縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-

モモん

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第二章

第8話 薬

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 マガに襲われた翌朝、俺たちは妙に疲れていて寝坊してしまった。
「ご、ごめん。寝過ごした……」
「いいんですよ。昨夜は初めてマガを退治できたんですから、ゆっくり寝ていてください。」
 カナのお姉さんであるシャラさんがそう言ってくれる。リュウジとミコトもまだ寝ていた。ちなみにシャラさんは授乳中である。いけないと思いながら胸元に意識が向いてしまう……きれいで柔らかそうな胸だった。
「もう大丈夫です。」
 そういいながら立ち上がると、軽い眩暈(めまい)に襲われた。頭を振って自分に気合を入れ外に出るとハクとシェンロンもついてきた。顔を洗うため池に行くと先客がいた。
「カナおはよう。」
「あっ、ソーヤ、おはようございます。昨夜(ゆうべ)はお疲れさまでした。」
 カナは全裸になって腰まで水に浸かって体を洗っている。ほどいた髪が水にぬれ体に張り付く。スレンダーだが引き締まった身体をしていた。
「もう少し大きくなれば、カナもシャラさんみたいな胸になるのかな。」
「私はもう大人です。知らないんですか、女の胸は子供ができると大きくなるんですよ。」
 少しふくれたカナもかわいい。
「シャラさんの子供は何ていう名前なんだ?」
「うーん、次の年を迎えるまで名前はつけないんですよ。亡くなっちゃうと悲しみが大きくなるから。」
 この時代、乳児の生存確率は低かっただろうといわれているが、サンプル数が少なく実はよくわかっていない。このカナの言葉を聞いて、俺の中でモヤモヤしていたものが形を得たような気がした。実は今回の荷物の中に、図書室から持ち出した2冊の本が入っている。”食べられる野草”と”薬になる野草”だ。これを畑で栽培して薬として貯蔵すれば、乳児を含めて助かる命が出てくるのではないか。そんな考えがまとまった時、カナの声で我に返る。
「ハクとシェンロンもおいで、気持ちいいよ。」
 請われるままに二匹は水に入っていく。キャハハと笑いながら奥に向かって泳ぎだし、二匹も追随した。俺は火照った顔を水で冷やし髪を整えて上に戻った。そう、まずは畑を拡張しなけてば話にならない。

 昨日作った三本爪のクワで畑の先の斜面を崩し土を耕していく。畝(ウネ)を作り、大豆と小麦・ゴマの種を3粒ずつ植えてみた。これは穀物の標本から抜き取った数少ない種なので慎重にならざるを得ない。
「ナニやってるんですか?」
 水浴びを終えたカナが聞いてきた。まだ髪が濡れている。
「俺たちの国で栽培されていた種を植えてみたんだ。うまく実ってくれれば、食べるものの種類が増えるだろ。それに保存もきくし。」
「どんなものを植えたんですか?」
「マメと小麦とゴマだよ。」
「小麦って、この間食べさせてもらった、白い粉のことですよね。本当にあれができるんですか?」
「芽が出てくれれば、その可能性はあるね。」
「楽しみです。私も一生懸命お世話しますね。」
「ああ頼む。それから、カナにはもう一つ手伝ってほしいことがあるんだ。」
「何ですか?」
 俺は家に戻って、バッグから”薬になる野草”の本を持ってきた。
「それは?」
「そうか、カナは本……というか、文字を知らなかったね。この黒いごにょごにょした線は……なんていったらいいかな、言葉を表してるんだ。」
「ことば?」
「そう。例えば”かな”という言葉は、文字にするとこうなる。」
 俺は地面に棒で”かな”と書いた。
「これでカナってわかるんですか?」
「そう。俺とリュウジとミコトは文字が読めるから、これでカナってわかるんだ。」
「そんなもの何に使うんですか?」
「俺の知っていることを文字で残せば、いちいち言葉で説明しなくても知ることができるだろ。」
「そんなの、言葉で伝えればいいじゃないですか。」
「俺が死んじゃったらどうなる。」
「えっ……」
「それに、一度教えただけじゃ忘れちゃうことだってあるだろ。」
「……そうですね。」
「それで、この本は、薬のことを調べた人が書いて残してくれたものなんだ。」
「くすり?」
「そう。例えば熱が出た時に、熱を下げてくれる葉っぱとか、咳がとまらないときに咳をとめてくれる木の実とかだね。」
「そんなものがあるんですか!」
「ああ。そういう植物を探してここに植えておけば、シャラさんの子供が急に熱を出してものませてあげられるだろ。」
「……それは、本当なんですか?そんなことが本当にできるんですか?」
「そういうことを一生懸命調べてくれた人が、その知っていることを書いて残してくれたのがこの本なんだ。」
「そんなことが……」
「もちろん、この辺にある草だけじゃないから、この中からこの辺で見つかりそうなものを探していかないとね。」
「カナも探します!」
「うん、カナにも手伝ってほしいんだよ。さしあたって必要そうなのは、熱を下げるものと咳を止めるものかな。」
「それと、お腹が痛いときも。」
「わかった。その三つを探してみようか。」

