縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-

モモん

文字の大きさ
8 / 25
第二章

第7話 マガ

しおりを挟む
 タイムスリップを考える時に、現代への影響とかタイムパラドックスとかを考慮する必要があるのか。答えは”否”である。最近見たドラマでも、江戸時代にタイムスリップしたら自分の祖先と接触して存在そのものが消えかけたなんて設定があった。もし、日本の人口10万人程度のこの時代に、そんなことを気にしていたら動くこともできない。
 校舎に戻った俺たちは一日半かけて準備を終えた。初めて布団で寝たカナはとても喜んでいた。演劇部の部室にあったとかで、今はTシャツにジャージの姿だ。部室にあった大きな鏡を見たときに、何度もお辞儀を繰り返していたとか、俺も見たかったものだ。野菜なしのお好み焼きに喜び、ソースやマヨネーズの味に目を見開くカナは見ていて飽きない。生徒会室にあったオレンジ味のアメを食わせた時には、この世のものとは思えない幸せそうな顔をしていた。
 折り畳みリヤカーに必要な機材を積み込み、昼過ぎには俺たちはトラさんの里に戻った。カナが持ち帰ったのは、主に裁縫用具と布製品・アクセサリーだ。ガラスやプラスチックのネックレスやブレスレットを姉や母親に分けている。
「喜んでもらえたみたいだね。」
「うれしいっす。」
 ワンワン!
「おっ、狩猟組も帰ってきたみたいだね。」
 里へ来た初日、狩りに同行していた縄文犬とオオカミたちの間でにらみ合いがあった。さすがに威嚇はしなくなったものの、まだ距離感はある。当のハクとシェンロンは相変わらず女性陣にモフられている。短毛の縄文犬に対してロン毛の二匹は触り心地もよいのだ。

 俺は、石を積み上げ”炉”を組んでいく。学校で作ったものより熱効率を考え、フイゴの吹き込み口も複数人での作業を考慮した配置にする。金床の設置場所についても、複数人で叩けるように広めのスペースを確保した。学校から持参した炭を起こし、フイゴを稼働させる。フイゴの担当はカナよりも少し小さいくらいの少年だ。赤くなった炭の状態を確認し、大き目のアラ(鉄塊)を投入する。炭のパチパチ爆ぜる音と、小気味よいフイゴの呼吸音。頃合いを見計らって掻き出し棒でアラを手元に引き寄せる。徐に打ち下ろすハンマーと飛び散る火花。鉄と鉄とがぶつかり合う甲高い音に応えてギャラリーから歓声があがる。
 過熱して叩く、また過熱して叩く。それを何度も繰り返して一面を平らにしていく。錆を落とすため、一応全面を焼いて叩くと赤黒い表面が削れて鉄の肌が顔を出していった。
「こんなもんだね。」
 一通り全面を確認して、横に作った水たまりに浸す。ジュワーという音とともに水蒸気が上がった。十分に冷えたところで水気をふき取り、機械油を塗りこんでいく。
「これは何ですか?」
「金床といって、これから作る道具をこの上で叩くんですよ。作業用の台になります。」
 ギャラリーからの質問に応えていく。このパフォーマンスの目的は新しい技術を伝えることなので、男性全員である8名に見てもらっている。ちなみに、女性は幼児を入れて6人。総勢14名の里だ。
「次に、今使っているハンマーと同じものをもう一つ作ります。」
「なんで?」
「二人で叩いたほうが、早くできるでしょ。」
 中くらいのアラを選んで過熱。やっとこで掴みだして叩く。この繰り返しで成形し、木の柄を差し込んでもう一本のハンマーを完成させる。ここからは叩き手を増やしたので作業が加速していく。スコップ、クワ、三本爪のクワを作ったところで薄暗くなってきた。
「今日はここまでにしましょう。道具の使い方は明日説明します。お疲れさまでした。」
「「「お疲れ様。」」」
 全員で一番大きなトラさんが寝泊まりしている家に入り食事にする。
「ソーヤ、ほかにはどんな道具を作るんだ?」
 トラさんが聞いてきた。
「そうですね。ヤリの先とか今僕が持っている剣とかですね。そうそう、料理用の道具も作りますよ。」
「料理用?」
「ええ。肉を焼く皿とか、アラの網とかあったら便利かもしれませんね。」
「皿?網?」
 どういうものかイメージできないようだ。まあ、実物を作って使ってもらえばわかるだろう。それに、オノやノコギリも作りたい。ノコギリがあれば木の板も作れる。生活が大きく変わるだろう。

