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第一章 ガラスの金色魚
終電まではあと三分、駅まで走れば二分半。
残業後の体に鞭打って、地下鉄のホームに駆け込んだ。
「はあ……。間に合った、かな」
ちょうどやってきた車両に乗り込むが、私以外の乗客はおらず、そういえば今日は土曜日だったと今更ながらに思い出す。
「何が悲しくて、休日出勤の日に限界まで残業なんかしなきゃいけないの……」
社員証を首からぶら下げたまま、地下鉄の座席にずるずると体を預ける。終電が静かに発車した。
私は常盤ちづる、二十四歳。メーカーの事務職をやっていて、書類作成や発注がメインの業務だ。
今日も休日出勤と深夜残業のダブルコンボを撃退してきた、典型的なサラリーマンである。
誰もいない車両で、つり革だけが規則的に揺れている。それを見ていると、気の抜けた体から、我慢していたため息がふうっとこぼれた。
その拍子に、昨日の定時に上司から言われた言葉を思い出してしまう。
『ほら、常盤さんはマクロとか組めるし』
そうしてどっさり与えられた仕事を片付けるために、私は休日出勤と深夜残業を余儀なくされたのだ!
ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「マクロとか組めるし、って何。それで仕事を私だけに押し付けてりゃ世話ないわよね。大体仕事の早い人間にばっかり仕事が集まる仕組みってどうなの? 給料同じなのに、私だけ大量に仕事してるじゃん!」
先輩はろくに面倒を見てくれないし、上司もあんな言葉で仕事を追加してくるくらいなので、私の業務量を管理する気がまるでない。
なんか、私の人生こんなのばっかりだ。会社に限った話じゃない、高校も大学も、いつも誰かの仕事を肩代わりしていたような気がする。
「あー疲れた、このまま家まで瞬間移動したい。お風呂もメイク落としもドライヤーも全部終わらせた状態で、お布団に入りたい……」
それで泥のように眠りたい。
そうでもしないと、見ないようにしていた他人の本音を、まざまざと思い知らされてしまうから。
『ほら、常盤さんはマクロとか組めるし』
(文句も言わずに雑務をやるからほんと助かるよ。扱いやすいし、いつも残業してるってことは、彼氏もいないみたいだし。仕事以外に生きがいとかなさそう)
腹の奥で、苛立ちと悲しみが渦巻いているのを感じる。
扱いやすいと思われていることより、仕事以外に生きがいとかなさそう、なんて思われていることの方がショックだった。
「……彼氏がいないイコール仕事以外に生きがいがない、ってことになるわけ?」
上司の名誉のために言うと、彼は一言もそんなことを口にしていない。
でも私には、見えてしまうし、聞こえてしまうのだ。
人の本音、本心、ほんとうが、頭上にポップアップみたいに浮かび上がって、その人の声で読み上げられる。
もちろん普段はコントロールして、見ないようにしている。
けれど疲れていたり、油断していたり、あるいは相手の感情が強すぎたりすると、他人の本音は、ぞっとするほど容易く私の心に入り込んでくる。
「はぁ……」
長いため息が漏れる。いけない、疲れている時は思考がマイナスループに入る。
こういう時は早く家に帰って、温かいものを食べるに限る。
ああでも、うちに食べるもの、あったっけ……
「ありゃ、ないなあ」
私以外誰もいないと思っていた車両に、のんびりとした男性の声が響く。
見れば、乗車扉の前でごそごそとトランクを漁っている男性の姿があった。
年齢は二十代後半くらい。乗車扉より十センチは高い背丈に、少し長めの黒髪天パ。抜けるように白い肌に小さな顔、比較的大きな目と彫りの深い顔立ちは、イケメンと称して差し支えないだろう。
ひょろっとした細身の体を包んでいるのは、刺繍の入った中華風の衣で、その上に焦げ茶色の薄い羽織を重ねている。
「うーん、落っことしちゃったかねえ。鍵」
それ、なくしたら地味に困るやつでは。
男性はきょろきょろと辺りを見回す。片眼鏡――モノクルっていうんだろうか、それを右目につけていて、なんというか、胡散臭い中華風マジシャンといった感じだ。
関わらないに越したことはない、そう思うのだけれど、つい観察してしまう。なんだかその男性には目を引く雰囲気があった。
「まあいいか。地図を見ればいいことだし」
言うなり男性は懐から一枚の板を取り出した。銀色に輝くそれは、スマホではなさそうだった。
彼はそれを上下左右に傾けてから、思い切り自分の首を傾げた。
そうしてやけに素早く顔を上げる。しまった、目が合った。
男性はにこーっと笑うと、音もなくこちらに近づいてきた。まずい。
「やあやあ同胞さん! しかも相当レアな同胞さんと見たが、こんなところで会うなんて奇遇だねえ!」
「ど、同胞?」
「だって君も今から帰るんだろ、春龍街へ!」
春龍街。
それは、あやかしたちが住まう世界のことだ。というと、なんだか物珍しい印象を受けるかもしれないが、届け出を出せば人間でも普通に行き来できる、ちょっとした観光地のような場所である。
そこに帰るということは、この男性は、あやかしなのだろうか?
