人生ゲーム

竹内 晴

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第漆章

Re:スタート

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 カオスの登場によりゲームは一時的に中断されてしまった。

 「改めまして、これよりゲームを再開させていただきます」

 カオスはゲーム開始の合図を出した。

 「それでは一巡目いちじゅんめです。最高・・・、ゼウス様からサイコロを振ってください。」

 カオスはゼウスにサイコロを渡した。

 サイコロはコロコロと音を立て、静寂に包まれる室内に無造作に転がされた。サイコロを振る事は全ての運命をその手に委ねるということ、今までとは違いそのサイコロは少し重たく感じられた。

 サイコロが止まった。

 「ゼウス様の出た目は⑦です!それでは7マスお進み下さい。」

 カオスの指示の元マスは進められた。

 「このマスでは、学校をサボり一人旅予期せぬ転機がおとずれる。それでは、下界の様子を見てみましょうか。」

 カオスはモニターの電源を入れた。

 (今日は学校だるいな・・・。別に成績も悪くないし、仮病でも使って休むか・・・。)

 和真が部屋のベッドで制服を着たまま仰向けになり、1人で学校を休む口実こうじつを考えていた。そうしている間にも時は進む。

 「和真!もう何時だと思ってるの?遅刻するわよ!?」

 母の叱り声が和真の部屋にまで聞こえた。

 「ったく・・・めんどくせぇ」

 和真が独り言を呟きながらベッドから起床きしょうした。荷物を持ち「行ってきます」と母親と会いたくないのか急ぐように家を出た。

 和真が制服のポケットからスマホを取り出しどこかに電話をかける。

 「おはようございます。大山和真です。」

 電話先は学校のようだ。

 「はい、はい。」

 先生の言葉にあいずちをうつ。

 「すいません。ありがとうございます。」

 日頃成績がいいおかげか、学校は仮病を疑うことなくすんなりと休むことを許可した。その後、行くあてもない和真は電車に乗るため駅へと向かった。

 どこに向かうでもなく電車に揺られ、小さな田舎道を眺めつつ少し空いた窓から流れる潮の香りを感じていた。そう、和真は海に来ていた。

 宛もなく海に来てしまった和真。テトラポットが並ぶ縁石に座り海を眺めていると・・・。

 「こんなところで何をしているの?」

 誰かが和真に声をかける。和真はその主の方へ顔を向けると、そこには海風になびく透き通るような肌と白く長いワンピースを着た女性大学生位の女性だった。

 「君、高校生でしょ?この辺りじゃ見かけない制服だね。」

 女性はそういうと、微笑みの中に微かに寂しさが残る表情で笑った。

 「君さ、すごく冷たい目をしてるね。この世の中ってつまらない?」

 「・・・」

 和真の返事を待たずに女性は話を続けた。

 「そうだよね。私もさ、この世の中ってつまらないしくだらないなってすごく思うんだ~。学校に行ってもひがみばっかりだし、女の世界ってすごく陰湿いんしつだし陰口とかも多くてさ。学校に行くのも嫌で良くここ来てるの。」 

 和真は女性の話を聞き、少しだけ理解もできたからこそ後ろめたい気持ちを感じていた。

 「ここすごくいいでしょ?海ってすごくデカくて深くて、なんで人の心ってこんなにも狭くてみにくいんだろうって、この海みたいに広くて深くて綺麗な心だったらいいのにって・・・。」

 「だから思うの。そんなことで悩んでる私もちっさいなーって。だからさ、君もなにか悩み事があるなら言ってみ?お姉さんが受け止めてあげるから!」

 そういうと女性は、和真を見てにっこりと笑った。

 「そういえばさ、名前なんて言うの?」

 和真に問いかける。

 和真が返事を渋っていると「私は美空!永野ながの美空みく!」と和真に言った。

 「俺は・・・大山和真。」

 嫌々ながら名前を名乗った相手に最低限の礼儀として和真も名前を言う。

 「そっか!じゃ~和真君だね?」

 葵以外の女の子に名前を呼ばれたことの無い和真は頬を赤らめて照れ隠しのように美空から視線をらした。

 しかし、少し似た所を感じていた和真と美空が距離を縮めることに時間は必要なかった。

 「和真君はさ、どうして学校サボってこんなところまで来たの?」

 美空が話しかけながら和真の隣に座った。

 「行く意味を感じなかったから・・・」

 和真の問に美空が応える。

 「え!?なんで?友達とかいるでしょ?」

 「いるけど・・・別に勉強も運動もできるし。習うことなんてないから。」

 和真の答えに美空がいじけた表情で言った。

 「それって嫌味って言うんだよ?私なんてさー、勉強も運動もダメダメで女子の間じゃ、あいつは見た目だけ~とか言われてたんだからね!」

 「美空さん勉強できないんだ。少し意外だな・・・。」

 和真の返事に「なんで?」という表情で見つめていると「さっきの話とか」と返事を返した。

 「さっきのは、和真君も考えるでしょ?」

 美空の問に和真は薄くうなづいた。

 「やっぱり君も同じだね」

 美空は似た考え方の和真に出会えた喜びで今まで見せた中で1番の笑顔を見せた。

 「そうだ!」

 美空はおもむろにカバンを探り「あった!」と自分のスマホを取り出した。

 「連絡先交換しよ?」

 和真に笑顔で言った。

 和真が「なんで」という顔をしていると美空は

 「だって和真くんがこっち来た時わかんないでしょ?また話ができるようにするためだよ~」

 美空の返事に渋々連絡先を交換した。

 この時、和真と美空の中にお互いを意識する気持ちが芽生えていたことに2人は気が付かなかった。

 そして、この出会いが和真にとって闇になるとは・・・。それはまた別のお話。
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