 咳止めとして使えそうなものに”アマチャヅル”があった。アマチャヅル茶というのを見かけた気がする。日本全国の樹陰や藪の縁などに自生していると書かれており、挿絵を参考に探したところ簡単に見つかった。早速土毎採集して畑に植え替えた。
 解熱用として効果的なのはクズの根らしい。本来は冬場に採取するのだが、少しでも澱粉がとれればと思い条件にあったクズを探す。澱粉を貯めるのは高く上に伸びたツルで、何年も経過した太いクズ。根を切って白い液が出てくれば澱粉を蓄えている証。何本も切ってやっと見つけたクズの根を掘り出した。傷薬用にもクズの葉が使えると書いてあったので葉も採取した。腕のように太いクズの根の皮を剥き、寸胴の中に入れて砕いていく。それを布袋に入れてつぶしていくとわずかに白っぽい液がにじみ出てくる。やっとの思いで200cc程度絞りだし一晩おいて澱粉を沈殿させる。上澄みを捨てて水を継ぎ足し攪拌、また一晩おいて澱粉を沈殿させを数回繰り返した。これを乾燥させればくず粉の完成である。葉のほうは乾燥させて粉にし、油を混ぜて練り上げそれを傷口に塗布するといいみたいだ。食用油を取りに学校へ一度戻る必要がある。
「俺たちも手伝うぞ。」
「それなら頼みがある。学校に戻って、タッパとメモ用紙……ポストイットがいいかな。メモ帳と筆記具も適当に持ってきてほしいんだ。」
「了解っす。」
「ああ、それから食用油をペットボトルに入れてもってきてくれよ。」
「分かった。」
 リュウジたちのとってきてくれたタッパに、生成日と品名”くず粉”用法:お湯で溶いて飲ませるとメモしておいた。葉っぱの粉と油を混ぜた方は、傷薬とメモする。
「あの……ソーヤさん。」
「なに?」
「私も字を覚えたい……です。」
「うーん、大変だぞ……」
「大丈夫です。頑張りますから。」
「わかった。ミコト、カナにひらがなを教えてやってくれ。」
「あーっ、50音の表とか……ないっすよね。図書室に絵本とか……」
「ねえよ、そんなもん。」
「あとは腹痛用だね。ヨモギが良さそうなんだけど、薬として使うには2か月くらい待ったほうが良さそうだね。」
「そっか、生薬ってのは時期も重要なんだな。」
「うん。くず粉はカビが生えなければ保存がきくんだけどね。だから、咳止めなんかは複数確保しておいた方がいいみたいだよ。」
「他にはどんなものがあるんだ?」
「えっとね、赤紫蘇とか、ヤマユリは秋か……、ああ、この時期ならハハコグサがありそうだね。」
「どんな花なんだ?」
「これだよ。」
「よし……、あれっ、これって下のところに生えてるやつじゃね?」
 ハハコグサを採取し、日陰干しにした。


【あとがき】
 鳥の写真を撮りながら歩くのが趣味で、川沿いや林道など県内の各地を歩きました。そのおかげで、植物、特に花を目にしたり写真に撮って名前を調べることもよくありました。今回の薬草編では、その時の経験が役に立っています。
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