「ここで会ったのも何かの縁。ここは一つ、共に帰還を果たそうじゃあないか!」
「お断りします。私、春龍街の住人じゃないんで」
「またまた~! そんな立派な『麒麟眼』があるのに、純人間ってことはないでしょ。あやかしの血が入っているんじゃないの」
「……私が麒麟眼を持ってるって、どうして分かったんですか」
麒麟眼。忌々しい本音を見せてくる、私の力の名だ。
それを持っていることは、私だけの秘密なのに。どうしてこの人には分かってしまったんだろう。
「あやかしにとって麒麟眼は、きらきら輝く北極星のようなもの。すぐに分かるよ」
男性はぐいっと私の手を引く。足を踏ん張って抵抗しようとしても、呆気なく引き寄せられる。
立ち上がってみると、男性は私よりかなり背が高かった。
けれど不思議と威圧感はない。
長い前髪を透かして、とび色の目が、検分するように私を見つめてくる。
「ああでも、確かに人間社会で働いているみたいだね。常盤ちづるさん」
「どうして私の名前を……!」
男性は苦笑して、私の胸にぶら下がっている社員証を指さす。
――なるほど。不用心だったのは認めよう。慌てて社員証を鞄にしまう。
「ま、君が誰でもいいけど、麒麟眼ならちょうどいいや。この地図、読んでほしいんだけど」
「お断りします。麒麟眼を使うのは控えているので」
「真面目だねえ」
からかうような口調にイラッとしながら顔をそむけると、男性は私の横の席にどかりと座った。面白そうに私のことを観察している。
「麒麟眼を持った子が人間社会にいたなんて、びっくりだ! でもなかなか大変じゃないかい? 人間は本音を隠す術なんか使えないから、色々とだだ漏れだろう」
知ったような口をきかれて、思わず言い返す。
「あなたには関係ないでしょ」
「まあまあ。さっきも言っただろう、ここで会ったのも何かの縁って」
男性は私をぐいっと引き寄せると、先ほど見ていた銀色の板を握らせた。
名刺より少し大きいくらいの銀色の板から、薄紫色の光がぽうっと立ち上り、何かを形作る。
浮かび上がったのは睡蓮の花。その花は、艶やかに光り輝いて私の前に道を示す。
「すごい、これって……!」
「君の麒麟眼には近道が見えているだろ? そこを進めば春龍街にひとっとびだ。いやー便利便利」
「ちょっ、ちょっと待って」
「言い忘れてた、僕の名前は白露という。よろしく、ちづる!」
「よろしくする気はないっ、ちょっと、だめ!」
睡蓮を形作っていた光がするりとほどけ、意思を持った生き物のように私たちの腕に絡みつく。
その光はどんどん眩しくなっていって、私が思わず目を瞑った次の瞬間。
空気が変わった。
地下鉄の騒音とは異なる喧騒が押し寄せてくる。それに続くように鼻腔をくすぐるのは、甘辛い醤油と香草のいい匂い。
そうっと目を開けると、そこは私の知る都会とは別世界だった。
和洋中全ての様式を取り混ぜた建物がごちゃごちゃとひしめき合い、それらを繋ぐように階段があちこちに生えている。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた建物は、きっと無計画に増改築が繰り返された結果だろう。狭苦しいけれど清潔で、活気に満ちていた。
提灯の明かりで優しく照らされた道は、深夜だというのにたくさんのあやかしで賑わっている。
あちこちで開かれている屋台の食べ物の匂い、ちょっと犬臭い匂い、白檀の香り、そんなものが入り混じって、異国の風情を醸し出している。
「ここは……」
「春龍街さ。君たち人間社会の裏側、あやかしどもの住まう街。ついでに言えば、移動都市でもある」
春龍街は、あやかしたち専用の街。幽霊、精霊、式神、妖怪……人間「以外」の、霊力と呼ばれる不思議な力を操る生き物が暮らす、巨大移動都市だ。
大きさは東京都二つ分くらいだと聞いたことがある。
「移動都市と呼ばれるのは、文字通りこの春龍街そのものが、季節ごとに移動しているためだ。人間社会と春龍街の出入り口がしょっちゅう変わるのは、この街が移動してるからなんだよ」
「どうして移動するの?」
「そりゃ、街が龍の背中の上にあるからだよ。龍といっても生き物じゃなくて、あやかしたちを生かす霊力の、大きな流れのことなんだけどね」
ちなみに、と白露が補足してくれたところによると、あやかしが住まう都市は全部で四つあるらしい。
