魔法指導師 -異世界職業斡旋所-

モモん

文字の大きさ
29 / 37
第三章 小さな勇者たち

第29話 初級冒険者

しおりを挟む
「今回の参加者は5名か。まあ3日間、頑張ってくれよな。これが初級冒険者の手引きだ。」

「えっ、これって……」

「驚いただろう。字の読めないやつにも、絵で解説してあるから説明があれば分かると思う。」

 アークがページをめくってみると、そこにはロープの縛り方や火の起こし方が図解入りで書かれていた。
 ロープの縛り方を説明した絵は、明らかに昨日見たものと同じだった。

「どうしたんですか、これ……」

「城に出来た店があるんだが、そこで作ってくれたんだよ。読みやすい字と一目で分かる絵。これだけでも銅貨3枚以上の価値があると思うぜ。」

 アーク自身は、文字は覚えたものの、思い出しながらなのでそれほど早く読む事はできない。
 だが、絵がある事で、昨日もロープの縛り方を覚える事ができた。

「次のページには、罠の作り方だって書いてあるし、その次のページには血抜きの方法もある。罠なら危険はないし、お前ら程度でも作れるだろう。こういうので金を貯めつつ、身体を鍛えるんだ。それで、武器や防具をいいものにしていく。それが冒険者の第一歩なんだよ。」

 アークには理解できていた。
 この資料は、間違いなくロンドの手が入っており、コピー機とかいうので増刷されているものだ。
 そして、次のページからは、魔物の倒し方とか急所などが図解されている。
 講師は、一発目に冒険者の心構え等を説明しているが、アークにはあまり興味がなかった。
 資料の後半には、傷の手当の仕方や、血止めに効果的な薬草と手当の仕方。
 発熱や腹痛の対処の仕方が書かれている。

 現台風に言えば、応急処置と対処の仕方だ。
 ケガ人や病人を運ぶ場合の運搬方法や注意点まで書かれている。
 確かに、これを知っていたらアリアドネを死なせることは無かったかもしれない。
 血止めを施して彼女を隠しておき、助けを呼びに行くとか、一緒にいて回復を待つとか、選択肢はいくらでもある。
 あの時、自分はパニックに陥っており、その場から逃げ出す事しか頭になかった。

 だからムリに歩かせ、最後は引きずってギルドに転がり込んだ。
 それを選択したのは、確かにアークだった。
 お前がアリアドネを殺した……そういわれるのも仕方のない事だったとアークは理解した。

「あっ、あの、大丈夫ですか?」

「えっ、何が?」

「だって、涙が出てますよ。」

「えっ……」

 アークは自分の頬に触り、涙が流れているのを発見した。

「何で……いや、そうか……」

 一緒に講習を受けていたのは、15才になったばかりという幼馴染の男女で、サカシとニーミの二人だ。
 二人は、休憩の度にアークに声をかけ、色々な事を聞いていた。
 当然だが、見慣れない姿や武器についても聞いてくる。

