氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

カザハナ

文字の大きさ
773 / 805
後日談

11

しおりを挟む
 ローレン邸に着き、応接間へと案内された侯爵は、冷たい眼差しを向けるローレン侯爵の横で、ルークスがにっこり愛想の良い笑顔で声を掛ける。


「お久し振りです、ミルド侯爵。こうしてお話するのは初めてですね。どうぞ、そちらにお座り下さい」

「ルークス殿?!何故こちらに……」


 ルークスの、いいから座れと笑顔による無言の圧力により、ミルド侯爵は示された席へと座る。


「何故も何も、ローレン侯爵は私の叔父ですし、私はミリアムを実の妹のように可愛がって居ますから、休みの日にはローレン邸にも度々足を運んで居ますよ。何故と言うなら、ミルド侯爵こそ、何故ローレン家をお訪ねに?確か、貴方の子息が公衆の面前で、ミリアムに暴言を吐いた上で、ミリアムに婚約破棄を言い渡した筈です。その所為でミリアムは周囲に蔑まれ、酷く心を痛めたと言うのに、未だに慰謝料を含む賠償金を支払わずに、元凶の親で有る貴方が婚約を継続したいと、図々しくも叔父に願い出ているようですね。それも、ミリアムに次の婚約者が現れる可能性は低いからと」


 ルークスは笑顔で居るが、当然その瞳に笑みは無く、殺気に近い怒気が宿っている。

 そんなルークスの威圧に当てられ、ミルド侯爵は土気色をした顔で震えて居るが、ルークスは更にドス黒い笑顔を深めて宣う。


「ですが、どうぞご安心下さい。貴方の息子より、とても相応しい者が、ミリアムの婚約者に立候補してくれましたから。身分は平民でも、クルルフォーン家とローズウッド家の二大公爵家、更には、代々国の中枢を担うエヴァンス家と、国の守護家で有るセイル家の二大侯爵家とも縁の有る逸材ですよ」

「……は?セイル、家?」


 この国の国民で、セイル家の名を知らない貴族は居ないだろう。


「クルルフォーン公爵のエドワルド様から聞いた話ですが、ミリアムの次の婚約者と私の婚約者は、エヴァンス領に滞在していたセイル家の先代先々代に、孫子のように可愛がられてるそうです。そんな者の想い人に横槍を入れていると知れば、すっ飛んで来るだろうと仰られていましたよ。私の婚約者は、私と同格以上と言える程に強いです。そんな女性を溺愛しているので有れば、強いからと婚約を破棄する者に同情するような事は無いでしょう。寧ろ、そのような者に対して、嫌悪感を抱くのでは?」


 ルークスの言葉でジワジワと、崖っぷちに追い込まれて行くような心境を体感するミルド侯爵。

 だが、ルークスの追い込みは容赦無く続く。


「その上ミリアムの次の婚約者と私の婚約者は、陛下夫妻とも面識が有り、恩人との認識だと直属の上司で有る陛下から直に聞き及んでいます。噂を耳にした陛下に、事の次第を質問されましたので、嘘偽り無く詳細をご報告する事になりました。陛下はミルド侯爵の出方に不快感を抱かれたようで、こんな誓約書を作成して下さいました。どうぞ、お目通しを」


 そこには、ミルド侯爵がローレン家に支払う婚約破棄の慰謝料や名誉毀損等を含む賠償金の金額や支払い命令に加え、ローレン侯爵家やミリアムへの接近禁止令と、その詳細を記した書類に、違反した場合の追加罰金額や、刑罰等が書かれて有る。

 当然国王で有るアレクシスの直筆署名も。

『尚、不服が有れば、直接申し立てよ。多忙な私の時間を割く程の正当性や、真面な議論が出来る内容で有れば、だが。それ以外の理由なら、更なる懲罰が加わる事を知れ』

 書面の最後、両当事者の署名欄の下に、アレクシスの手書きの忠告に、ミルド侯爵は、崖は崖でも、奈落の底へと続く崖だと思い知らされた。
しおりを挟む
感想 2,440

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...