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第二章
第6話 縄文式土器
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カナに連れられて家の方に向かう。畑の下からは見えなかったが、3軒の真ん中に広場があり、そこでは4人……いや乳児を入れて5人の人がいた。近づいていく俺たちを見て皆驚いている。
「「オポカムィ!」」
彼らが見ていたのは俺たちではなく、ハクとシェンロンだったようだ。俺たちは刺激しないようにそこで立ち止まった。カナはその中の一番年配の男性のところに向かい何か話しかけている。髭もじゃだが、少し長い髪を後ろで結んでおり壮観な感じがする。年配といってもうちの父親と同じ40歳くらいに見えた。ちなみに縄文時代の平均寿命は30才くらいだといわれている。平均なのだから、40代のおっさんがいても不思議ではない。カナはそのおっさんを伴って俺たちの元に戻ってきた。
「ティティノトラナリ。」
カナは父だと紹介してくれた。俺たちもお辞儀をして、それぞれ自己紹介した。
「パパパ、リボンミツェル。パァク、ツェンロン、オイデ~。」
「パパパ?」
ミコトが不思議そうに聞いてきた。
「パパは母だよ。リボンと一緒にハクたちを見せに行ったんだろう。」
トラの目は嬉しそうにカナの姿を追っている。なんか気まずい……が、俺たちがオオカミを連れているいきさつと、生活の様子を見せてほしい事を伝えた。多分伝わったと思う……ので、ここからは現代語に翻訳して伝えていこうと思う。
「俺たちの生活なんか見てどうするんだい?」
俺はリュックからペットボトルを取り出してトラさんに手渡した。
「水を入れる容器です。壊れやすいけど軽いため、持ち運びには便利です。俺達には他にもあなたたちの知らない知識がある。何かお手伝いできる事があればと思っています。」
「確かに、こんな物は見たことがない。他にもあるというのか?」
俺は腰からゆっくりと剣を抜いた。
「アラから作った狩りをするための道具です。」
「こ、これをアラから作ったというのか。いったいどうやって……火の中に入れても変わらないはずだ。」
アラとはこの時代の鉄をさす言葉だと聞いている。
「木を燃やすよりも高い温度で熱すれば加工できます。この技術で、木を切ったり農作業に使う道具を作る事ができるんです。」
「それは興味深い。何よりお前は”メ”を持っているから、信用に値する。」
「”メ”とは?」
トラさんは自分の首から下げていた勾玉を指さした。
「お前たちの呼び名は違うのか?」
「俺たちはマガタマと呼んでいます。」
「マガ?なんでそんな忌まわしい呼び方をするんだ?」
「忌まわしい……あっ禍々(まがまが)しいのマガじゃなく、違う意味なんですけど……。なんでこれが”メ”なんですか?」
「見ればわかるだろう。種から芽が出てくるところじゃないか。色だって緑色をしてるだろ。」
「あっ……」
ヒスイは必ずしも緑色とは限らないが、緑色のほうが好まれる。現に俺のは少し白の部分が多い。国産の緑色が強いものなど、高校生が買える値段ではない。
俺はこれまで、勾玉の形は胎児ではないかと思っていたが、この時代の人が胎児の形など知っていたのかという疑問があった。だが、これが”芽”であるならばしっくり来る。縄文の土偶は、近年有力な説では、木の実をデフォルメして擬人化したものだといわれている。自然を崇拝するこの時代の人たちが、発芽をイメージした勾玉を身につけているというのは理にかなっているのではないか。まさに生命(いのち)の象徴である。
「これが……芽……」
この時代に対するピースが一つ埋まった気がした。俺はトラさんの手をとってスゴイ凄いと叫んでいた。
「俺は、ひらがなの”め”じゃないかと思ったぜ。横にしたら”め”だろ?」
「横にしたら”の”っすよね。穴も一つだし。」
「ぐっ……」