春龍街。
夏虎海。
秋凰天。
冬玄島。
「人間が自由に出入りできるのは春龍街だけで、他は結構厳しい。よその街のあやかしでも気軽に出入りできないような街なんだよ」
あやかしと人間の仲はそこそこ良好だが、安全のため、春龍街への人間の出入りは一応管理されているという。
だから、春龍街に行くのは、パスポート無しの海外旅行に行くようなものだ、というのが主な認識である。
きっと人間にとっては異国情緒が味わえる、楽しくて物珍しいスポットなんだろうけれど。
また来ることになるとは思わなかった。
ここには嫌な思い出しかない。
白露は億劫そうに古びたトランクを持ち直した。
「ったく、何を考えて移動都市なんかにしたんだろうね? 毎回鍵だの地図だのを持ち歩かなくちゃいけなくって、めんどくさいったらないよ」
「わ、私帰る。届け出もしていないのに、勝手にいたらまずいでしょう」
「ふむ。でも、春龍街の方が、麒麟眼にとっては過ごしやすいんじゃないのかな」
「そうかもしれないけど……!」
私はきょろきょろと辺りを見回し、人間社会へ戻る手段がないか探す。
確か、子どもの頃に来た時は、人間社会に繋がるモノレールがあったはず。
「君は帰れないよ。少なくともあと一週間はね」
「どういうこと⁉」
「春龍街はちょうどスピードを上げる時期なんだ。春の終わり頃はいつもそう。だから人間社会との接続は一時中断されるってわけ」
「一週間は帰れないって……仕事、めちゃくちゃ溜まってるのに」
「まあまあ。君にしかできないような仕事はそんなにないだろ」
さらりと失礼なことを言った白露は、さくさくと歩き出す。
どうすればいいんだろう。一週間も人間社会に帰れず、春龍街で過ごさないといけないなんて。
私の脳裏を、春龍街を訪れた過去の記憶がよぎる。
小さな私は、人ごみの中をはぐれないように歩くのが精いっぱいで、一生懸命お父さんの大きな手を握っていた。
妖狐に猫又、お化け提灯の後には牛頭と馬頭の妖怪が連れ立って歩いていて、すれ違いざまに狐の尻尾がぞわりと私の背中を撫でて――
「ちづる?」
白露に呼びかけられて、思い出は動画を途中停止したように途切れ、私ははっと顔を上げる。
「ほらおいで。春龍街に無理やり連れ込んだのは僕だからね、その間の寝床くらいは提供するよ」
「信用できない」
「大丈夫、取って食いやしないよ」
「あやかしに言われても説得力がない。大体あんたはなんのあやかしなの」
耳も尻尾も角もないし、目も普通だ。背丈が少し大きすぎる以外は、普通の大学生か、遊び人のように見える。
私の問いに、白露はにいっと笑った。
「麒麟眼で見てごらん」
私の麒麟眼――そのものの本音、本心、ほんとうが見える力――は、あやかしの正体も見抜くことができる。
けれどそれは、私が意図しないと見えてこない。あやかしたちは化かすことに長けているので、普通の人間のように、おいそれと正体や本音を見せたりしないのだ。
私は深呼吸し、白露をじっと見つめた。
相手の裏側まで見透かすように、一瞬たりとも目を逸らさず。
「へえ。麒麟眼が発動すると、そんな風になるんだね。金色のお酒に、青い宝石を落としたみたいだ」
やけに詩的なことを呟くと、白露はうっとりと目を細めた。
「綺麗だね」
とろけるようなその声にも驚いたが、もっと私をびっくりさせたのは、白露の正体だった。
なんというか、つぎはぎなのだ。手足は毛むくじゃらで熊のよう、体はすんなりとした肉食動物みたい。尻尾は蛇。顔は狼に似ているけど、人間のようでもある。
本来交わらないものが共存している違和感、ぎこちなさに、私は白露の正体に思い至る。
「あんたは、鵺ね」
「ご明察。いいね、麒麟眼に見透かされると、なんだか自分が一瞬だけでも本物になったような気がするよ」
そう笑って、白露はすいと手を差し出した。
「僕は鵺だけど、人を食うことはしない。だから、一緒に来てくれるね? ちづる」
「……分かったわよ。ここまで来たらもう、あんたについてくしかなさそうだし」
私はため息をついて、鵺の差し出す手を取った。
*
なんだかいい匂いがする。コーヒーと、焼き立てのパンの匂いだ。
私はもそもそと寝返りを打つ。やけにふかふかの布団は、明らかにうちの安物のベッドではないし、着ているものは旅館にあるような薄手の浴衣だ。
