12 / 145
序章~愛する我が家に帰ってきました~
11
しおりを挟む
まるで寄宿舎のある学校に行くといいだした時のようにわんわん泣くルナにリヒトは困ったように眉を下げた。
「姉ちゃん、泣かないでよ」
「だって、だって、嬉しいんだもん!」
「はぁ……。リヒト、ほっとけ」
「ボス」
「ルナがすぐ泣くのは今に始まったことじゃねぇだろ。それより、」
どう言えば良いのかと悩むノクトにリヒトはニッコリと笑ってノクトのすぐそばまで歩み寄った。
そして徐に膝をつくと呆然としているノクトの手に唇を落とす。
「ボス、若輩故至らぬこともありますがお側でお仕えすることをどうかお許しください」
顔をあげてしっかりとノクトの目を見つめてそう言ったリヒトに大人たちは息を呑む。
子どもたちもリヒトの行為が時間を止め、空気をガラリと変えたのを肌で感じていた。
まるで、物語のワンシーン。
若い騎士が心から敬愛する王に忠誠を誓う、とても神聖で侵しがたい美しい光景。
それを父が、兄が、作りだしている。
場所は見慣れたテラスなのに、ノクトが座っているのは自分たちが座っている椅子と寸分変わらないものなのに、その椅子が玉座に、普段着のリヒトが正装をした騎士に見える。
「り、ひと……」
気押されたのは子どもたちだけではなかった。
声にならないのは、ジオたちだけではなかった。
その空気に呑まれたのは、ニナたちだけではなかった。
混乱しているのは、ルナたちだけではなかった。
ノクトも自分の手をとり、忠誠を誓うリヒトを信じられないものを見る目で見つめる。
声がかすれる。上手く言葉が紡げない。
それなのに、すっとその手を離したリヒトはなんでもないように笑う。
いつもと同じ、いやもう随分と見ていない悪戯が成功した子どもの笑みで。
「1回やってみたかったんだよね」
「リヒト!」
大きな声が出た。でも怒っている訳ではなかった。
ただ、分からなかった。分かりたくなかった。
ノクトは、リヒトを息子だと思っても、部下だと思ったことはない。
リヒトがジオを介して仕事を手伝うようになっても、それでも、リヒトはずっと息子だった。
それなのに、その絶対の線引きが、たったあれだけの行為でひどく揺らいだ気がした。
混乱するノクトを、険しい顔をするジオを、複雑そうな顔をするニナを、今にも泣き出しそうなルナを、リヒトはゆっくり見まわした。
そして最後に不安げな顔をする双子とステラを見て最後にまたノクトに視線を戻すとリヒトは困ったように眉を下げながら柔らかく微笑んだ。
「ボス、大丈夫だよ。俺はもうちゃんと分かってる。
だけど、もう守られるのは終わりにして支える側にまわりたい。
だからボス、許してくれる?」
力強い声に迷いはない。
柔らかく、優しい声の裏側に秘められた強さが、真っ直ぐにリヒトの思いを伝えた。
家族だけど、家族だから、誰よりも尊敬して憧れるボスを支えたいんだ。
ボスが大事にしてるものを、俺も一緒に守りたいんだ。
そのために、俺は広い世界を見に行ったんだから。
守られてるだけの時間は終わりにして、俺も支える側に加わりたい。
俺も、ボスの役にたちたいんだ。いいでしょう?ボス。
その瞳に、声に、表情に、もう何度目かもわからない息子の成長を見てノクトは無意識に息を吐いた。
「……許す」
しっかりとリヒトを見据えた目は、ここまでリヒトを見守り育んだ父親のものであり、リヒトが憧れ続けた男のものであり、これから支え、手足となって働くと決めた主のものだった。
リヒトはそれを真正面から受けてぱぁあっと破顔する。
「やった!ありがとうボス!」
ノクトがほっと息を吐いた子どもたちを横目に視線を滑らせると今にもリヒトに飛びつきそうな右腕とそれを宥めようとする部下兼妹分、それから瞳を潤ませて柔らかに微笑む妻が居た。
ノクトは母親の顔をして笑うルナに同じ笑みで返す。
優しくあたたかな空気がその場を包みこんだ。
「兄様、改めておかえりなさい」
「ただいま」
愛する我が家に帰ってきました
(よぉし!これからも俺がビシビシ鍛えてやるからな!)