そのあとで、俺たちは家の中に案内された。使っている土器は郷土資料館で見たような肉厚の土器で平底式である。縄文早期には主に尖底土器が作られ、土にさして使われていたといわれるが、定住化が進むと平底式に移行していったと見られている。ほかにも木で作られた大小の匙(さじ・西洋でいうスプーン)や箸・小皿などがみられる。中央にある囲炉裏では火が焚かれ、串刺しになった魚が干されていた。柱は3本で、直線状に並んでいる。その柱を起点に縦横の竹を組んで、その上にカヤを重ねる。居住空間は地面から1mほど掘り下げられ年間を通じて温暖な室温を与えてくれる。家の隅には六つの寝床らしきものがあった。盛り上がっているところを見ると、枯草の上に布をかけてあるのだろう。家の中を見る限り、ここは縄文後期で間違いなさそうだ。現代から4000年前といったところだろう。
「雨漏りしないんっすかね。」
「カヤっていうのは、イネ科の植物の総称で茎に油分が含まれているらしいよ。だから水が浸み込みにくくて、茎を束ねた時にできる隙間を伝って下へ下へと水が落ちていくらしいんだ。それに、地面を掘ったときに出た土を周囲に盛ってあるから水が流れ込んでくることもない。」
「そういえば、入ってくる時も、少し土が盛ってありましたね。」
「だけど、暗いのは改善の予知ありだな。」
「火災の問題もあるぞ。火種を増やせば、それだけリスクが増えるじゃないか。」
「そうか、松明を使うわけにもいかねえよな……」
「なんか、うまい方法ないっすかね。」
「獣脂を使ったランプって方法もあるけど、匂いがきついらしいし……」
「うわっ、室内で匂いはダメだろ。」
「まあ、とりあえずは鉄で農機具を作ってみようか。それで油が絞れれば最高なんだけど。」
「でも、鉄ってそんなに転がってるものなのか?」
「さっきトラさんに確認したんだけど、山火事のあとに地表に残っているみたいだよ。」
その日は一泊し、俺たちは一旦帰って必要な機材を作って戻ってくることを約束した。同時にアラ(鉄)と炭があったら確保しておくよう依頼する。
カナはついてきたいと言い出したが、さすがに男3人のグループに同行させるほど寛容ではあるまい……と思っていたのだが、あっさりと動向を許可された。
校舎まで3時間ほどの距離だ。翌朝出発し、昼には到着した。
「さてと、俺はフイゴとやっとこを作っちゃうから、二人は持っていけそうなものを物色しておいてよ。」
「どうする、リヤカーで持っていくのか?」
「そうするつもりだよ。」
「じゃあ、俺は食堂を探してみよう。」
「僕は、演劇部や美術部の部室あたりでカナちゃんに必要そうなものを探してみるよ。カナちゃん行こうか。」
「はい。」
「あっ、ミコトちょっといいか。」
「なんですか?」
俺はカナに聞こえないようにミコトを呼び寄せた。
「トラさんに言われてるんだけど、もしカナにその気があったら……その……エッチしてくれってさ。」
「えっ、な、何を……」
「倫理的な問題じゃないんだ、ああいう閉鎖的な里では、どうしても近親間での……その……交配というか関係が強くなってしまうんだ。だから、外部からの子種が必要なんだよ。別に結婚とか難しく考える必要はない。」
「だって、もし子供ができちゃったら……」
「子供は里全体の共有と考えているから問題ない。俺もいろいろとこの時代のことを学んできたから、その切実さは理解している。ただ、あくまでもカナが望んだ場合だぞ。」
「それは分かりますけど……」
「お前がカナに好意を持っているのは見ていてわかるよ。別に今日・明日とは言わないから考えてみてくれ。」
「……」
「この時代の平均寿命は30才くらいだ。里を存続させるためには、カナも早めに子供を持つ必要がある。あの里にとって今回俺たちが現れたのは、そういう意味でチャンスなんだよ。」
「ちょっと、考えてみるっす。」
【あとがき】
勾玉が”芽”というのは、私の勝手な妄想です。いまだに明確な説はありません。ただ、写真で見ていた時とは違い、初めて自分で手に入れた勾玉を掌(てのひら)に乗せたときに、唐突にこれは”芽”だって感じたんです。首からぶら下げている時には分かりませんでしたが、逆にしてみると同じように感じる方もおられるのではないでしょうか。
それから、交配についてですが、本文中にも書かせていただきましたが、近親間での交配を避けるために外部からの血を取り入れる必要性が高かったようです。恋愛感情と子作りは別物という意識が強かったのではないかと言われています。
