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後日談
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泣き止まないアシュリーの背を優しく撫でるジーンに、ステラは用意していた柔らかなタオルを差し出す。
それを受け取ったジーンがアシュリーの顔に優しく押し当て、咎める事無く仕方の無い妻だとばかりの慈愛に満ちた表情でアシュリーに言葉を紡ぐ。
「アーシュ。私は嫉妬も独占欲も、人一倍強いと断言出来るが、大切な家族だった使用人達との抱き合いぐらいは大目に見るよ。だからほら、行っておいで」
「っっ!!ジーン様ぁ~っ!!」
アシュリーは大粒の涙をボロボロと溢しながら、言葉では伝え切れない程の感謝を態度で表す為に、先ずはジーンに抱き付いた。
「あっ……有難う、御座います、ジーン、様。いっ、行って、来ます!」
嗚咽混じりに言葉を紡ぎ、アシュリーは数歩の距離も惜しいとばかりに、エルンに駆け寄り抱き付いた。
本来、社交界デビューをして無い子供なら兎も角、貴族令嬢や夫人がして良い行為では無い。
他人に涙を見せる事は、自身の弱味を晒す事と同じ事になるし、使用人とは言え、異性に抱き付く事は、はしたない事になる。
だが、ここにはアシュリーを貶めようとする者は居ない。
万が一居よう物なら、確実にその者は身の破滅を味わう事になるだろう。
アシュリーは一応、初めてネイル達と会った日に、不当解雇された古参の使用人達にも声を掛け、相手が望むなら、復職出来るようにすると教えて貰いはしたが、見付かっても一人二人程度で、エルンは年も年だし、酷い追い出され方をしていたので、誰も居ない事も有るとすら想定していたのだ。
それなのに、数名を除けば、殆どの者達がここに集まって居るのだ。
アシュリーは泣きながら、懐かしい人々と会話を交わし、一人一人とハグをして回り、全員を回り終えるとネイルと会話しているジーンの所に戻ってきて、ネイルに頭を下げる。
「ネイル様、レイニー様、彼等を、雇って下さり、本当に、有難う、御座いました。それと、この領地に、沢山の緑、が、生い茂る、景色を見れて、うっ、嬉しかった、です!」
途切れ途切れになりながらも、アシュリーは必死でネイル夫妻に感謝の言葉を口にすると、ネイルからも、感謝の言葉を返される。
「こちらこそ、領内に居る、実績の有る使用人達を紹介して頂き、エヴァンス家には感謝しています。ここは私達の家にはなりましたが、貴女の生家でも有ります。内装は多少、変わっている所も有りますが、滞在中は気兼ね無く過ごして下さい。今宵は彼等と共に、歓迎の宴を開きますので、それまでは邸内にてお寛ぎを」
「はいっ!有難う、御座います!」
アシュリーは泣き笑いのような表情でネイルの言葉にお礼を言うと、ジーンから新たなタオルが差し出される。
それを受け取り顔に当てると、ひんやりとして気持ち良い。
アシュリーが使用人達との交流をしている際に、ステラが新しいタオルを井戸水で湿らせた為だが、それを目で追っていたジョシュアが、そのタイミングと気遣いに、さすがはエヴァンス家の使用人だと頻りに感心し、邸で捕らえられてた侍女達があのレベルに到達するには、どれ程の年月が掛かるのだろうかと思ってしまった。
それを受け取ったジーンがアシュリーの顔に優しく押し当て、咎める事無く仕方の無い妻だとばかりの慈愛に満ちた表情でアシュリーに言葉を紡ぐ。
「アーシュ。私は嫉妬も独占欲も、人一倍強いと断言出来るが、大切な家族だった使用人達との抱き合いぐらいは大目に見るよ。だからほら、行っておいで」
「っっ!!ジーン様ぁ~っ!!」
アシュリーは大粒の涙をボロボロと溢しながら、言葉では伝え切れない程の感謝を態度で表す為に、先ずはジーンに抱き付いた。
「あっ……有難う、御座います、ジーン、様。いっ、行って、来ます!」
嗚咽混じりに言葉を紡ぎ、アシュリーは数歩の距離も惜しいとばかりに、エルンに駆け寄り抱き付いた。
本来、社交界デビューをして無い子供なら兎も角、貴族令嬢や夫人がして良い行為では無い。
他人に涙を見せる事は、自身の弱味を晒す事と同じ事になるし、使用人とは言え、異性に抱き付く事は、はしたない事になる。
だが、ここにはアシュリーを貶めようとする者は居ない。
万が一居よう物なら、確実にその者は身の破滅を味わう事になるだろう。
アシュリーは一応、初めてネイル達と会った日に、不当解雇された古参の使用人達にも声を掛け、相手が望むなら、復職出来るようにすると教えて貰いはしたが、見付かっても一人二人程度で、エルンは年も年だし、酷い追い出され方をしていたので、誰も居ない事も有るとすら想定していたのだ。
それなのに、数名を除けば、殆どの者達がここに集まって居るのだ。
アシュリーは泣きながら、懐かしい人々と会話を交わし、一人一人とハグをして回り、全員を回り終えるとネイルと会話しているジーンの所に戻ってきて、ネイルに頭を下げる。
「ネイル様、レイニー様、彼等を、雇って下さり、本当に、有難う、御座いました。それと、この領地に、沢山の緑、が、生い茂る、景色を見れて、うっ、嬉しかった、です!」
途切れ途切れになりながらも、アシュリーは必死でネイル夫妻に感謝の言葉を口にすると、ネイルからも、感謝の言葉を返される。
「こちらこそ、領内に居る、実績の有る使用人達を紹介して頂き、エヴァンス家には感謝しています。ここは私達の家にはなりましたが、貴女の生家でも有ります。内装は多少、変わっている所も有りますが、滞在中は気兼ね無く過ごして下さい。今宵は彼等と共に、歓迎の宴を開きますので、それまでは邸内にてお寛ぎを」
「はいっ!有難う、御座います!」
アシュリーは泣き笑いのような表情でネイルの言葉にお礼を言うと、ジーンから新たなタオルが差し出される。
それを受け取り顔に当てると、ひんやりとして気持ち良い。
アシュリーが使用人達との交流をしている際に、ステラが新しいタオルを井戸水で湿らせた為だが、それを目で追っていたジョシュアが、そのタイミングと気遣いに、さすがはエヴァンス家の使用人だと頻りに感心し、邸で捕らえられてた侍女達があのレベルに到達するには、どれ程の年月が掛かるのだろうかと思ってしまった。
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