魔導師の記憶

モモん

文字の大きさ
9 / 23
第一章

第9話 本気

しおりを挟む
 俺の予想通り、セレスティアの町でも定時便の講演をすることになった。
 それだけ国民の関心が高いことの証明でもある。

「ラングーンさん。」
「なんだ?」
「なんで僕だけ、一人で講演会をしなくちゃいけないんですか?」
「……なんの……ことだ?」
「その間は何ですか!」
「仕方あるまい。国民の関心は定時便にあるのが現状だ。」
「だったら、ラングーンさんも同席してくださいよ。」
「いや、陛下との懇談会でも定時便について聞かれることが多くてな。俺がいないと対応できんのだ。」
「だからって、何で僕が一人で対応することになるんですか!」
「仕方ないのだ、理解してくれ。」

 おかしい。
 向こうには、王族3人のほかに5人の随行者がいるのだ。
 それに比べて、こっちは一人で同じくらいの人数を対応しているんだぞ。
 プロジェクトの相談役だって無給だし、そんな子供をこき使うのは絶対に間違っている。
 そもそも、貴族ですらないんだぞ。

「不服なら、サラ王女を同席させるが。」
「話がややこしくなるから絶対に拒否します。」
「王女本人からの申し出なんだが。」
「イヤです!」

 渾身の拒否だったのだが、次の町では俺の講演会に王女が同席してしまった。
 だが、何かを話すわけではなく、国民と一緒になって聞いているだけだった。
 そして移動の間に、俺に質問をぶつけてくるようになった。

「箱の中を冷やす魔道具というのは、簡単にできるものなのか?」
「そうだな。実際の魔法式で考えると、冷やすのではなく、一定の温度にするイメージかな。」
「一定の温度?」
「そう。肉の痛むのがおそくなる3度とかだな。凍ってしまうと肉のうま味が逃げるから、その温度を維持する魔法式だな。」
「魔法式自体は簡単なのか?」
「まあ、少し指導してやれば、城の魔導師でもできると思うぞ。」
「お前がやるんじゃないのか?」
「なんでもかんでも俺を頼るな。できるところは、自分たちでなんとかしてみろ。」

「なんでお前は色々な知識を持っているのだ。」
「研究したからな。」
「まだ子供ではないか。」
「俺が生まれてから4年間、どれだけの努力をしてきたと思ってるんだ。」
「赤ん坊のうちは世話をしてもらうだけだろ。」
「生まれて一週間目から、毎日魔力切れになるまで魔法を使い続けてきた。」
「生後……一週間だと……。」
「4年間、毎日魔力切れになるまで鍛えれば、お前だってこの程度の魔力を持てるさ。」
「魔力が増えても、魔法は覚えられないだろ。」
「魔力が多ければ、何度でも繰り返して魔法を試せるだろ。例えば、こうやって物が浮かび上がる魔法があると分かったら、色々なアプローチをしてみればいい。」
「色々な方法か……、例えば風を吹き付けて浮かせてもいいのか?」
「それも、一つの方法だな。」
「お前は色々な魔法を何百回と繰り返したいうのか?」
「何百回で成功するような魔法は、誰かが成功させてるだろうな。最低でも何万回のレベルだ。」
「お前の魔法は、ほとんど失敗したということか。」
「ああ、失敗の記憶しかねえよ。」

「なんで失敗に耐えられるんだ?」
「成功が想像できるからだ。」
「想像だと?」
「うーん、例えば鳥も虫も同じように飛ぶよな。」
「それは知ってる。」
「でも、鳥は人間でいえば手に相当する部分を羽にしてとんだ。」
「そうだな。」
「じゃあ、虫はどうなんだ?」
「……あっ!」
「虫の羽は手じゃないよな。」
「た、確かにそうだ。」
「つまり、飛ぶための方法は二つあったってことだろ。」
「気が……つかなかった……。」
「だったら、俺が違う方法で飛んだって不思議じゃないだろ。」


 最終日。サラ王女は、俺に代わって定時便の説明を行った。
 質問に対してはフォローしたけど、完全に自分の言葉で喋っていた。
 その説明は、俺がするよりも分かりやすかったと思う。
 そして、本人の希望で、王女はプロジェクトのメンバーに加わった。


