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第5話 輪廻転生
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今日も勢いよくカーテンを開けると、眩しい朝日が室内に降り注いだ。
「ユキ!見て見て!」
まだ眠そうに目を擦っているユキに声をかける。
「んー、どうしたのだ?」
「もう蕾になってるよ!」
そう言ってベランダの鉢植えを指差す。まだ固い蕾だか、もうすぐ綺麗な白い花が咲くだろう。
「そうか、楽しみだな!」
明るい声と共にこちらに向けられた笑顔は、明らかに引きつっていた。
「ユキ、おいで」
「はーい!」
今度は本当に嬉しそうな笑顔で私の腕の中に飛び込んでくるユキを抱きしめながら考える。
ユキは私に何かを隠している。それは何となく感じていたけど、聞いたらこの幸せな時間が終わってしまいそうで聞けなかった。
でも、このままぬるま湯に浸かるような日々は、きっとユキにも私にも良くない。
「ねぇ、ユキ」
ユキを向かい合わせに座らせる。ユキも何かを感じ取ったのか、その表情に緊張が走る。
「どうしたのだ…?」
ゆっくりと呼吸を整え、落ち着いた口調で問い掛ける。
「私に何を隠してるの?」
翡翠色の瞳が揺らぐ。やっぱり何かを隠しているのは本当のようだ。
「なんの事だ…?」
「ユキ、誤魔化さないで」
きっと今聞かなかったら後悔する気がした。
「私には話せないことなの?」
ユキは困ったような顔をして俯いた。そしてしばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「いつか言わないとって思ってた…」
そう呟くユキ表情は前髪で見えない。
「でも言えなかった…」
「どうして?」
私の問いかけにパッと顔をあげる。その瞳には涙が溜まっていた。
「ご主人を、悲しませたくなかった…」
私が悲しむようなことなんて、1つしかない。まさか…
「ねぇ、ご主人」
ユキは自分の乱暴に涙を拭って私を見上げる。
「輪廻転生ってどういう意味?」
「えっと…全ての生き物が生まれ変わることだよね…?」
ユキはそうして人間に生まれ変わって戻ってきた。これは間違いないはず。
「ご主人、私はイレギュラーなんだよ」
「イレギュラー…?」
確かに記憶を持ってる辺りは特殊かもしれない。でも、それがどう関係あるんだろうか。
「人間になった私はどこから生まれた?」
「え…?」
ポカンとして俯く。ユキの話が分からない。理解なんかしたくない。なのに自分の脳が導き出した結論は最悪の可能性だった。
「人間のユキは…生まれてない…」
自分でも驚く程に冷たい声が出て、思わず顔をあげる。
「正解だよ、ご主人」
そこには悲しいくらいに綺麗な笑顔があった。落ち着いた声でユキは続ける。
「私は輪廻転生なんかしてない、制限付きの異質な存在なのだ」
「そんな…」
「イレギュラーな存在は世界に認められない」
「でも、ユキはここにいる!」
溢れる涙を止めることなく必死に真実を否定するが、そんな言葉は無意味なのは分かっていた。
「イレギュラーな存在は期限付きなのだよ」
「嘘だ!ユキは輪廻転生したから、これからも一緒だって…!」
「クリサンセマムの花言葉は、輪廻転生はただの言い訳だ…」
ユキが戻ってきてから違和感はあった。ユキが家から出なかったのは、出ないのではなく出られなかったと考えれば辻褄が合う。それに気付かないふりをして目を逸らしていたのは私だ。
身体から力が抜ける。あぁ…やっぱり世界は残酷だ…。2度もユキを失う絶望を与えるなんて…
「どうして…」
どうして、こんな酷いことを…
「ご主人が泣いてたから…笑って、ほしかった、から…」