皆様からのご意見・ご感想お待ちしています。
「「オポカムィ!」」
彼らが見ていたのは俺たちではなく、ハクとシェンロンだったようだ。俺たちは刺激しないようにそこで立ち止まった。カナはその中の一番年配の男性のところに向かい何か話しかけている。髭もじゃだが、少し長い髪を後ろで結んでおり壮観な感じがする。年配といってもうちの父親と同じ40歳くらいに見えた。ちなみに縄文時代の平均寿命は30才くらいだといわれている。平均なのだから、40代のおっさんがいても不思議ではない。カナはそのおっさんを伴って俺たちの元に戻ってきた。
「ティティノトラナリ。」
カナは父だと紹介してくれた。俺たちもお辞儀をして、それぞれ自己紹介した。
「パパパ、リボンミツェル。パァク、ツェンロン、オイデ~。」
「パパパ?」
ミコトが不思議そうに聞いてきた。
「パパは母だよ。リボンと一緒にハクたちを見せに行ったんだろう。」
トラの目は嬉しそうにカナの姿を追っている。なんか気まずい……が、俺たちがオオカミを連れているいきさつと、生活の様子を見せてほしい事を伝えた。多分伝わったと思う……ので、ここからは現代語に翻訳して伝えていこうと思う。
「俺たちの生活なんか見てどうするんだい?」
俺はリュックからペットボトルを取り出してトラさんに手渡した。
「水を入れる容器です。壊れやすいけど軽いため、持ち運びには便利です。俺達には他にもあなたたちの知らない知識がある。何かお手伝いできる事があればと思っています。」
「確かに、こんな物は見たことがない。他にもあるというのか?」
俺は腰からゆっくりと剣を抜いた。
「アラから作った狩りをするための道具です。」
「こ、これをアラから作ったというのか。いったいどうやって……火の中に入れても変わらないはずだ。」
アラとはこの時代の鉄をさす言葉だと聞いている。
「木を燃やすよりも高い温度で熱すれば加工できます。この技術で、木を切ったり農作業に使う道具を作る事ができるんです。」
「それは興味深い。何よりお前は”メ”を持っているから、信用に値する。」
「”メ”とは?」
トラさんは自分の首から下げていた勾玉を指さした。
「お前たちの呼び名は違うのか?」
「俺たちはマガタマと呼んでいます。」
「マガ?なんでそんな忌まわしい呼び方をするんだ?」
「忌まわしい……あっ禍々(まがまが)しいのマガじゃなく、違う意味なんですけど……。なんでこれが”メ”なんですか?」
「見ればわかるだろう。種から芽が出てくるところじゃないか。色だって緑色をしてるだろ。」
「あっ……」
ヒスイは必ずしも緑色とは限らないが、緑色のほうが好まれる。現に俺のは少し白の部分が多い。国産の緑色が強いものなど、高校生が買える値段ではない。
俺はこれまで、勾玉の形は胎児ではないかと思っていたが、この時代の人が胎児の形など知っていたのかという疑問があった。だが、これが”芽”であるならばしっくり来る。縄文の土偶は、近年有力な説では、木の実をデフォルメして擬人化したものだといわれている。自然を崇拝するこの時代の人たちが、発芽をイメージした勾玉を身につけているというのは理にかなっているのではないか。まさに生命(いのち)の象徴である。
「これが……芽……」
この時代に対するピースが一つ埋まった気がした。俺はトラさんの手をとってスゴイ凄いと叫んでいた。
「俺は、ひらがなの”め”じゃないかと思ったぜ。横にしたら”め”だろ?」
「横にしたら”の”っすよね。穴も一つだし。」
「ぐっ……」
そのあとで、俺たちは家の中に案内された。使っている土器は郷土資料館で見たような肉厚の土器で平底式である。縄文早期には主に尖底土器が作られ、土にさして使われていたといわれるが、定住化が進むと平底式に移行していったと見られている。ほかにも木で作られた大小の匙(さじ・西洋でいうスプーン)や箸・小皿などがみられる。中央にある囲炉裏では火が焚かれ、串刺しになった魚が干されていた。柱は3本で、直線状に並んでいる。その柱を起点に縦横の竹を組んで、その上にカヤを重ねる。居住空間は地面から1mほど掘り下げられ年間を通じて温暖な室温を与えてくれる。家の隅には六つの寝床らしきものがあった。盛り上がっているところを見ると、枯草の上に布をかけてあるのだろう。家の中を見る限り、ここは縄文後期で間違いなさそうだ。現代から4000年前といったところだろう。
