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平和な日々のお話

7 電話相談室

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 数回の呼び出し音の後……
「もしもし?」
「ノエ……ですか?」
「そうですよ健さん!」
 おぉ……流石に本当に繋がるとは思ってはいなかったが、とりあえず本題を切り出す。
「あのな、知ってると思うけど……」
「駄目ですよ?」
「まだ何も言ってないんだけど!」
「私にはまるっと全てお見通しです」
「一応話だけでも聞いてくれないかな?」
「前にもお話ししたと思うんですけど、歴史の改変って難しいんですよ?」
「はっ?」
「えっ?」
 お互い何かが食い違っているような……
「いやいやいやいや! 歴史の改変なんか望んでいないから!」
「あれ? 違いましたか……一応お伺いしますけど……」
 何が違うんだろう? まぁ良いや。
「実は……」
「あ~そう言えば、もうそろそろでしたね。ヒエ様の御懐妊の件ですか?」
「おまっ! 知ってて?」
 そりゃそうかノエは見ようと思えば見えるんだっけ……
「なら話が早い、ヤエとヒエと茉希の名字変更って、ノエの神様パワーでなんとかならないかなぁ?」
「駄目ですよ?」
「即答⁉︎」
「まぁ知っていましたけど……不便でしょうが人間界のルールは守ってください」
「そもそも皆様方の存在自体が特異点なのですから、そこを弄ると今の時代の私がまた泣きます」
「また? 今またって言ったな? 何かあったのかこの時代に?」
「あっ…………」
「電話切るなよ?」
 

 プツッ……プープー……


 切りやがった! 全く! いや俺が悪いんだけど……うん、全面的に悪い。簡単に神様にお願いなんて都合のいい事をお願いしようなんて駄目だよな……
「ノエはなんて?」
「電話きられた……」
「そっか……でも私達、八神姓を名乗ってもいいのかな?」
「まぁ帰ったら調べてみようか、行こうヒエ」
 帰り道、ノエを困らせるような事で電話したことを後悔しながらアパートまで帰り、スマホで調べ始めた……

 …………駄目かッ! 事実婚の場合は、母方の姓を子供は名乗らなければいけないって結論が色々なサイトを見てわかった。
「でも……まてよ?」
 俺がヤエ達の婿養子になれば……どうなる? 俺は八神が八幡になるだけで、後はどうにかこうにか茉希を養子縁組かなんかで……って駄目だ! 茉希はもう成人してるし母子手帳も持ってる!
 結局は、俺の子供は八神姓じゃなくて八幡が二人と渡辺が一人ってことになるのか……
「あ~どうしよう……」
「健、コーヒーでも飲んで落ち着いて……」
 ヒエがアイスコーヒーを淹れてくれた……気を使わせちゃったな。
「どうしよう?」
「そうね……私達が勝手に八神姓を名乗るのは別に問題はないわけね?」
「うん…………うん? そう言えば……茉希って戸籍はどうなってるんだ?」
「どうかしらね……茉希は大女神様が願いを叶えた存在で……」
「いや違う、そこじゃないはどうやって存在してたんだ? しかも市役所勤務って確か資格がいるはず」
「ヒエ達の…………言い方が悪いかもだけど勘違いで出来た存在だよな?」
「その時はどうやったんだ?」
「はて?」
「いやいや、はて? じゃないんだよ」
「御免なさい、人間界に送り出した後のことはわからないのよ」
 って事は何処かに穴があるな? 茉希の帰りを待つか……