ユキが泣いている。私は自分の気持ちばかりでユキの気持ちなんて考えていなかった。この苦しみは、私だけの筈ないのに…。
「ごめ、なさ……ご主人に…笑って…ほし…」
ギュッと思いっきりユキを抱きしめる。真実を隠して笑うのは、どれだけ辛かっただろうか。それでも私のために1人で抱えてきたのに…。
「ごしゅ…じ……ごめ…なさ…」
「ユキ、ありがとう…頑張ったね…」
そして2人で抱き合ってたくさん泣いた。
少し落ち着きを取り戻し、これからについて話さなければいけない。ユキの反応からして残された時間はもう僅かなのだろう。
「ユキ、残った時間はあとどれくらい?」
ユキは涙目のままベランダの鉢植えを指さした。
「…あの花が咲くまで」
今朝蕾になったばかりだが、花が咲くのはもうすぐだろう。
「そっか」
それなら少しでもたくさん話そう。思い出を作ろう。今度は笑ってさよならできるように…。
たくさん話して分かったことだが、どうやらユキは、自分が死んでからも私の事をずっと傍で見ていたらしい。私に笑ってほしくて、鉢植えの小さな芽にお願いした所、なんと返事が返ってきて、転生の順番を遅くするのを条件に期限付きで人間になったそうだ。
「私はご主人が笑ってるのが好きだ」
「ユキがいるから幸せなんだよ」
「私がいなくなっても、ずっと笑っててほしい」
ユキは私の笑顔のために、転生の順番を遅らせてまで戻ってきてくれた。それなら私もユキの気持ちに応えないとだよね。
「大丈夫、もう俯かない」
「私はちゃんとご主人のこと見てるから」
見えなくても居てくれる。それが分かるだけで、世界は明るくなる。
「そしていつか絶対に、ご主人の所に戻ってくる」
「うん!待ってるからね!」
この日2人で指切りした事は生涯忘れないだろう。
ある朝起きると、隣には誰もいなかった。
まさかと思いベランダに出ると、綺麗な白い花が咲いていた。
「ユキ、隣で見てるかな…?やっぱりユキみたいに綺麗な花が咲いたね」
花を見つめ、小さく呟く。
どこからかと猫の鳴き声が聞こえた気がした。
「ユキ!見て見て!」
まだ眠そうに目を擦っているユキに声をかける。
「んー、どうしたのだ?」
「もう蕾になってるよ!」
そう言ってベランダの鉢植えを指差す。まだ固い蕾だか、もうすぐ綺麗な白い花が咲くだろう。
「そうか、楽しみだな!」
明るい声と共にこちらに向けられた笑顔は、明らかに引きつっていた。
「ユキ、おいで」
「はーい!」
今度は本当に嬉しそうな笑顔で私の腕の中に飛び込んでくるユキを抱きしめながら考える。
ユキは私に何かを隠している。それは何となく感じていたけど、聞いたらこの幸せな時間が終わってしまいそうで聞けなかった。
でも、このままぬるま湯に浸かるような日々は、きっとユキにも私にも良くない。
「ねぇ、ユキ」
ユキを向かい合わせに座らせる。ユキも何かを感じ取ったのか、その表情に緊張が走る。
「どうしたのだ…?」
ゆっくりと呼吸を整え、落ち着いた口調で問い掛ける。
「私に何を隠してるの?」
翡翠色の瞳が揺らぐ。やっぱり何かを隠しているのは本当のようだ。
「なんの事だ…?」
「ユキ、誤魔化さないで」
きっと今聞かなかったら後悔する気がした。
「私には話せないことなの?」
ユキは困ったような顔をして俯いた。そしてしばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「いつか言わないとって思ってた…」
そう呟くユキ表情は前髪で見えない。
「でも言えなかった…」
「どうして?」
私の問いかけにパッと顔をあげる。その瞳には涙が溜まっていた。
「ご主人を、悲しませたくなかった…」
私が悲しむようなことなんて、1つしかない。まさか…
「ねぇ、ご主人」
ユキは自分の乱暴に涙を拭って私を見上げる。
「輪廻転生ってどういう意味?」
