完全幸福論

のどか

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序章~愛する我が家に帰ってきました~

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まるで寄宿舎のある学校に行くといいだした時のようにわんわん泣くルナにリヒトは困ったように眉を下げた。

「姉ちゃん、泣かないでよ」
「だって、だって、嬉しいんだもん!」
「はぁ……。リヒト、ほっとけ」
「ボス」
「ルナがすぐ泣くのは今に始まったことじゃねぇだろ。それより、」

どう言えば良いのかと悩むノクトにリヒトはニッコリと笑ってノクトのすぐそばまで歩み寄った。
そして徐に膝をつくと呆然としているノクトの手に唇を落とす。

「ボス、若輩故至らぬこともありますがお側でお仕えすることをどうかお許しください」

顔をあげてしっかりとノクトの目を見つめてそう言ったリヒトに大人たちは息を呑む。
子どもたちもリヒトの行為が時間を止め、空気をガラリと変えたのを肌で感じていた。

まるで、物語のワンシーン。
若い騎士が心から敬愛する王に忠誠を誓う、とても神聖で侵しがたい美しい光景。

それを父が、兄が、作りだしている。
場所は見慣れたテラスなのに、ノクトが座っているのは自分たちが座っている椅子と寸分変わらないものなのに、その椅子が玉座に、普段着のリヒトが正装をした騎士に見える。 

「り、ひと……」

気押されたのは子どもたちだけではなかった。
声にならないのは、ジオたちだけではなかった。
その空気に呑まれたのは、ニナたちだけではなかった。
混乱しているのは、ルナたちだけではなかった。
ノクトも自分の手をとり、忠誠を誓うリヒトを信じられないものを見る目で見つめる。
声がかすれる。上手く言葉が紡げない。
それなのに、すっとその手を離したリヒトはなんでもないように笑う。
いつもと同じ、いやもう随分と見ていない悪戯が成功した子どもの笑みで。

「1回やってみたかったんだよね」
「リヒト!」

大きな声が出た。でも怒っている訳ではなかった。
ただ、分からなかった。分かりたくなかった。
ノクトは、リヒトを息子だと思っても、部下だと思ったことはない。
リヒトがジオを介して仕事を手伝うようになっても、それでも、リヒトはずっと息子だった。
それなのに、その絶対の線引きが、たったあれだけの行為でひどく揺らいだ気がした。
混乱するノクトを、険しい顔をするジオを、複雑そうな顔をするニナを、今にも泣き出しそうなルナを、リヒトはゆっくり見まわした。
そして最後に不安げな顔をする双子とステラを見て最後にまたノクトに視線を戻すとリヒトは困ったように眉を下げながら柔らかく微笑んだ。 

「ボス、大丈夫だよ。俺はもうちゃんと分かってる。
 だけど、もう守られるのは終わりにして支える側にまわりたい。
 だからボス、許してくれる?」

力強い声に迷いはない。
柔らかく、優しい声の裏側に秘められた強さが、真っ直ぐにリヒトの思いを伝えた。

家族だけど、家族だから、誰よりも尊敬して憧れるボスを支えたいんだ。
ボスが大事にしてるものを、俺も一緒に守りたいんだ。
そのために、俺は広い世界を見に行ったんだから。
守られてるだけの時間は終わりにして、俺も支える側に加わりたい。
俺も、ボスの役にたちたいんだ。いいでしょう?ボス。

その瞳に、声に、表情に、もう何度目かもわからない息子の成長を見てノクトは無意識に息を吐いた。

「……許す」

しっかりとリヒトを見据えた目は、ここまでリヒトを見守り育んだ父親のものであり、リヒトが憧れ続けた男のものであり、これから支え、手足となって働くと決めた主のものだった。
リヒトはそれを真正面から受けてぱぁあっと破顔する。

「やった!ありがとうボス!」

ノクトがほっと息を吐いた子どもたちを横目に視線を滑らせると今にもリヒトに飛びつきそうな右腕とそれを宥めようとする部下兼妹分、それから瞳を潤ませて柔らかに微笑む妻が居た。
ノクトは母親の顔をして笑うルナに同じ笑みで返す。
優しくあたたかな空気がその場を包みこんだ。


「兄様、改めておかえりなさい」
「ただいま」



愛する我が家に帰ってきました
(よぉし!これからも俺がビシビシ鍛えてやるからな!)
(ズルイ!リヒト様、分からないことがあったら私に何でも聞いてくださいね!!)
(今まで以上に扱き使ってやる。覚悟しろ)
(リヒト!おかえり!!ぎゅううう!)
(ママずるい!!私も!)
(俺たちも!!)
(リヒト兄様、ぎゅうです!!)
(……お手柔らかに。
 ていうか苦しいよ!姉ちゃん!セイラ!アルバ!ステラ!!)

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