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第一章

第14話 ド〇えもんなのか?

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「今日はどうするの?」
「うん。魔法局のレベルを見ておきたいんだ。あの本と比べてどうなのか。」
 俺とライラはキックボードで城の中庭まで飛んでいき、城の廊下を内務局のオフィスに向かって歩いていた。
 自席についた俺たちを待っていたのは、内務大臣からの呼び出しだった。
 大臣室のドアをノックすると入室を促す声がした。
「失礼します。補佐官をお連れしました。」
「お疲れ様です。今、お茶を入れますから、ソファーにおかけください。」
 対応してくれたのは大臣の秘書官で、アリスという30代の女性だ。
 金髪碧眼のお嬢様で、髪は縦ロールしている。お蝶婦人って感じの女性だ。
 なんでも、宰相の4女とか言っていたが、結婚に興味がないらしくこうして仕事をしているらしい。
 向かいに座った大臣は、やや太り気味の中年男性で、見るからに貴族といういでたちだ。
「来てもらってすまんな。仕事のほうは慣れたかね。」
「ええ。おかげさまで色々と確認しながらやらせてもらっています。」
「ああ、軍に提供した新しい武器の情報は届いている。まあ、そのことで来てもらったんだが。」
「自動小銃ですね。ただ、あれは供与ではなく試験的に貸与しただけですよ。」
「貸与?」
「高純度の魔法石を使っていますから、高価なものになります。ドラゴンの魔法石相当ですから、一丁で金貨1000枚以上ですね。」
「き、金貨1000枚だと!」
「大臣、ドラゴンの魔法石ならその程度はやむを得ないかと。」
 アリスさんがフォローしてくれる。
「第二・第三小隊が実績を出してくれて、予算がつけば正式に配備できるんですけどね。」
「今回は、20丁と聞いていますから、金貨2万枚ですか。さすがに高額すぎだと思いますわ。」
「ふむ。それでだ、第一小隊長からクレームが出て、半分の10丁を第一小隊が保有することになった。」
「俺はそんな話聞いてないし、許可していないですよ。」
「いや、これは国として決定したことだ。」
「貸したものを勝手に運用する権利が国にあると思っているんですか?」
「本来はススム殿の主張が正論ですが、貸与とは知らず大臣が同意してしまいました。申し訳ございません。」
「アリスさんに非はありませんよ。でも、第二・第三の小隊長には念を押しておいたんですけどね。まあ、これから行って回収してきますからいいですよ。」
「いや、それは困る!」
「大臣が困ることはありませんよ。あれには国の予算は使っていませんし、あくまでも俺個人の所有物ですからね。」
「だが、君の所属は内務局なのだ。そこを理解してだな……。」
 
 その時だった。ノックもなしに大臣室のドアが開き、ジェームズ第二王子が部屋に入ってきた。
「ススム、あれは何だ!」
「あれ?」
「とぼけるな。さっきお前が乗っていたという、空を飛ぶ道具だ。」
「ああ、キックボードですか。」
「空を飛ぶ……道具?」
「アリスさんはご存じないですよね。人前で使ったのは今日が初めてですし。」
「一人乗りの立って操作する道具なんですよ。」
「その、キックボードとやらを、俺にもよこせ。」
「何で?」
「決まっているだろ。戦場を駆け回る俺に最適な道具だ。」
「第一小隊が前線に出ることはないと聞いていますが。」
「なにい!」
「それに、あれは必要な人数分しかありません。高価なものですからね。」
「ふざけるな。そこの女も乗っているのだろう!」
「ええ。私の婚約者ですから。」
「まあ、ライラさん婚約されたんですか。おめでとうございます。」
「ありがとうござ……。」
「そんな茶番はいい!一国の王子たる俺よりも、そのエルフの女が優先されるとでもいうつもりか!」
「当然じゃないですか。俺はこの国の国民じゃないし。」
「ふざけるな!王族に対する不敬罪で罰してやる!」
「いや、国の法律はチェックしましたが、不敬罪っていうのは国王と王妃にだけ適用されるはずですよ。」
「……ジェームズ殿下、恐れながらススム殿の主張される通りでございます。」
「ぐぬぬ……。」
「ああ、それから俺が第二・第三小隊長に貸した自動小銃を勝手に使っているそうですね。あれも回収させてもらいますよ。」
「ふん。あれは陛下もそこの大臣も承諾されたことだ。お前がどうこう言える問題ではない!」
「あれは、俺の所有物であり、譲渡したり販売した覚えはありません。」
「ふん。平民風情が国の決定に逆らうとでもいうのかよ。」
「ええ。俺は城と契約している身ですが、国民ではありません。」
「だが、国の領地にいる以上は、国の決定に従ってもらおう。おい衛兵を呼べ、反逆罪で捕縛だ。」
「はあ、どうしようもない人ですね。ライラ、シールドを起動しておいてください。」
「もう、してあるよ。」
「ライラ、あなた……。」
「アリス、ゴメンね。もう少しこの国にいられると思ってたんだけど、」
「元から国を出るつもりだったのね。」
「ススムと共に生きるって決めたの。」