「雨漏りしないんっすかね。」
「カヤっていうのは、イネ科の植物の総称で茎に油分が含まれているらしいよ。だから水が浸み込みにくくて、茎を束ねた時にできる隙間を伝って下へ下へと水が落ちていくらしいんだ。それに、地面を掘ったときに出た土を周囲に盛ってあるから水が流れ込んでくることもない。」
「そういえば、入ってくる時も、少し土が盛ってありましたね。」
「だけど、暗いのは改善の予知ありだな。」
「火災の問題もあるぞ。火種を増やせば、それだけリスクが増えるじゃないか。」
「そうか、松明を使うわけにもいかねえよな……」
「なんか、うまい方法ないっすかね。」
「獣脂を使ったランプって方法もあるけど、匂いがきついらしいし……」
「うわっ、室内で匂いはダメだろ。」
「まあ、とりあえずは鉄で農機具を作ってみようか。それで油が絞れれば最高なんだけど。」
「でも、鉄ってそんなに転がってるものなのか?」
「さっきトラさんに確認したんだけど、山火事のあとに地表に残っているみたいだよ。」
その日は一泊し、俺たちは一旦帰って必要な機材を作って戻ってくることを約束した。同時にアラ(鉄)と炭があったら確保しておくよう依頼する。
カナはついてきたいと言い出したが、さすがに男3人のグループに同行させるほど寛容ではあるまい……と思っていたのだが、あっさりと動向を許可された。
校舎まで3時間ほどの距離だ。翌朝出発し、昼には到着した。
「さてと、俺はフイゴとやっとこを作っちゃうから、二人は持っていけそうなものを物色しておいてよ。」
「どうする、リヤカーで持っていくのか?」
「そうするつもりだよ。」
「じゃあ、俺は食堂を探してみよう。」
「僕は、演劇部や美術部の部室あたりでカナちゃんに必要そうなものを探してみるよ。カナちゃん行こうか。」
「はい。」
「あっ、ミコトちょっといいか。」
「なんですか?」
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「トラさんに言われてるんだけど、もしカナにその気があったら……その……エッチしてくれってさ。」
「えっ、な、何を……」
「倫理的な問題じゃないんだ、ああいう閉鎖的な里では、どうしても近親間での……その……交配というか関係が強くなってしまうんだ。だから、外部からの子種が必要なんだよ。別に結婚とか難しく考える必要はない。」
「だって、もし子供ができちゃったら……」
「子供は里全体の共有と考えているから問題ない。俺もいろいろとこの時代のことを学んできたから、その切実さは理解している。ただ、あくまでもカナが望んだ場合だぞ。」
「それは分かりますけど……」
「お前がカナに好意を持っているのは見ていてわかるよ。別に今日・明日とは言わないから考えてみてくれ。」
「……」
「この時代の平均寿命は30才くらいだ。里を存続させるためには、カナも早めに子供を持つ必要がある。あの里にとって今回俺たちが現れたのは、そういう意味でチャンスなんだよ。」
「ちょっと、考えてみるっす。」
【あとがき】
勾玉が”芽”というのは、私の勝手な妄想です。いまだに明確な説はありません。ただ、写真で見ていた時とは違い、初めて自分で手に入れた勾玉を掌(てのひら)に乗せたときに、唐突にこれは”芽”だって感じたんです。首からぶら下げている時には分かりませんでしたが、逆にしてみると同じように感じる方もおられるのではないでしょうか。
それから、交配についてですが、本文中にも書かせていただきましたが、近親間での交配を避けるために外部からの血を取り入れる必要性が高かったようです。恋愛感情と子作りは別物という意識が強かったのではないかと言われています。
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