「えっと…全ての生き物が生まれ変わることだよね…?」
ユキはそうして人間に生まれ変わって戻ってきた。これは間違いないはず。
「ご主人、私はイレギュラーなんだよ」
「イレギュラー…?」
確かに記憶を持ってる辺りは特殊かもしれない。でも、それがどう関係あるんだろうか。
「人間になった私はどこから生まれた?」
「え…?」
ポカンとして俯く。ユキの話が分からない。理解なんかしたくない。なのに自分の脳が導き出した結論は最悪の可能性だった。
「人間のユキは…生まれてない…」
自分でも驚く程に冷たい声が出て、思わず顔をあげる。
「正解だよ、ご主人」
そこには悲しいくらいに綺麗な笑顔があった。落ち着いた声でユキは続ける。
「私は輪廻転生なんかしてない、制限付きの異質な存在なのだ」
「そんな…」
「イレギュラーな存在は世界に認められない」
「でも、ユキはここにいる!」
溢れる涙を止めることなく必死に真実を否定するが、そんな言葉は無意味なのは分かっていた。
「イレギュラーな存在は期限付きなのだよ」
「嘘だ!ユキは輪廻転生したから、これからも一緒だって…!」
「クリサンセマムの花言葉は、輪廻転生はただの言い訳だ…」
ユキが戻ってきてから違和感はあった。ユキが家から出なかったのは、出ないのではなく出られなかったと考えれば辻褄が合う。それに気付かないふりをして目を逸らしていたのは私だ。
身体から力が抜ける。あぁ…やっぱり世界は残酷だ…。2度もユキを失う絶望を与えるなんて…
「どうして…」
どうして、こんな酷いことを…
「ご主人が泣いてたから…笑って、ほしかった、から…」
ユキが泣いている。私は自分の気持ちばかりでユキの気持ちなんて考えていなかった。この苦しみは、私だけの筈ないのに…。
「ごめ、なさ……ご主人に…笑って…ほし…」
ギュッと思いっきりユキを抱きしめる。真実を隠して笑うのは、どれだけ辛かっただろうか。それでも私のために1人で抱えてきたのに…。
「ごしゅ…じ……ごめ…なさ…」
「ユキ、ありがとう…頑張ったね…」
そして2人で抱き合ってたくさん泣いた。
少し落ち着きを取り戻し、これからについて話さなければいけない。ユキの反応からして残された時間はもう僅かなのだろう。
「ユキ、残った時間はあとどれくらい?」
ユキは涙目のままベランダの鉢植えを指さした。
「…あの花が咲くまで」
今朝蕾になったばかりだが、花が咲くのはもうすぐだろう。
「そっか」
それなら少しでもたくさん話そう。思い出を作ろう。今度は笑ってさよならできるように…。
たくさん話して分かったことだが、どうやらユキは、自分が死んでからも私の事をずっと傍で見ていたらしい。私に笑ってほしくて、鉢植えの小さな芽にお願いした所、なんと返事が返ってきて、転生の順番を遅くするのを条件に期限付きで人間になったそうだ。
「私はご主人が笑ってるのが好きだ」
「ユキがいるから幸せなんだよ」
「私がいなくなっても、ずっと笑っててほしい」
ユキは私の笑顔のために、転生の順番を遅らせてまで戻ってきてくれた。それなら私もユキの気持ちに応えないとだよね。
「大丈夫、もう俯かない」
「私はちゃんとご主人のこと見てるから」
見えなくても居てくれる。それが分かるだけで、世界は明るくなる。
「そしていつか絶対に、ご主人の所に戻ってくる」
「うん!待ってるからね!」
この日2人で指切りした事は生涯忘れないだろう。
ある朝起きると、隣には誰もいなかった。
まさかと思いベランダに出ると、綺麗な白い花が咲いていた。
「ユキ、隣で見てるかな…?やっぱりユキみたいに綺麗な花が咲いたね」
花を見つめ、小さく呟く。
どこからかと猫の鳴き声が聞こえた気がした。
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