縄文の女神 -異世界なんてないんだよ-

モモん

文字の大きさ
22 / 25
第四章

第21話 鬼

しおりを挟む
「深呼吸はできるか?」
「うん?……ああ大丈夫だ。」
「なら、骨折の可能性は低いな。できれば湿布したいところだが……」
「応急の湿布なら小麦粉があるから大丈夫だよ。」
「小麦粉だとぉ?」
「小麦粉を水で練って患部に塗るだけだよ。本当なら酢を使った方がいいんだけどね。」
 俺は小麦粉を練って患部に塗り、その上からタオルをあてて包帯で巻いた。
「これで3時間はもつから大丈夫だよ。」
「マジかよ……」
「救急箱から包帯や三角巾を持ってきてよかったよ。」
 俺たちは翌朝、少し遅くまで寝て出発した。
「申し訳ない、やっぱり歩くのがゆっくりになっちゃうな……」
「気にするな。急ぐ旅じゃねえんだ。」
「それよりも、次に鬼が出た時にどうするかっすね。矢は多めに補充したっすけど……」
「ミコトの矢を温存しておいてマガは俺たち二人でやるか。」
「委員長の状態を考えたら、それ厳しくないっすか。」
「うん。それに関しては試してみたいことがあるんだ。」
「なにするつもりなんだ?」
 俺は夕食の時に、竹林から3本の手ごろな竹を切り出した。釣り竿に使えるくらいのものだ。
「竹なんかどうするんだ?」
「こいつの枝葉を落として銘を切るんだ。」
「銘だと……正気か?」
「セオリツヒメ様が言ってたんだ。言霊(ことだま)が物の本質に影響するんだって。もちろん、使い手の資質も要求されるんだろうけどね。」
「そういえば、カナのレイピアも銘切りしてあったっすね。」
「まあ、そう言うんなら試してみるか。ダメなら刀に戻せばいいだけだしな。ところで、気になっていたんだが……」
「何?」
「俺が切る前に、鬼が動きを止めたよな。」
「そういえば……。」
「えっと、こっちに来て最初の頃にイノシシが出ましたよね。」
「ああ、俺もそのことを考えてた。」
「あの時も委員長の左手がイノシシに触れた直後だったっす。イノシシの動きが止まったっすよね。」
「今回も、ソーヤの左手が鬼の右手をとらえてたな。」
「あれって、とある魔術のナンチャラに出てくる主人公と同じじゃないんすか?」
「いや、あれは魔法の無力化だから違うだろ。最初のミサイルから考えれば、パワーの吸収とかじゃないか?」
「パワーというかエネルギーっすかね。」
「この左手にそんな力があるとは思えないけど……」
「マガもエネルギーの塊っぽいから、次に出たら試してみろよ。」
「どうやって?」
「こうやって左手を前に出して”吸収”って叫ぶんだよ。」
「そこは、右手を腰にあててほしいっすね。」
「それでダメなら、左手でマガに直接触るんだな。」
「それ、危ないだろ!」
「俺が弓で狙っておくっすよ。」
「そんな特技があったら苦労しないよ。で、鬼はどうする?」
「まあ、俺がやるしかないだろう。」
「そうだね。頼むよ……あれっ……」
「なんだ?」
「そこ……なんだろう?」
「なんだよ、何もないだろ。」
「どうしたっすか委員長?」
「いやいや、それ……見えないの?」
「何があるっていうんだよ。」
「四角い……木が二枚重なって……これ、木霊?」
「木霊だと、お前ついに巫女になったんか……」
「委員長、まさかNH?」
「誰が国営放送じゃ!」
「ホントに見えるのか?」
「うん。真ん中に黒い目みたなのがあって、体も手足も黒いんだ……いや、濃い茶色かな?」
「大きさは?」
「20センチくらいだね。ハク、これって木霊かな?」
ウォン!
「やっぱり木霊みたいだね。」
「それが見えるようになったって……どういう事なんだ?」
「やっぱり、女性化が進んでいるんじゃないっすか?」
「いや、胸も出てないし、チ〇コもちゃんとあるぞ。」
「じゃ、なんでだ?」
「俺に聞かれても分かんないよ。」