 駆け付けた衛兵には申し訳ないが、排除させてもらった。
「ススム!貴様ぁ!」
「おっと、ジェームズ王子、剣を抜くなら覚悟してくださいね。容赦はしませんよ。」
「くっ、小隊を呼べ!自動小銃を持ってこさせろ。」
「ああ、それいいですね。回収に行く手間が省ける。」
「く、国を出るつもりなのか……。」
「ええ。でも、この国を滅ぼすつもりはないので、追わないでくれると助かります。」
「ふざけるな、これだけの敵対行為を見過ごせると思っているのか!」
「ああ、皆さんに宣言しておいた方がいいですね。皆さーん、俺は横暴な貴族・王族は嫌いですけど、普通の人に対して反感は持っていません。」
 フロアにいた職員に聞こえるように大きな声で伝える。
「いつか、この国がまともになって、貴族制を廃止してくれたらいろいろと取引してもいいかなって思っていますからね。」
 それから、駆け付けた第一小隊の自動小銃の掃射を受けたが、当然魔法防御のシールドを貫くことはできず、自動小銃は無事に全数回収できた。
「自分の作った武器ですから、当然防御策は講じてありますよ。そうだ、自分の持ち込んだものは回収していかないとね。」
 食堂の味噌や果樹園の苗など、すべてマジックバッグに格納した。
「ニワトリはバッグに入らないから、そのうちに取りにきましょうかね。」
「そうですね。」

「あらあら、早速やらかしちゃったのね。」
「まあ、成り行きでね。」
「このお店はどうするの?」
「畑もあるから、バッグに入れて持っていくわ。」
「じゃあ、当面の食料を買って、この国の金貨はなるべく貴金属や魔法石に換金していこうか。」
「でも、王都じゃすぐに手配されるんじゃない?」
「自動小銃があるから、簡単に手は出してこないと思うよ。」
「そっか。じゃあ、家と畑を収納してっと、買い物に行きましょうかね。」

 串焼きや肉・野菜・パンなどを買い占めて、魔法石もあるだけ購入した。
 その頃になると、周りを兵士が取り巻くようになってきたが直接手を出してくることはなかった。
 会ったことのある宰相や大臣が呼びかけてきたが、応じるつもりはない。
 必要な買い物を済ませ、一旦キックボードで城の外に逃れ、人気のない森で飛行車に乗り換えて東に向かう。

 俺たちがいた国は、どうやら地球でいえば中央アジアにあたるようだ。
 広大な砂漠を飛び越えたあたりで暗くなってきた。地球でいえば中国なのだろうが暗くて様子がわからない。
 俺たちは適当な森の中の空き地に着陸してシェルターを展開。そこで夜を過ごすことにした。
「ほかの民族がいたとしても、多分言葉が通じないよな。」
「私たちも、国の外に出るのは初めてだから……。」
「そうか、言葉や文字を翻訳してくれるアイテムがあれば……。」
「だ・か・ら、そういう常識から外れたことを考えないで。」
「まったく、姉さんは頭が固いんだから!」
「あんた達の頭が壊れているだけよ。あんな狂った本でさえ、まともに理解しようとしてる私を見習ってほしいものね。」
「あれを読破するのは大変そうですよね……そうか!」
「待って!何が”そうか”なのよ。これ以上仕事を増やさないでちょうだい!」


【あとがき】
 某ネコ型ロボットアニメで翻訳のツールが出たころは、スマホの翻訳ツールなんて想像もできない時代でしたよね。うん、便利ツール……あったらいいな……。
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