 その夜だった。トラさんの家に寝泊りしている俺たちは、ハクとシェンロンの唸り声で目を覚ました。
「どうした?」
 ハクとシェンロンは入り口と反対の方向を見て唸っている。
「外か……」
 囲炉裏のわずかな灯りの中で、俺はバッグからソーラーチャージ式のバッテリーを取り出し、LEDライトをつけた。
「なんだね、それは!」
「あとで説明します。」
「リュウジ、ミコト、外みたいだ。」
「おう。」「はい。」
 ハクとシェンロンを促し、俺たちは武器をとって入り口のムシロを開けて外に出る。
「な、なんだあれは!」
 LEDの明かりに照らし出されたのは、数十体の黒い靄(モヤ)のような物体と頭部らしき位置に光る赤い目だった。
「マ、マガ……」
「マガ?いや、いい、ミコト!」
「はいな!」
 応じるや、ミコトは矢を射った。シュンという音と共に放たれた矢は一体の目らしき部分の中心を貫通し、それは霧散した。
「物理攻撃でいけるようだな。リュウジは右から俺は中央から行く。トラさん、このライトを持っていてください。」
「おう!」
 切った時の手ごたえは無かったが、切れば確実に消滅していく。ハクとシェンロンもかみ砕いていき、ものの数分で戦闘は終わった。剣にも、何かを切った痕跡はなかった。
「ふう、お疲れ。」
「「おいっす。」」
 トラさんに預けたライトをとり、周辺を確認したがもういないようだ。その時、一棟から叫び声があがった。駆け寄ってムシロを跳ね上げライトで照らすと寝ていた一人の上に黒いのが纏わりついている。だが、俺が動くよりも早くハクが駆け寄り退治してくれた。
「ハクもお疲れ。」
 ハクはウォンと応じた。取りつかれていた若者も、特に以上はないようだ。もう一軒に異常のないことを確認した俺たちは、トラさんの家に集合して事情を聞いた。
「マガは年に数回現れるのだよ。マガが何なのかわしらにも分からんのだが、普段は犬たちも気づくことはない。そして、長時間取りつかれたものは衰弱しておる。」
「死ぬんですか?」
「いや、今まで人が死んだことはないのだが、マガに取りつかれると立てなくなるほどに衰弱して、当分の間回復しないのだよ。」
「誰かが気づけば追い払えるんですよね?」
「いや、わしらの弓やヤリでは空をきってしまうのじゃ。これまでに退けることに成功したのは、火を炊いて明るくした時だけだった。」
「石器では効果がなく……、鉄が有効なのかな?」
「でも、僕の矢はアシですよ。」
「それに、ハクたちの攻撃も有効だったしな……」
「何か別の要因があるのか……」
「なんか、異世界っぽくなってきたっすね。」
「いや、ここは縄文時代だよ。それで間違いない。」
「いやいや、歴史であんなもん習ったことないだろ。」
「記録に残っていないだけだよ。変な期待するんじゃない。」
 LEDライトについては、太陽の光を貯めておく道具で、俺たちの里でもこれ一台しかないと説明した。偶然手に入れた材料を使っており、複製はムリだとも……。


【あとがき】
 ここにきて、やっとファンタジー要素がでてきてくれました。マガは禍禍しいから来ており、不浄なものとして登場させました。ソーラーチャージ式のバッテリーは、非常災害の時にも活躍してくれそうで、複数個確保しています。フル充電してあれば、充電しなくても数日間照明として使えます。それとは別に、ソーラー式の発電パネル(携帯式)もあり、それからスマホやバッテリーに充電することもできます。バッテリーに直挿しして使えるLEDライトとか、色々と想定して備えておくと良いかと思っています。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

処理中です...