目を開けると、見慣れぬ棚が視界に入ってきた。黒檀で艶めいていて、取っ手の金具が花の意匠だった。凝っている。
「……ここは」
そうだ。ここは春龍街にある、白露の家だ。
白露は昨日地下鉄で会ったあやかしの鵺で、彼に無理やり春龍街に連れてこられた結果、一週間は人間社会に帰れなくなったんだった。
明日の朝一で会社に連絡を入れなければ、なんてことを考えながら、もぞりと布団の中で姿勢を変える。
すると、遠くから足音が聞こえてきた。
ノックして、と言う間もあればこそ。白露は思い切り扉を開け放つ。
「おはよ、ちづる。朝はパンでいいよね、トースト焼いたから食べよ」
「はあ……おはよう……」
「低血圧? でもそろそろ起きな、お腹空いてるだろう」
漂ってくるトーストの香りに、お腹がきゅうっと刺激される。
昨日の夜は、春龍街の屋台で肉まんのようなものを買って食べたきりだった。
「ごめん、何か着替えの服を貸してくれない? なんでもいいんだけど」
すると白露は部屋の隅にあった箪笥に近づき、一番上の引き出しから服を引っ張り出し始めた。
自分の身なりには無頓着そうなくせに、他人の服にはこだわりがあるようで、ああでもないこうでもないと服を散らかしている。
「なんでもいいよ?」
「いやいや、その綺麗な麒麟眼に合うものじゃないとね……これなんかどうかな」
そう言って見せてきたのは、白い七分袖のワンピースだった。
胸元が少しチャイナドレス風で、ウエストをマークする青い布ベルトには、金と銀の糸で色んな花が刺繍されている。
「……意外。すっごく可愛い。どうしてこんな可愛いの持ってるの?」
「仕事の報酬に、箪笥ひと竿分の女性服を貰ったんだよ。気に入った? 君のサイズの服はこの箪笥にたくさんあるから、好きな時に着替えて」
そう言って白露は、ダイニングで待っているよと言い残し、部屋を出ていった。
私は借りていた浴衣を脱いで畳み、ワンピースに袖を通す。サイズはぴったりだ。
部屋を出ると、一人分の横幅しかないほど狭い廊下の突き当りに、洗面所が見えた。
薄いブルーと白のタイルが可愛い洗面所で顔を洗い、髪をハーフアップに整えた。
「久しぶりにワンピースとか着たかも。太ってなくてよかった」
ぐっすり眠れたためか顔色はいい。私はそのままトーストの匂いを辿って歩いた。
昨晩は暗くてよく分からなかったが、白露の家は結構広いようで、色々な部屋がある。けれどどの部屋もすさまじく物が多く、廊下まで溢れ返っていた。
覗き見したい気持ちをこらえつつ板張りの床を歩き、三段ほど階段を上がったところで、家主と再会した。
白露は着替えた私を見て、にっこり笑った。
「うん、その服、君の髪の色に合ってるね。可愛いよ」
「ありがと」
「さて、ここがキッチン兼ダイニングだよ。ここにあるものはなんでも好きに食べて飲んでくれて構わない」
暖かな日差しが差し込むダイニングは、意外にもこざっぱりしていた。キッチンは少し狭くコンロは一口しかないけれど、綺麗だった。あんまり使っていないのかもしれない。食器棚も食料棚も、物が多いわりには整頓されていた。
小さめのダイニングテーブルには、たくさんの本が積まれている。白露は読書家なんだろうか。
終電まではあと三分、駅まで走れば二分半。
残業後の体に鞭打って、地下鉄のホームに駆け込んだ。
「はあ……。間に合った、かな」
ちょうどやってきた車両に乗り込むが、私以外の乗客はおらず、そういえば今日は土曜日だったと今更ながらに思い出す。
「何が悲しくて、休日出勤の日に限界まで残業なんかしなきゃいけないの……」
社員証を首からぶら下げたまま、地下鉄の座席にずるずると体を預ける。終電が静かに発車した。
私は常盤ちづる、二十四歳。メーカーの事務職をやっていて、書類作成や発注がメインの業務だ。
今日も休日出勤と深夜残業のダブルコンボを撃退してきた、典型的なサラリーマンである。
誰もいない車両で、つり革だけが規則的に揺れている。それを見ていると、気の抜けた体から、我慢していたため息がふうっとこぼれた。
その拍子に、昨日の定時に上司から言われた言葉を思い出してしまう。
『ほら、常盤さんはマクロとか組めるし』
そうしてどっさり与えられた仕事を片付けるために、私は休日出勤と深夜残業を余儀なくされたのだ!
ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「マクロとか組めるし、って何。それで仕事を私だけに押し付けてりゃ世話ないわよね。大体仕事の早い人間にばっかり仕事が集まる仕組みってどうなの? 給料同じなのに、私だけ大量に仕事してるじゃん!」
先輩はろくに面倒を見てくれないし、上司もあんな言葉で仕事を追加してくるくらいなので、私の業務量を管理する気がまるでない。
なんか、私の人生こんなのばっかりだ。会社に限った話じゃない、高校も大学も、いつも誰かの仕事を肩代わりしていたような気がする。
「あー疲れた、このまま家まで瞬間移動したい。お風呂もメイク落としもドライヤーも全部終わらせた状態で、お布団に入りたい……」
それで泥のように眠りたい。
そうでもしないと、見ないようにしていた他人の本音を、まざまざと思い知らされてしまうから。
『ほら、常盤さんはマクロとか組めるし』
(文句も言わずに雑務をやるからほんと助かるよ。扱いやすいし、いつも残業してるってことは、彼氏もいないみたいだし。仕事以外に生きがいとかなさそう)
腹の奥で、苛立ちと悲しみが渦巻いているのを感じる。
扱いやすいと思われていることより、仕事以外に生きがいとかなさそう、なんて思われていることの方がショックだった。
「……彼氏がいないイコール仕事以外に生きがいがない、ってことになるわけ?」
上司の名誉のために言うと、彼は一言もそんなことを口にしていない。
でも私には、見えてしまうし、聞こえてしまうのだ。
人の本音、本心、ほんとうが、頭上にポップアップみたいに浮かび上がって、その人の声で読み上げられる。
もちろん普段はコントロールして、見ないようにしている。
けれど疲れていたり、油断していたり、あるいは相手の感情が強すぎたりすると、他人の本音は、ぞっとするほど容易く私の心に入り込んでくる。
「はぁ……」
長いため息が漏れる。いけない、疲れている時は思考がマイナスループに入る。
こういう時は早く家に帰って、温かいものを食べるに限る。
ああでも、うちに食べるもの、あったっけ……
「ありゃ、ないなあ」
私以外誰もいないと思っていた車両に、のんびりとした男性の声が響く。
見れば、乗車扉の前でごそごそとトランクを漁っている男性の姿があった。
年齢は二十代後半くらい。乗車扉より十センチは高い背丈に、少し長めの黒髪天パ。抜けるように白い肌に小さな顔、比較的大きな目と彫りの深い顔立ちは、イケメンと称して差し支えないだろう。
ひょろっとした細身の体を包んでいるのは、刺繍の入った中華風の衣で、その上に焦げ茶色の薄い羽織を重ねている。
「うーん、落っことしちゃったかねえ。鍵」
それ、なくしたら地味に困るやつでは。
男性はきょろきょろと辺りを見回す。片眼鏡――モノクルっていうんだろうか、それを右目につけていて、なんというか、胡散臭い中華風マジシャンといった感じだ。
関わらないに越したことはない、そう思うのだけれど、つい観察してしまう。なんだかその男性には目を引く雰囲気があった。
「まあいいか。地図を見ればいいことだし」
言うなり男性は懐から一枚の板を取り出した。銀色に輝くそれは、スマホではなさそうだった。
彼はそれを上下左右に傾けてから、思い切り自分の首を傾げた。
そうしてやけに素早く顔を上げる。しまった、目が合った。
男性はにこーっと笑うと、音もなくこちらに近づいてきた。まずい。
「やあやあ同胞さん! しかも相当レアな同胞さんと見たが、こんなところで会うなんて奇遇だねえ!」
「ど、同胞?」
「だって君も今から帰るんだろ、春龍街へ!」
春龍街。
それは、あやかしたちが住まう世界のことだ。というと、なんだか物珍しい印象を受けるかもしれないが、届け出を出せば人間でも普通に行き来できる、ちょっとした観光地のような場所である。
そこに帰るということは、この男性は、あやかしなのだろうか?