 そうして夕方、妊婦なのにいつも元気な茉希が帰ってきた。本当に強いな茉希って……っとそこじゃない。
「あのさ茉希に聞きたいことがあるんだけど?」
「なにかな?」
「あのさ伍堂愛の記憶あるよな?」
「あるけど……それが?」
「どうやってとして存在してたんだ? まして市役所勤務だなんて」
「あ~そんな事? 簡単な事だよ、書類をちょちょいっと……」
「はっ? それってつまり……」
「偽造だネッ!」
 眩暈がしたどれだけ杜撰な管理しているんだ……この市は……⁉︎
 まてよ?
「あのさ今の茉希ってさ戸籍どうなってる?」
「えっ? どうなんだろ……」
「ちょっと免許証を見せてくれるか? ヒエも?」
「どうしたの急に?」
「はいコレ」
 二人の免許証に目を通すと、おかしい……茉希の免許証だけ歪んで見える。ヒエの免許証も一部歪んで見える……
 そう……完全に見落としていた事実に気がついた……願いを叶え時を越えた渡辺茉希の存在、八幡ヒエの存在……恐らく八幡ヤエも同じだろう……
 その免許証には靄がかっているように見えない部分があった、そして俺は無意識のうちに見落としていた。そう……あるべきものを見落としていた。
「ただいま~遅くなってごめんなさい!」
「おかえりヤエ、疲れているところ悪いんだけど、免許証みせてくれないかな?」
「うん? いいわよ、ちょっと待ってね」
 そう言ってバッグから財布を取り出すと、まてよ……
「三人とも身分証明書になるやつ全部出してくれ! 母子手帳もだ!」
「えぇ?」
 そうして目の前に並べた三人の物をそれぞれよく見ると。やっぱり…………
「なぁ、なんでこの免許証の住所や生年月日が歪んで見えるんだ?」
「何を言ってるの健? ひっ!」
 顔写真が歪んでいる……かなり怖いもう心霊写真だなこれ。
「ちゃんと誕生日も住所も…………あれ? アタシの住所……あれれ?」
「あのさ……言いたくないけど、茉希は二十歳だよな? ヤエとヒエは?」
「茉希の二つ上ね」
 微妙にわかりにくい表現をするな……
 天井を見上げるともう一度ノエに電話をかける。

 さっきより長い呼び出し音の後。
「ゲンザイルスニ……」
「な訳ないよなぁ?」
「はい……」
「あのさノエに聞きたいんだけど」
「わかってます……矛盾のことですよね……」
「どうしてこうなった?」
「ハヤデ様が残したバックドアです……気づいちゃいましたか……」
「修正した場合どうなる? 特に茉希はデリケートな存在だろうから」
「そうですね……存在は変わらないと思います。ハヤデ様の力では茉希さんの存在は不確かな存在であり。何かで固定できればいいはずだったんです」
「なんか難しいな……」
「前にもお話ししましたが、以前ハヤデ様が願いを叶えましたよね?」
「そうだね、それで皆んながここにいるわけだけど……」
「願いのために使った力は、不完全だったイグドラシルの力によってもたらされたんです」
「で?」
「不完全だった為にいざと言う時のためのバックドアだったんです」
「あのさ……ちょっと嫌な予感がするんだけど」
「ヒエ様とヤエ様はそのバックドアを利用されて天界決戦の時に女神に戻されました」
 そうだったのか……碌でもないな。
「でもノエは元に戻してくれたじゃないか?」
「そうですね……に…………あっ!」
「ちょっとまて、ノエお前まさか………」
「あっ! べっべべべつに忘れてたわけじゃないですよ! 全てに戻したんです!」
「じゃあこの心霊写真みたいな歪みは修正していないバックドアって事だな?」
「…………」
「もしかして今まであやふやになってたのって」
「いじめないでください健さん……私頑張ったんです……」
「うん、知ってるよノエは良い娘だよ、でもねあやふやで、危険なバックドアはさっさとどうにかしないとね」
「はい…………」
「ちなみに修正したらどうなる俺達は?」
「魂の器はもう四人で一つに固定されているのは確認済みです」
「じゃあ問題ないか?」
「修正だけでいいのですか?」
「ちょっと待って、三人と相談してまたかけなおす、いじるなよ絶対にいじるなよ絶対だぞ?」
 どうやらハヤデ様に感謝しないとかな、電話を一旦切ると。三人に向かって。
「三人とも俺の嫁にならないか? って言うかこい!」
「アナタ……」
「健……」
「タケシのお嫁さん……に?」
「おう! ノエが立ち会ってくれるってさ!」


 ドンドンドンドンッ‼︎


 玄関を激しくノックする音が聞こえる、来ちゃったか。玄関を開けると汗まみれの神様がそこにはいた……
「いらっしゃいノエ」
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