「それで、僕の報酬はどうなるんですか?」
「金銭的には、金貨2万枚を分割で支払うみたいだ。」
「へえ、気前がいいですね。」
「それと爵位だな。」
「要りませんよそんなの。」
「4才で綬爵っていうのは前例がないからな。」
「あったら驚きますよ。」
「お披露目なしで、子爵か伯爵かで検討中だ。」
「だから、お断りしますって。」
「屋敷は、うちの裏に決まった。」
「えっ?」
「これで、正式に母親を迎えてやれ。」
「母さんを……。」
「爵位があれば、もう成人とみなされるから、婚姻も可能だ。」
「考えたくもありませんよ。まだ4才なんですから。」
「そうもいかねえんだ。これが。」
「えっ?」
「本人がその気みたいだからな。」
「本人?」
「身に覚えがあるだろ。」
「ないですよ、そんなもの。」
「お前なあ、俺の従妹に対して、”そんなもの”はひでえと思うぜ。」
「イトコ?えっ?」
「まあ、王族と婚姻を結べば、その場で史上最年少の侯爵だな。」
「ええーっ!何を言って……。」
「本人がその気になっちまったんだ。諦めろ。悪い話じゃないんだ。」
「いやいや、彼女10才以上年上ですよ!」
「お前、中身は50才とかだろ。」
「僕は、正真正銘4才ですってば……。」

 その翌月、定時便の運用がスタートし、ティアランド王国は急成長をし始めた。
 俺は伯爵となり、屋敷を与えられて母さんを家に迎えた。
 サラ王女とも婚約を交わし、王女は家に入り浸りとなる。

「ねえリコ、ここの魔法式はこれで良いのかしら。」
「いや、ここの条件をもっと具体的に書かないとエラーを起こす可能性があるね。」
「あっ、そこか……見落としていたわ。」

 そして、夜は魔力を使い切って意識を失い、そのまま泊っていくのだ。
 サラは驚くべき速さで魔法を覚え、技術を習得していった。

 魔道具にしても、最初は土魔法の成形を教え、魔法式の書き込みを教え、あとは好きなようにやらせている。
 魔法石もミスリル銀も豊富にあるから、いくらでも失敗できる。
 サラの発想はユニークだった。
 蒸気と熱で髪を整える魔導ブラシや、同じ機能で洋服のシワを伸ばす魔導スチーマー。
 糸から布を織りなす魔導織機に布を縫い合わせる魔導縫製機。
 どれも俺には思いつかない魔道具だった。

「なあ、サラ……。」
「なに?」
「本気なのか?」
「なにが?」
「本気で、俺の妻になるつもりなのか?」
「……あのね……。」
「ああ。」
「私、ものすごく楽しいんだよ。」
「何が……だ。」
「今まで教わってきたマーリンの魔法って、とりあえず魔法が使えるようにって詠唱を丸暗記したり、とにかく無理やり詰め込みで覚えるだけだったの。」
「そうなのか。」
「でも、リコの魔法は全然違っていて、やりたいことを前提にして魔法を考えていく。そんなの初めてじゃない。」
「ああ、そうだな。」
「考えた魔法を毎日何回も繰り返し失敗して、魔力が空っぽになって気を失って……。」
「……。」
「いくら失敗しても、自分が成長していくのが分かるの。こんな楽しいことってないよ。」
「ああ。」
「これはリコが開いてくれた世界。リコが見せてくれた未来。」
「そ、それほどの事でもないと思うが。」
「私はリコの隣にいられる事が嬉しいの。……リコは……私じゃ……イヤかな?」
「……そうか、ならば俺も腹をくくるさ。サラの隣に立てる男になってやる。」

 俺は、自分の体に、成長促進を施した。
 成長速度100倍。つまり、1日が100日に相当するため、この期間は3日が1年弱になる。
 サラとの年齢差が11年だから、40日も過ごせばサラに相応しい体になれるだろう。


【あとがき】
 十分な栄養をとって、ゆっくりと大きくなる。巨大化とかも時間がかると思うんですよね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...