短編集【令嬢の憂鬱】

モモん

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超合金ロボ

組立式ハサミ

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「お手つきで生れてしまったジュリエッタ様ですから、邪魔者扱いされてしまうのは仕方ありません。
このまま存在感を示せなければ、近いうちに政略結婚の道具にされてしまいます。
ですが、優れたマスタークラスのお二人を王国認定に迎えられる可能性があるというだけで手放せなくなるわけです」

「僕たちも他からの勧誘を断る口実になると」

「さようでございます。
王城へはフリーパスで、滞在費用はすべてこちらで負担させていただきます」

「口は堅いですか?」

これは、念のためである。
双方に秘密がある場合、機密保持はそれほど難しくない。
こうして、第二王女ジュリエッタに僕らの交渉権を預けることとなった。
対価は王城へのフリーパスと情報である。
王城内の公になっている場所にマフユの痕跡や合成モンスターの情報はなかった。

僕たちはジュリエッタ王女の側近であるサラさんに案内されて豪華な宿についた。
5人くらい入れる浴槽と寝室の他に三つも部屋がある。
この程度でないと、本当に交渉の相手なのかと信用されないらしい。

夕食は断って、ギルド本部へ行き宝石を換金してもらう。
宝石一つで職人の年収分だといわれた時には驚いたが、二つ換金してもらった。
受付のお嬢さんにお勧めのスポットを聞いて町に繰り出す。

アクセサリー屋さんでネックレスや腕輪などを物色し、屋台で串焼きを頬張る。
洋服店でお揃いの服を買いペアルックでスイーツを楽しむ。

「やっぱり、シェラさんはどこにいても美しいです」

すれ違う人が振り返る。同性でも引き付ける美しさがあった。
僕たちはそこかしこで永遠にも思える長いキスをした。

「……無粋なことは止めていただけませんか?
遠目に見られるだけなら文句は言いません。
えっと、確か第一王子の関係者ですよね」

「すみませんね。なにしろ雇い主が品定めを催促してきますので」

「やれやれ……小脳シェイク!」

シェラさんの治療で脳を調べたときに、小脳に刺激を与えると平衡感覚と運動調整機能が狂うことが分かった。
つまり立っていられなくなり、四肢への力の加減が分からなくなるのだ。
治癒の流れを逆流させる応用業だ。
もちろん、大脳をシェイクしてやれば廃人にすることもできるが、そこまでやるつもりはない。

「な、なにを……」

何をされたのか分からなければ対策の立てようがないし、瞬間的だったのですぐに回復するだろう……運がよければだが。

ふと思いついて髪を切ってやろうと思ったのだが、この世界にはハサミが存在しなかった。

「シェラさん、鍛冶屋へ行きましょう」

「え、ええ」


「こういうナイフを2丁。
片方はここに穴が開いていて、もう片方は突起状になっていて組み合わせて使えるようにしてほしい」

「妙なナイフだな。
本当に使ってくれるんなら喜んで作らせてもらうが……」

組み立て式のハサミである。
あったら便利ってくらいのものだが……



「なんじゃこりゃ!
おい坊主!こいつは誰の考えたもんだ。すげえよ。
これなら、布や革が思い通りに切れるじゃねえか」

ハサミは3回の手直しで満足のいくものになった。

「髪の毛を切るのにも便利だよ」

「ちょっとついて来い!」

「どこへ?」

「仕立て屋に決まってんだろ」

「こんな時間に?」

「一刻でも早く教えてやりてえんだ。
使い勝手を聞いて、満足のいくものを作りてえ」

「分解できる必要はないんだ。
この軸の部分を固定してやればもっと使いやすいよ」

「うっ……いや、こいつで感想を聞く」

一瞬で大騒ぎになった。
王都中の仕立て屋と鍛冶屋が集まり、改善されて量産されていく。
ついでに、握りばさみも作ってもらい拍車をかけていく。

「おっちゃんの儲けとかどうするんだい?」

「そんなもん、後からついてくるさ。
とりあえず仕立て屋に行き渡らせるんだ。
口コミで広がれば全部の家に欲しくなる」

「おっちゃんねえ、貴族用に一本作ってよ」

「貴族用?」

「ああ、第二王女に渡してやるんだ」
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