魔導師の記憶

モモん

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第一章

第8話 西の町で待ち受けていたこと

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 実際にどのような乗り物が運航するのかと聞かれたので、城の1階ホールに製作中の定時便試作1号を出して見てもらった。
 まだガラスもいれていない鉄枠の状態だが、運転席2名で、乗客席は3人掛け×3列の11人乗り。
 幅4mで長さ6mになっている。

「凄い、こんなものが空を飛ぶんですか!」
「一番遠い町まで2時間だなんて!」
「これだけの荷台があれば、食料も運搬できますね。」
「肉なんかを運ぶのに、箱の中を冷やす方法を考えましょう。」

 様々な声があがった。
 総務局長の要望で、試作1号はそのまま展示することになった。
 案内板は総務局で用意するとのことだ。


 こうやって利権が絡んでくると、色々と画策する者が出てくる。
 積み荷の枠を固定して確保したい者や乗降場で売店を開きたい者など様々だ。
 俺の家にも、貴族や商人から様々な贈り物が届いたが、絶対に受け取らないように指示している。

「うちとか、魔法局長の家にも押しかけて来ているさ。相手にしないけどな。」
「お父上の方は大丈夫なんですか?」
「どうだろうな。何も言ってこないから大丈夫じゃないか。」

 そんな中で、陛下の巡視のの日がやってきた。
 6日間は拘束されてしまう。

 今回の搭乗者は、俺とラングーンさん、陛下と王妃とサラ王女。
 メイドさんが5名と随行大臣が3人。総務局の担当が1名で警護兵が9名。
 合計で23名の大所帯だ。
 当然だが、兵士の装備や搭乗者の手荷物など、物資も多い。

 サラ王女は15才。王妃譲りの青い髪と青い瞳。
 楽な服装でと伝えてあったのに黄色のドレス姿だ。
 陛下も王妃もパンツ姿だというのに、困ったものだ。

「ちょっと、あなた!」
「はい?俺ですか?」
「そのだらしない服装は何なの?王家の従者として相応しい服装というものがあるでしょ!」
「は、はあ……。」

 俺は王家の従者などではない。
 しかも、4才の子供に、何を求めてるんだ……。

「すまん。こういう娘なんだ。」
「俺は今すぐ降りてもいいんですぜ、旦那。」
「頼む、我慢してくれ。」
 
 まあ、確かに普段着すぎたかな……とは思う。

 兵士が搭乗口を閉めたのを確認して、出発を告げる。

「じゃあ、コットニアに向けて出発します。所要時間はおよそ一時間となります。」

 俺はコットニアの行く先ボタンを押した。
 飛行艇はゆっくりと150mの高度まで上昇し、その後西に向かって加速した。

「なんであなたが偉そうなのよ。」
「俺がこの飛行艇の開発者で、所有者だからですよ。それで、なぜ王女が助手席にいるんですか?」
「ここが一番眺めがいいんでしょ。」
「まあ、それはそうですけど……。」

 後ろの席で、ラングーンさんが手を合わせて謝っている。
 いや、この裏切りは許せないだろう。

「あなた!操縦者なのになぜよそ見をしているんですか!」
「目的地まで自動で飛びますから、一度ボタンを押せばあとは緊急時以外することはないです。」
「そんなので高いお金をもらっていいわけ!」
「いえ、金額なんてまだ決まっていないし、そもそも、やりたくて引き受けた訳じゃないですよ。」
「あなた、私やお父様の送迎が嫌だと言ってるの。」
「ええ。難癖をつけてくるお嬢様とか、面倒で仕方ないんですけど。」
「ちょっと待って!あれは……向かってくるわよ!」
「ああ、ワイバーンですね。」

 俺は氷槍発射のボタンを押した。
 直径20cm長さ2mの氷の槍が生成され、ワイバーンに向けて発射された。
 遮音シールドがあるので無音である。
 自動追尾機能があるため外れることはない。
 推定6mのワイバーンは腹部を貫かれ落下していった。
 後ろで見ていた兵隊さんから歓声があがる。

「今のは何よ!」
「氷の槍を打ち出すシステムですよ。」
「ワ、ワイバーンよね……今の……。」
「そうですよ。」
「そうですよ、じゃないでしょ。ワイバーンが出現したら、最低でも30人規模の小隊を編成して退治するのよ。」
「まあ、たかがワイバーンですから。」
「あなたって、本当に常識がないわね。」
「んーっ、時々いわれます。」

 そんなことをしている間に、コットニア上空に到着した。
 飛行艇は、マーキングされている領事館に静かに着陸した。
 予定通り一時間のフライトだった。

 当然だが領事館には住民が集結し、陛下や王妃はその対応をしている。
 煩い王女もだ。
 兵士達とメイドさんは積み荷を下ろし、案内されて建物に入っていった。
 俺は魔法石や装備を一通りチェックして建物に向かった。
 搭乗口とハッチはロックしておくが、飛行艇自体はそのまま出しっぱなしだ。
 歩き出した俺の元に、数人の大人が駆け寄ってきた。

「リコ様ですね。」
「はい。」
「私、コットニアの商業ギルド長ヤライと申します。」
「食肉ギルド長のガンブです。」
「縫製ギルドのナタリアと申します。」

 10人くらいの人たちが次々と自己紹介してくれる。

「この度、定時便システムを構築してくださると聞いて、お話を伺いたく集まりました。」
「いや、でも、今回の視察は陛下の……。」
「そちらは、代理に任せてあります。」
「領主のご了解もいただいています!」
「時間がもったいない。こちらへお願いします。」

 俺はラングーンさんに救いを求める視線を送ったが、ウインクで返された。
 こいつ、知ってたな……。
 俺が連行された部屋には30人ほどが待機していた。
 そこにギルド長達が加わり、40名程を相手にすることになる。

「リコ様の功績は、皆聞き及んでおります。今日は定時便システムについてお教えいただきたく存じます。」

 はあ、俺は観念して、現在の構想を説明し、検討中のことなども説明した。

「この町にはダンジョンがないので、肉の供給量が少ないのです。この定時便を使って、肉の輸送は可能ですか?」
「そこはスタッフからも話が出ています。定時便の中に低温の区画を作るか、箱の中を冷やす魔道具を作れば輸送は十分に可能です。」
「費用はどうなるんですか?」
「現在運航している馬車便との兼ね合いをどうするかの検討が必要ですね。馬車便を残すことも必要なので、例えば馬車便の料金を下げて、収益が減った分は国が補填するとかですね。」
「災害や、魔物が出た時には、早く対応してもらえるんですか?」
「町から届く情報も早くなりますから、当然軍の出動も早くなると思います。今日乗ってきた飛行艇なら一度に20人の兵士が運べますから、あわせて検討することになります。」

 こんな感じで質問攻めにされてしまった。
 最後は外に出て、試作機を展示して解散してもらった……、というか、試作機を出しっぱなしにして、その間に逃げた。

 まさか、先々でこんな状況になるのか……。
 ますます気が重くなった。

 食事を終えて部屋に戻り、ラングーンさんを待ったが、大人の時間に突入したらしく話すことはできなかった。

 翌朝、食事をとり、次の町セレスティアに向かう。
 隣には、また王女が乗ってきた。

「随分とお疲れのようですわね。」
「ああ、この国は子供を働かせすぎだ。」
「ご自分で仕事を増やしているんじゃありませんの?」
「そうだな。引き受けるからいけないのだろう。決めた、もう仕事は受けない。」
「あら、国民が豊かになるためには、それはいけませんわ。」
「頼むから、俺抜きで幸せになってくれ……。」


【あとがき】
 リコの受難は続く……
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