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第三章 冒険者

今の宰相は短気でいけねえや

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「勝手にしろ!」

「使者殿、今の言葉を聞かれましたな。
陛下にお伝えし、我々は男爵位を返上させていただいたうえで、今後、王家とは無関係とさせていただきます」

「あわわ、そ、そんな……」

「仕方ないでしょう。
宰相はどうあっても俺に仕事を押し付けようとし、俺は民のために今の仕事を続けたい。
こちらから歩み寄る姿勢を見せたにもかかわらず、宰相はそれを受け入れようとしない。
ならば、我々は爵位を返上して、民のために尽くすのみ。
どこか、おかしな部分がありますか」

「さー、宰相……」

「……わしは知らん……」

「さっ、陛下に報告に行きましょう」

「いえるわけないでしょう!
爵位返上など、前代未聞のこと!」

「では、どこがおかしいと思われますか」

「そ、それは……」

「なぜ、俺達が恩給を受け取っていないのか、また、それを宰相が知らないのはなぜか」

「そっ、そうですよ!」

「俺たちは、いつ国からの恩賞が切れても、自活していけるよう商売を始めた」

「なに!」

「だってそうでしょ。
もし、魔王を完全に滅ぼしていたら、国は死ぬまで俺たちの面倒をみてくれるんですか」

「当然であろう!」

「王が代替わりしても続く保証は?
また、その間、俺たちは何をすればいいんですか?
今でこそ男爵として子供たちに世襲することができるようになりましたが、長男以外は?
ほかの貴族連中のようになるのだけはまっぴらですよ」

「まさか……」

「そう。俺たちは最初から平民で、平民として暮らす。
だから恩給などあてにしない。
最初のうちは、俺も魔王宮に仕掛けた爆弾の余波で動けませんでしたからね。
その分の慰労金として世話になりましたよ」

「なぜ、爵位を受けたんだ」

「魔王を討伐したってことで、国民を安心させるためですよ。
正直なところ、魔王ってのが普通の人と同じなら死んだでしょうよ。
だが、そんな甘いもんじゃないと思ってます。
それでも、不安要素などないほうが、安心して眠れるでしょう」

「民のためだと……」

「俺が、商売に精を出してる姿を見せれば、みんな安心するでしょう。
その俺が、突然姿を見せなくなったら?」

「何か、あったのかと……」

「相談役程度なら、一日か二日程度ですみますが、一か月も連続して工事に専念するようじゃダメだ。
そういうこと。
もう一つは、恩給を辞退したという俺たちの意思が届かずにどこかでもみ消されているってこと。
恩給を辞退していると知っていれば、陛下も宰相も無理強いはしなかったでしょ。
うちの支店長が言ってましたよ。
今の宰相は、頭が切れるくせに短期でいけないって」

「あっ……」

「そういう事」
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