人生ゲーム

第捌章

神の悪戯

　「それでは、ハデス様サイコロを振ってください。」

　カオスがハデスにサイコロを渡した。しかし、カオスはひとつ見落としていた。いや、誰もが気づかなかった気がつくはずもなかった。

　ハデスが自身の能力ちからを使っていたことに･･･。

　時は遡り、葵と和真の下校時刻。

　そう、それは運命イベントでのことである。

　本来の時間軸では、2人は交通事故で亡くなるはずだった。つまり、ゲーム開始からわずかでゼウスとアマテラスは死んでいたのだ。

　それをつまらないと感じたハデスは、関係の無い市民に自身の分身体を憑依ひょういさせる影霊衣の人形ネクロスパペットを使っていた。

　つまり、命の神ハデスの気まぐれにより2人は救われたと言えるだろう。

　それと同時にハデスは1つ確信していた。

　「道化が･･･」

　ハデスの言葉の意味とは･･･。

　こうして7人全ての神が健在していることとなった。

　「ハデス様のサイコロの目は④です。4マス進んでください。」

　(ゼウスよ、他は欺あざむけても我は騙だまされぬぞ。)

　「このマスでは架空請求で10万だまし取る。それでは再びモニターをご覧下さい。」

　こうして再び下界の様子が映し出された。

　「前回の変装も上手くいったな。あのサラリーマン頭ゆるそうだと思ったが･･･まさかあそこまでおマヌケさんだとはな。」

　実体のつかめない詐欺師が20万円を片手に薄暗い路地裏の廃墟へと向かっているところだった。

　「さてと、次のカモは誰かな？っと、早速カモの個人情報ゲットだぜ･･･。」

　詐欺師がスマホを見て薄笑いをしていた。

　「大学生か･･･なになに･･･」

　「けっ！お真面目ちゃんかよ！まぁいいか･･･早速メールを送ってっと･･･」

　何やらメールを送っているようだが、その内容はワンクリック詐欺のようなものらしい。

　「あとは獲物が餌に食いつくのを待つだけ･･･」

　詐欺師はニヤリと笑いスマホを置いた。

　数時間後･･･

　ターゲットから返事が来た。

　詐欺師の思惑通りに話が進んで行く。詐欺師はまたしてもマス目に出た事通りにお金をだまし取ることに成功したのだ･･･。

　こうもあっさり人の人生を左右してしまうこのゲームはあまりにも危険だ。ハデスのコマである詐欺師はあまりにも多くの人を巻き込んでしまう。そして、ハデスのように掴みどころがない。

　こうして、また1人無関係な人間を巻き込んでしまった。

　「ほー、そういう事か。つまり我らと似た人間がコマとして選ばれたということか。ゼウス？」

　ハデスはゼウスに問いかけた。

　その言葉に一同はゼウスの方を見た。しかしハデスがそれを打ち消すように言った。

　「とは言え最高神殿にすら分からぬこともありますな。失敬失敬。」

　ハデスは何食わぬ顔でゼウスの方に向かって歩いて行く。ゼウスの隣に差し掛かった時、ハデスがゼウスの耳元でささやいた。

　「ゲーム開始から我らは手のひらで転がされていたのだろう？」

　その言葉にゼウスがギクリとした表情を浮かべた。

　「安心せい。最高神殿には感謝しているのだからな。つまらぬこの世界にスパイスを与えて頂いたのだからな。」

　ハデスは嬉しそうにニヤリとした。

　「しかし、最高神殿には最期まで生きて頂かねばな。最高神様のように頭のキレる方がいなくなってはこのゲームは実につまらぬ。アマテラス殿も食えない神だと我は思っておりますよ。」

　ハデスはゼウスに全て知っていると言わんばかりに何かを企んだような顔を見せる。

　「皆には何も言わぬので安心してください。」

　そういうとハデスは席に着いた。

　(やはり掴みどころのない男だ･･･。)

　ゼウスがハデスに抱く感情はあの頃から変わらない。ゼウスの苦手な相手だ。

　これは、ゼウスが最高神になり間もない頃･･･。

　「最高神殿、太陽神殿の空席の席はどうされるおつもりで？」

　ハデスがゼウスに問いかけた。

　「まだ、どうするかは決めていないが･･･。」

　少し困った表情で応える。

　「いえいえ。我には後釜あとがまに幼なじみの娘を置くのかと思いましてな。」

　ゼウスが冷や汗を垂らして言った。

　「何を馬鹿なことを、考えすぎだ。」

　「そうですな。我としたことが探りを入れるような真似をしてすいませぬな。」

　ハデスが高笑いをしてゼウスの隣を通り過ぎる。

　「最高神殿、ひとつ忠告ですが、嘘ならばもっと上手くつくべきですぞ？最高神でもあろう方が揺さぶり程度で同様を顕あらわにするとは、今後いかなることがありましても見せてはなりませぬぞ？」

　ハデスがニヤリと笑い歩き始める。

　ゼウスはその時のことを思い出していた。

　(あのなんでも見通したような振る舞いでいつもいつも揺さぶりをかけてくる。やはり、ハデスとは馬が合わないな。)

　ゼウスは再認識した。

　(しかし、ハデスにだけ気づかれていたことは不幸中の幸いと言うべきか･･･。)

　と、ゼウスがハデスに抱くもうひとつの感情である信頼を見せた。

　ハデスの言葉の裏には何が隠されているのか。

　そして明かされたもう1つの謎。

　ゼウスは一体何をしたのか･･･。

　人生ゲームはまだまだ続く。