「ここで会ったのも何かの縁。ここは一つ、共に帰還を果たそうじゃあないか!」
「お断りします。私、春龍街の住人じゃないんで」
「またまた~! そんな立派な『麒麟眼』があるのに、純人間ってことはないでしょ。あやかしの血が入っているんじゃないの」
「……私が麒麟眼を持ってるって、どうして分かったんですか」
麒麟眼。忌々しい本音を見せてくる、私の力の名だ。
それを持っていることは、私だけの秘密なのに。どうしてこの人には分かってしまったんだろう。
「あやかしにとって麒麟眼は、きらきら輝く北極星のようなもの。すぐに分かるよ」
男性はぐいっと私の手を引く。足を踏ん張って抵抗しようとしても、呆気なく引き寄せられる。
立ち上がってみると、男性は私よりかなり背が高かった。
けれど不思議と威圧感はない。
長い前髪を透かして、とび色の目が、検分するように私を見つめてくる。
「ああでも、確かに人間社会で働いているみたいだね。常盤ちづるさん」
「どうして私の名前を……!」
男性は苦笑して、私の胸にぶら下がっている社員証を指さす。
――なるほど。不用心だったのは認めよう。慌てて社員証を鞄にしまう。
「ま、君が誰でもいいけど、麒麟眼ならちょうどいいや。この地図、読んでほしいんだけど」
「お断りします。麒麟眼を使うのは控えているので」
「真面目だねえ」
からかうような口調にイラッとしながら顔をそむけると、男性は私の横の席にどかりと座った。面白そうに私のことを観察している。
「麒麟眼を持った子が人間社会にいたなんて、びっくりだ! でもなかなか大変じゃないかい? 人間は本音を隠す術なんか使えないから、色々とだだ漏れだろう」
知ったような口をきかれて、思わず言い返す。
「あなたには関係ないでしょ」
「まあまあ。さっきも言っただろう、ここで会ったのも何かの縁って」
男性は私をぐいっと引き寄せると、先ほど見ていた銀色の板を握らせた。
名刺より少し大きいくらいの銀色の板から、薄紫色の光がぽうっと立ち上り、何かを形作る。
浮かび上がったのは睡蓮の花。その花は、艶やかに光り輝いて私の前に道を示す。
「すごい、これって……!」
「君の麒麟眼には近道が見えているだろ? そこを進めば春龍街にひとっとびだ。いやー便利便利」
「ちょっ、ちょっと待って」
「言い忘れてた、僕の名前は白露という。よろしく、ちづる!」
「よろしくする気はないっ、ちょっと、だめ!」
睡蓮を形作っていた光がするりとほどけ、意思を持った生き物のように私たちの腕に絡みつく。
その光はどんどん眩しくなっていって、私が思わず目を瞑った次の瞬間。
空気が変わった。
地下鉄の騒音とは異なる喧騒が押し寄せてくる。それに続くように鼻腔をくすぐるのは、甘辛い醤油と香草のいい匂い。
そうっと目を開けると、そこは私の知る都会とは別世界だった。
和洋中全ての様式を取り混ぜた建物がごちゃごちゃとひしめき合い、それらを繋ぐように階段があちこちに生えている。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた建物は、きっと無計画に増改築が繰り返された結果だろう。狭苦しいけれど清潔で、活気に満ちていた。
提灯の明かりで優しく照らされた道は、深夜だというのにたくさんのあやかしで賑わっている。
あちこちで開かれている屋台の食べ物の匂い、ちょっと犬臭い匂い、白檀の香り、そんなものが入り混じって、異国の風情を醸し出している。
「ここは……」
「春龍街さ。君たち人間社会の裏側、あやかしどもの住まう街。ついでに言えば、移動都市でもある」
春龍街は、あやかしたち専用の街。幽霊、精霊、式神、妖怪……人間「以外」の、霊力と呼ばれる不思議な力を操る生き物が暮らす、巨大移動都市だ。
大きさは東京都二つ分くらいだと聞いたことがある。
「移動都市と呼ばれるのは、文字通りこの春龍街そのものが、季節ごとに移動しているためだ。人間社会と春龍街の出入り口がしょっちゅう変わるのは、この街が移動してるからなんだよ」
