは収穫も出来たと聞いている。

 アシュリーの故郷に植物が育っている様子を見せてやりたいと密かに思っていたジーンとネイルは、互いに連絡を取り合い、グリマード領へと訪問する時期を見計らっていた。

 アシュリーに対するサプライズは、何も作物が育っていると言う事だけでは無い。

 昔、アシュリーが幼少の頃に居た使用人達との再会も有るし、アシュリーが領内視察をした際に出会った領民達とも会えるのだ。

 ただ、アシュリーの元婚約者の家族がアシュリーとの面会を希望しているらしい事は、ジーンにとってあまり嬉しく無い事では有るが。

(アーシュは既に私だけの物だが、あの男の家族として、あの男の不始末を謝罪したいと言う気持ちも解る。本来婿入りする立場の癖に、未来の花嫁を蔑ろにしていた挙げ句、他の女と浮気をし、正統な後継者を追い出そうとしたのだから。私に弟が居たとして、弟がそんな男に成り下がった場合、私なら弟を始末するだろうな)

 エヴァンス家は、過去も含めて嫡男以外も裏の役割を誇りに思い、エヴァンス領をり立ててくれた者達ばかりだ。先ず、あんな弟は出来ないだろうが、出来た場合は人知れず始末するのは当然と考えるのが普通だろう。そうならない為に、幼少の頃から学んでいるのだから。

 アシュリーは元婚約者マディソンに一方的に切り捨てられたような物だが、向こうの家族と仲が悪かった訳では無い。

 寧ろ、マディソンの実兄は、アシュリーに対するマディソンの接し方に、苦言を言っていたくらいだが、あの男はアシュリーよりも他の女の言葉を鵜呑みにしていたので、どうしようも無い。

 情報は正確さが何より大事で、場合によっては生死をも分ける。

 それすらも解らず学院や勉強の成績が良いと言うだけで自身を有能と思っているなら、とんだ大間違いだ。

 今回の事で、嫡男では無いからと、多少甘やかし育てた親は兎も角、実兄はマディソンの所為で災難と言うか、とばっちりや巻き添えで大変な苦労を強いられているなんて、あの男は生きるのに必死で気付いてもいない事だろう。
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