 若干の不安を抱えながら俺たちは眠りについた。その夜もマガの襲来があった。ビュンビュンビュン!竹竿は効果があった。
「こりゃあ、楽でいいな。」
「ホントですね。距離もとれるし一度に5匹くらい消滅していきます。」
「よし、ソーヤ行け!」
「くっ、”消滅!”」
 俺は右手を腰に当てて左手を前に出す間の抜けたポーズで叫んだ。当然何も変化はない。
「違う違う”吸収”だろ。」
 もう、やけだった。”吸収”と叫ぶが同じだ。
「よし、次は直接触るんだ。」
「もう止めようぜ……」
「だめだ、真実を追及するんだからな!」
 こいつら、絶対楽しんでいやがる……。俺は仕方なく近くのマガに寄って左手を差し出した。マガは……消滅した。
「うげっ、おえっ……」
「やったっすね!」
「どうしたんだ?」
「気持ち悪い……下水道の中に入ったみたいな感じ……こんな思いするなら、竹竿で処理した方が楽……」
「そうか、だがこれで左手の謎は解決に近づいた。あとは任せろ。」
 なんだかコナンみたいなセリフだと思った。
「あちゃー、リュウジさんまずいっす。鬼が二匹いますよ。」
「大丈夫だ。ミコトは一体に矢を浴びせて足止めしてくれ。」
「了解っす。」
「俺も……いく……」
「あーっ、委員長、寝ててくださいよ。」
「大丈夫だ。」
 鬼の横にもぐりこんだつもりだったが棍棒を反転させてきた。棍棒が脇腹を抉ると思った瞬間、世界の色が消え白と黒が反転した。俺は少しバックステップし鬼の脇腹に左手を押し当てた。鬼の消滅と世界に色が戻るのは同時だった。
「お、おぇ……」
 俺は激しく嘔吐しその場に倒れこんだ。今度は下水の水を飲まされたような腐敗臭がした。
「無理スンナ。寝てろ!」
 リュウジは二匹目の鬼を仕留めにいったようだ。吐くものがなくなり、胃液まででてきた。俺はリュウジとミコトに抱えられ焚火の横に寝かされた。意識は朦朧としており、目を開けることもできない。……と、胃や胸のあたりを優しく撫でられる感触があった。”大丈夫?”、”しっかりしてください”。それはカナとナミの手であり声だった。疑問に思う余裕もなかったのだが……。
 翌朝、気分的には少しマシになっていた。二人は小麦粉を湯に溶いて飲ませてくれた。
「何があった?」
「鬼の棍棒が腹にめり込む寸前に……時間がゆっくりになった。」
「左手の効果か?」
「いや、左手は何も触っていない状態だった。棍棒を少し避けてから鬼を吸収した。あれは、マガを凝縮したような存在だった……」
「鬼はマガの集合体ってことか。」
「断言はできないけど、その可能性はあると思う。」
「その状態じゃ動かない方がいいだろう。今日は休養日にしよう。」
「ワルイ……」
 そのまま横になり、俺は木霊に呼びかけた。
「カナ、ナミ聞こえるのか?」
『あっ、起きたのね。』
『ソーヤさん、大丈夫ですか?』
「こんな事までできるようになったのか……」
『うん、昨夜突然だけどね。』
『ビックリしましたよ。』
「俺の腹をさすってくれたのも……」
『なんかできちゃったのよね。』
『ですよね~。』
「ソ、ソーヤさん、どうしたんっすか?」
「ああ、ミコトには聞こえないのか。今、カナとナミに話しかけてるんだ。」
「えっ、昨夜頭とか打ちました?」
「いや、ロリ願望が強すぎて幻覚を見てるんじゃねえの?」
「ちげーよ。木霊を通して直接会話できるようになったみたいなんだ。」
「マジかよ。巫女ってスマホみてえだな。」
「俺もカナと話したいっす」


【あとがき】
 やっと、この小説の本題である時間に触れることができました。なぜ三人がこの世界にやってきたのか。神話を交えながらひも解いていきたいと思います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。 日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。 アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。 「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。 貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。 集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。 そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。 これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。 今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう? ※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは 似て非なる物として見て下さい

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...