「何で剣じゃなく、そんな鉄の棒みたいなのを使っているんですか?」

「そうだな、人間相手じゃないから、魔物は少し斬ったくらいじゃ引き下がらない。だったら、一撃で行動不能にできる武器の方が効果的だと思わないか?」

「こんなので一撃なんですか?」

「まだ、近場しかいってないけど、ツチブタは一撃だったよ。」

「ツチブタですか、俺たちも一度だけ遭遇しましたけど素早くて逃げられちゃいましたよ。」

「私が風属性魔法で抑えようとしたんですけど、発動前に逃げられちゃって……」

「それは、練習して早く発動出来るようにするしかないだろ。」

「そうね。頑張るしかないのよね。」

 そして講習会も終わり、アークにとっては冒険者としての再スタートとなる。

「アークは、これからどうするんだ?」

「俺は既にEランクだからな。Eランクの依頼を受けながら、訓練していくだけだよ。」

「そうか。俺たちはFランクだから、当面は採集と雑用だな。」

「あの、アークさん。」

「なに?」

「私たちがEランクになったら、一緒にパーティーを組みませんか?」

「おお、俺もそう思っていたんだ。アークは経験もありそうだし、色んな知識もあるみたいだからな。」

「別に、パーティーを組むなら、今更採取なんてやらないで、Eランクの依頼を受ければいいじゃないか。」

「いいのか、それで?」

「ああ、構わないぜ。」

「じゃあ、依頼掲示板を見てみようぜ。」

「この時間に残っているのは、みんなが受けないようなつまらない依頼しかないぞ。」

「ああ、そういえば教官が言ってたな。みんな朝一番の張り出しを狙うって。」

「そうだぞ。だから今日は周辺を歩いて、狩りをしようぜ。みんなの実力を知っておけば、作戦を立てる事もできるしな。」

 こうして、アークたち3人は、カウンターでパーティー登録の申請を行い、正式に認められた。
 狩りでは、アークは身体強化を使わず、素のちからでどこまでできるか見極めていく。
 冒険者に復帰するために、それなりの訓練を続けてきたアークは、Dランク程度の力は持っている。

「二ーミ、詠唱を始めろ。サカシは左から追い込んでくれ。」

「はい。」 「分かった。」

 サカシに追い立てられたツチブタが藪から飛び出してきたところを、アークがバールの先端をヒットさせて一撃で葬る。
 そして木からぶら下げて、首と足の血管を切って血抜きをしておいて、周辺を歩いて次の獲物を捜す。

「すげえな。あんなにあっさりツチブタを仕留めた上に、血抜きの手際もいいし……」

「私は、ロープを使って木に吊るす手際が凄いと思ったわ。今日教わった縛り方でやってたわよね。」

「そうだな。縛るのは結構使うから、宿に帰ったら一通り練習しておいた方がいいぞ。それと、ニーミは夜寝る直前に魔力切れになってぶっ倒れるまで魔法を使う事。」

「そんな事をしたら、魔力切れで倒れちゃうじゃない!」

「魔力切れをすると、魔力の総量が少し増えるんだよ。俺も毎晩やるようにしてる。」

「えっ、アークも魔法を使えるの?」

「ああ、後で見せるけど、身体強化が使える。」

「アークの属性は?」

「それな。俺も教えてもらったんだけど、属性って関係ないらしいんだよな。」

「えっ?」

「属性がはっきりしている奴は、習熟度が上がるに連れて上位の詠唱を覚える事もあるらしいんだけど、呪文さえ覚えれば魔力のある人間なら、誰でも使えるんだってさ。」

「そ、そんなの聞いたことないわよ。」

「えっと、二人は字の読み書きはできる?」

「最近勉強を始めたんだ。まだダメだよ。」

「そうか……、じゃあさ、ニーミの風魔法を教えてよ。」

「えっ、魔法を教えるって?」

「あっ、呪文を教えてほしいんだ。」

「いいけど……」

 アークはニーミの風魔法の呪文を聞きながらメモしていった。
 そして、全てを書き記した後で、自分で読み上げて魔法を実現して見せる。

「うそっ!本当に発動した……」

「二人が字を覚えたら身体強化を教えるよ。」

「そ、そんなに簡単に教えちゃっていいのかよ。」

「ダメとか言われてないからいいんじゃね。」

 結局、この日はツチブタ2匹と角ウサギ1匹。それと灰色狐を捕獲してギルドに持って行った。

「すげえ、銀貨2枚なんて初めてだよ。」

「狐の毛皮が高かったみたいだな。」

「そうか、剣で切っちまうと、毛皮の価値が下がるって実感したよ。」

「角ウサギも同じなんだってさ。」

 翌朝、ギルドで待ち合わせる事にして、アークは2人と別れた。
 翌日は、復帰後初めての依頼に挑戦するのだ。
 アークは少しだけワクワクしていた。
 その夜は、バールに向かって風魔法を限界まで使って魔力切れを起こして意識を失った。

 アークの魔力量は、微量だが増えていった。


【あとがき】
 冒険者活動の再会です。

 男性ヂュオのハーモニーを始めて聞いたのがこの曲です。
Scarborough Fair;https://www.youtube.com/watch?v=SDXWYyRoQVc
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...