英雄王の末裔 ~青のラファール~

カザハナ

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~フィルゼン領域~

各々の状況

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   ~アーヤ視点~


「行っちゃった……」
「どどどっ、どうしよう~!!?」

 ラルが犯罪者と間違われ、騎士団と思われる人達を引き連れて去って行った。セスもお兄さんもラルが去った方を呆然と眺めているけど、ラルの姿はもう見えない。

「どうもしない。私達は宿を取って、ラルが帰ってくるのを待つだけよ」

 私は今、出来る事を考える。

「いや、でもね、ラファールが犯罪者になっちゃったんだよ?!あれ、聖騎士団の人達だから!」

 “犯罪者になっちゃったんだよ”って、なる訳無いでしょ、ラルは何もしてないのに。

「ラルを犯罪者に仕立て上げないで」
「いや、でも現に――」
「もしラルが犯罪者だって言うなら、いつ、どこで犯罪を犯したって言うの?ラルはずっと私達と一緒にいたのよ?」

 一人行動は確かにしてる。けど、聖騎士団の言葉だけを鵜呑みにするなんて、このお兄さんはラルの何を見てたのかしら。
 もし、ラルが本気で犯罪者になる気なら、さっきの騎士の人達から逃げるのではなく、一人残らずやっつけてるか、最初から完全犯罪を目論むかよ。
 ラルが逃げたのは私達を巻き込まない為と、ラファスお兄さん対策だと思うのよね。

「兄さん、ラルが逃げたのは俺達を巻き込んだりしない為だよ。それにあいつの場合、理不尽な事は逃げずに相手を黙らせるだろうから、本当に心当たりがあるんだと思うよ?あいつは腕も頭も良いから簡単には捕まらないし、仮に俺達が捕まっても、ラルが対処してくれる。だから、今はアーヤの言う通り、ラルからの連絡を待とう」

 セスはラルを疑う事無く信頼してる。お兄さんとは大違いだわ。

「ラルなら多分、聖騎士団本部へと向かう筈よ。歩きで追い掛け回されてる事も考慮して、半月ぐらいは掛かると思った方がいいかも知れないわ」

 ラルならもっと速く解決するだろうけど、寝不足状態が続くと大変な事になるものね。私達はラルが帰ってくるのを待つしか出来ないけど、騎士達が私達を利用する気になったら、こっちも耳元で言ってやるわ。ラルのお兄さんは誰なのか、そして、そのお兄さんの親友は誰なのかを。
 ラルを犯罪者に仕立てるのがどれ程危険か、その身を持って体験して貰おうじゃないの。



 その日、お兄さんが席を外したタイミングでセスが私に訊ねてくる。

「もしかして、アーヤは予想出来てるの?ラルが言ってた心当たりの人に」
「一応は。昔からラルやラルのお兄さんから話を聞いてて、こういう事を仕出かしそうな人が聖騎士団の特殊部隊にいるって聞いてるから」
「ラルは大丈夫だよな?」
「大丈夫じゃないのは、ラルを追い掛け回してる人達とその元凶だと思うの。それに、追い掛け回してる人達はラルに殺されても文句は言えないわ。冤罪だし、そもそも実力の差がありすぎるもの」
「まぁ、確かに……」



*****
   ~とある新米聖騎士団員視点~



「なぁ、そこのお前。悪いがフィルゼン方面の支部に行って、こいつを見掛けたら報せるよう通達して来てくれねぇか?情報では、スオウを出てこっちに向かって来てるらしいんだ」

 そんな言葉と共に、ウボール=コーリン様が一枚の写真を俺に手渡して下さる。ウボール=コーリン様は、西エーファ大陸の領主で、ここ聖騎士団の特殊部隊に所属するエリートだ。

「はい、喜んで承ります!」

 彼の手から大きく写し出された写真を見て、思わず呟いてしまう。

「え……子供?」
「おいおい、そいつを只の子供と思うなよ?そいつはなぁ、あのアーヴェルでさえ中々捕まえられない奴だ。何せ魔法の類いが効き辛く、一度見失えば、アーヴェルの風の探索でも引っ掛からない特殊な体質だ。その上腕も立つ。本部の連中でこいつにやられたのは一人や二人じゃねぇぞ」
「まさか……そんな!」

 自分の耳を疑った。本部の人間が殺られた?!

「過去何度も見た目に騙され侮った団員が、ことごとくやられ、俺達特部も何度驚かされた事か」

 こんな子供が特部に追われる凶悪犯だなんて!!

「直ちに通達して来ます!!」
「ああ、それと、連れがいても無関係だから、放っておけ。俺の目当てはあくまでそいつだけだ。取り逃がしたら次いつ現れるか分からねぇからな」
「逃げられないよう最善を尽くします!」
「ああ、頼んだ。丁重にもてなしてやれよ?」
「はっ!」



 ※こうしてラルは凶悪犯にされました。因みにウボールは全く悪気はありません。悪気がない分質が悪いです。



*****
   ~アーヴェル視点~



 ラルが中央デ・トルトに来ていると聞き、いつ会えるだろうかとここ数日、上機嫌で仕事をしていた時の事。
 ラルから貰った通話機の音が鳴り響く。
 大急ぎでそれを通話可能にすると、切羽詰まった声が響く。

『――アル兄、助けてぇーーー!!――』

(?!!)

「ラル?!」
『――僕、今、フィルゼンの最北の街近くにいるの!お願い、直ぐ来てアル兄~!!――』
「解りました、直ぐに向かいます!」

 風の魔力で窓を開け、部屋から飛び出す。
 一体何が起きているのか、情報は掴めていないが、ラルが呼ぶなら直ぐに行くだけだ。
 空を猛スピードで滑空し、上空からラルを見付けるが、何故か団員達がラルに殺気を向けながら、取り囲むように追い掛けている。
 そして、ラルが私を目指して走り出せば、団員達がラルに次々と飛び道具を使う。
(そんな事、させるか!)
 風を操りラルに向けられた物全てを人のいない場所へと叩き付け、ラルを風で掬い上げるようにして腕の中へと抱き寄せる。すると、ラルが私にしがみつきながら泣き叫ぶ。

「ウル兄の阿呆ーーーーっっ!!!」

 そして、ラルから力が抜ける。どうやら気を失ったようだ。

「――それで、何がどうなって、私の大切なこの子が・・・・・・・・・こんな目にあったのか、説明して貰えますよね?」

 口元に笑みを見せ、団員達に問い掛ける。

「あっ、あの……その子供、凶悪犯では……?」

 真っ青な顔で、恐る恐る私に問い掛ける団員。

「貴方達はとんでもない勘違いをしています。この子は我々特部が一目を置く存在です。更に言えばこの子の兄は特部の聖剣士であり、あの・・赤のラルファンスですよ。彼にとってこの子は宝だというのに、貴方達は彼の怒りを買う気ですか?」

 私の脅しに、みるみる顔色が悪くなる団員達。それもそうだろう。赤のラルファンスといえば、軍国と名高かった一国を相手に、数千の敵をたった一人で打ち倒したという経歴を持つ者だ。そんな相手を敵に回したがる者はいない。

「理解したなら、この子が目を覚ましてから、誠心誠意の謝罪をしなさい。貴方達は罪のないこの子を犯罪者に仕立て上げただけでなく、殺そうとしたのだから。本来この子に殺されても、文句も言えない立場ですよ」

(さて、説教はこの辺で、元凶を叩きに行きましょうか……)
 私はラルを抱き抱えたまま、本部へと向かい、隊長に報告をし、ラルを隊長に預けてから、ウボールを捕まえて痛め付けた。
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