「どうして移動するの?」
「そりゃ、街が龍の背中の上にあるからだよ。龍といっても生き物じゃなくて、あやかしたちを生かす霊力の、大きな流れのことなんだけどね」
ちなみに、と白露が補足してくれたところによると、あやかしが住まう都市は全部で四つあるらしい。
春龍街。
夏虎海。
秋凰天。
冬玄島。
「人間が自由に出入りできるのは春龍街だけで、他は結構厳しい。よその街のあやかしでも気軽に出入りできないような街なんだよ」
あやかしと人間の仲はそこそこ良好だが、安全のため、春龍街への人間の出入りは一応管理されているという。
だから、春龍街に行くのは、パスポート無しの海外旅行に行くようなものだ、というのが主な認識である。
きっと人間にとっては異国情緒が味わえる、楽しくて物珍しいスポットなんだろうけれど。
また来ることになるとは思わなかった。
ここには嫌な思い出しかない。
白露は億劫そうに古びたトランクを持ち直した。
「ったく、何を考えて移動都市なんかにしたんだろうね? 毎回鍵だの地図だのを持ち歩かなくちゃいけなくって、めんどくさいったらないよ」
「わ、私帰る。届け出もしていないのに、勝手にいたらまずいでしょう」
「ふむ。でも、春龍街の方が、麒麟眼にとっては過ごしやすいんじゃないのかな」
「そうかもしれないけど……!」
私はきょろきょろと辺りを見回し、人間社会へ戻る手段がないか探す。
確か、子どもの頃に来た時は、人間社会に繋がるモノレールがあったはず。
「君は帰れないよ。少なくともあと一週間はね」
「どういうこと⁉」
「春龍街はちょうどスピードを上げる時期なんだ。春の終わり頃はいつもそう。だから人間社会との接続は一時中断されるってわけ」
「一週間は帰れないって……仕事、めちゃくちゃ溜まってるのに」
「まあまあ。君にしかできないような仕事はそんなにないだろ」
さらりと失礼なことを言った白露は、さくさくと歩き出す。
どうすればいいんだろう。一週間も人間社会に帰れず、春龍街で過ごさないといけないなんて。
私の脳裏を、春龍街を訪れた過去の記憶がよぎる。
小さな私は、人ごみの中をはぐれないように歩くのが精いっぱいで、一生懸命お父さんの大きな手を握っていた。
妖狐に猫又、お化け提灯の後には牛頭と馬頭の妖怪が連れ立って歩いていて、すれ違いざまに狐の尻尾がぞわりと私の背中を撫でて――
「ちづる?」
白露に呼びかけられて、思い出は動画を途中停止したように途切れ、私ははっと顔を上げる。
「ほらおいで。春龍街に無理やり連れ込んだのは僕だからね、その間の寝床くらいは提供するよ」
「信用できない」
「大丈夫、取って食いやしないよ」
「あやかしに言われても説得力がない。大体あんたはなんのあやかしなの」
耳も尻尾も角もないし、目も普通だ。背丈が少し大きすぎる以外は、普通の大学生か、遊び人のように見える。
私の問いに、白露はにいっと笑った。
「麒麟眼で見てごらん」
私の麒麟眼――そのものの本音、本心、ほんとうが見える力――は、あやかしの正体も見抜くことができる。
けれどそれは、私が意図しないと見えてこない。あやかしたちは化かすことに長けているので、普通の人間のように、おいそれと正体や本音を見せたりしないのだ。
私は深呼吸し、白露をじっと見つめた。
相手の裏側まで見透かすように、一瞬たりとも目を逸らさず。
「へえ。麒麟眼が発動すると、そんな風になるんだね。金色のお酒に、青い宝石を落としたみたいだ」
やけに詩的なことを呟くと、白露はうっとりと目を細めた。
「綺麗だね」
とろけるようなその声にも驚いたが、もっと私をびっくりさせたのは、白露の正体だった。
なんというか、つぎはぎなのだ。手足は毛むくじゃらで熊のよう、体はすんなりとした肉食動物みたい。尻尾は蛇。顔は狼に似ているけど、人間のようでもある。
本来交わらないものが共存している違和感、ぎこちなさに、私は白露の正体に思い至る。
「あんたは、鵺ね」
「ご明察。いいね、麒麟眼に見透かされると、なんだか自分が一瞬だけでも本物になったような気がするよ」
そう笑って、白露はすいと手を差し出した。
「僕は鵺だけど、人を食うことはしない。だから、一緒に来てくれるね? ちづる」
「……分かったわよ。ここまで来たらもう、あんたについてくしかなさそうだし」
私はため息をついて、鵺の差し出す手を取った。
*
なんだかいい匂いがする。コーヒーと、焼き立てのパンの匂いだ。
私はもそもそと寝返りを打つ。やけにふかふかの布団は、明らかにうちの安物のベッドではないし、着ているものは旅館にあるような薄手の浴衣だ。
目を開けると、見慣れぬ棚が視界に入ってきた。黒檀で艶めいていて、取っ手の金具が花の意匠だった。凝っている。
「……ここは」
そうだ。ここは春龍街にある、白露の家だ。
白露は昨日地下鉄で会ったあやかしの鵺で、彼に無理やり春龍街に連れてこられた結果、一週間は人間社会に帰れなくなったんだった。
明日の朝一で会社に連絡を入れなければ、なんてことを考えながら、もぞりと布団の中で姿勢を変える。
すると、遠くから足音が聞こえてきた。
ノックして、と言う間もあればこそ。白露は思い切り扉を開け放つ。
「おはよ、ちづる。朝はパンでいいよね、トースト焼いたから食べよ」
「はあ……おはよう……」
「低血圧? でもそろそろ起きな、お腹空いてるだろう」
漂ってくるトーストの香りに、お腹がきゅうっと刺激される。
昨日の夜は、春龍街の屋台で肉まんのようなものを買って食べたきりだった。
「ごめん、何か着替えの服を貸してくれない? なんでもいいんだけど」
すると白露は部屋の隅にあった箪笥に近づき、一番上の引き出しから服を引っ張り出し始めた。
自分の身なりには無頓着そうなくせに、他人の服にはこだわりがあるようで、ああでもないこうでもないと服を散らかしている。
「なんでもいいよ?」
「いやいや、その綺麗な麒麟眼に合うものじゃないとね……これなんかどうかな」
そう言って見せてきたのは、白い七分袖のワンピースだった。
胸元が少しチャイナドレス風で、ウエストをマークする青い布ベルトには、金と銀の糸で色んな花が刺繍されている。
「……意外。すっごく可愛い。どうしてこんな可愛いの持ってるの?」
「仕事の報酬に、箪笥ひと竿分の女性服を貰ったんだよ。気に入った? 君のサイズの服はこの箪笥にたくさんあるから、好きな時に着替えて」
そう言って白露は、ダイニングで待っているよと言い残し、部屋を出ていった。
私は借りていた浴衣を脱いで畳み、ワンピースに袖を通す。サイズはぴったりだ。
部屋を出ると、一人分の横幅しかないほど狭い廊下の突き当りに、洗面所が見えた。
薄いブルーと白のタイルが可愛い洗面所で顔を洗い、髪をハーフアップに整えた。
「久しぶりにワンピースとか着たかも。太ってなくてよかった」
ぐっすり眠れたためか顔色はいい。私はそのままトーストの匂いを辿って歩いた。
昨晩は暗くてよく分からなかったが、白露の家は結構広いようで、色々な部屋がある。けれどどの部屋もすさまじく物が多く、廊下まで溢れ返っていた。
覗き見したい気持ちをこらえつつ板張りの床を歩き、三段ほど階段を上がったところで、家主と再会した。
白露は着替えた私を見て、にっこり笑った。
「うん、その服、君の髪の色に合ってるね。可愛いよ」
「ありがと」
「さて、ここがキッチン兼ダイニングだよ。ここにあるものはなんでも好きに食べて飲んでくれて構わない」
暖かな日差しが差し込むダイニングは、意外にもこざっぱりしていた。キッチンは少し狭くコンロは一口しかないけれど、綺麗だった。あんまり使っていないのかもしれない。食器棚も食料棚も、物が多いわりには整頓されていた。
小さめのダイニングテーブルには、たくさんの本が積まれている。白露は読書家なんだろうか。
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