(ズルイ!リヒト様、分からないことがあったら私に何でも聞いてくださいね!!)
(今まで以上に扱き使ってやる。覚悟しろ)
(リヒト!おかえり!!ぎゅううう!)
(ママずるい!!私も!)
(俺たちも!!)
(リヒト兄様、ぎゅうです!!)
(……お手柔らかに。
ていうか苦しいよ!姉ちゃん!セイラ!アルバ!ステラ!!)
「姉ちゃん、泣かないでよ」
「だって、だって、嬉しいんだもん!」
「はぁ……。リヒト、ほっとけ」
「ボス」
「ルナがすぐ泣くのは今に始まったことじゃねぇだろ。それより、」
どう言えば良いのかと悩むノクトにリヒトはニッコリと笑ってノクトのすぐそばまで歩み寄った。
そして徐に膝をつくと呆然としているノクトの手に唇を落とす。
「ボス、若輩故至らぬこともありますがお側でお仕えすることをどうかお許しください」
顔をあげてしっかりとノクトの目を見つめてそう言ったリヒトに大人たちは息を呑む。
子どもたちもリヒトの行為が時間を止め、空気をガラリと変えたのを肌で感じていた。
まるで、物語のワンシーン。
若い騎士が心から敬愛する王に忠誠を誓う、とても神聖で侵しがたい美しい光景。
それを父が、兄が、作りだしている。
場所は見慣れたテラスなのに、ノクトが座っているのは自分たちが座っている椅子と寸分変わらないものなのに、その椅子が玉座に、普段着のリヒトが正装をした騎士に見える。
「り、ひと……」
気押されたのは子どもたちだけではなかった。
声にならないのは、ジオたちだけではなかった。
その空気に呑まれたのは、ニナたちだけではなかった。
混乱しているのは、ルナたちだけではなかった。
ノクトも自分の手をとり、忠誠を誓うリヒトを信じられないものを見る目で見つめる。
声がかすれる。上手く言葉が紡げない。
それなのに、すっとその手を離したリヒトはなんでもないように笑う。
いつもと同じ、いやもう随分と見ていない悪戯が成功した子どもの笑みで。
「1回やってみたかったんだよね」
「リヒト!」
大きな声が出た。でも怒っている訳ではなかった。
ただ、分からなかった。分かりたくなかった。
ノクトは、リヒトを息子だと思っても、部下だと思ったことはない。
リヒトがジオを介して仕事を手伝うようになっても、それでも、リヒトはずっと息子だった。
それなのに、その絶対の線引きが、たったあれだけの行為でひどく揺らいだ気がした。
混乱するノクトを、険しい顔をするジオを、複雑そうな顔をするニナを、今にも泣き出しそうなルナを、リヒトはゆっくり見まわした。
そして最後に不安げな顔をする双子とステラを見て最後にまたノクトに視線を戻すとリヒトは困ったように眉を下げながら柔らかく微笑んだ。
「ボス、大丈夫だよ。俺はもうちゃんと分かってる。
だけど、もう守られるのは終わりにして支える側にまわりたい。
だからボス、許してくれる?」
力強い声に迷いはない。
柔らかく、優しい声の裏側に秘められた強さが、真っ直ぐにリヒトの思いを伝えた。
家族だけど、家族だから、誰よりも尊敬して憧れるボスを支えたいんだ。
ボスが大事にしてるものを、俺も一緒に守りたいんだ。
そのために、俺は広い世界を見に行ったんだから。
守られてるだけの時間は終わりにして、俺も支える側に加わりたい。
俺も、ボスの役にたちたいんだ。いいでしょう?ボス。
その瞳に、声に、表情に、もう何度目かもわからない息子の成長を見てノクトは無意識に息を吐いた。
「……許す」
しっかりとリヒトを見据えた目は、ここまでリヒトを見守り育んだ父親のものであり、リヒトが憧れ続けた男のものであり、これから支え、手足となって働くと決めた主のものだった。
リヒトはそれを真正面から受けてぱぁあっと破顔する。
「やった!ありがとうボス!」
ノクトがほっと息を吐いた子どもたちを横目に視線を滑らせると今にもリヒトに飛びつきそうな右腕とそれを宥めようとする部下兼妹分、それから瞳を潤ませて柔らかに微笑む妻が居た。
ノクトは母親の顔をして笑うルナに同じ笑みで返す。
優しくあたたかな空気がその場を包みこんだ。
「兄様、改めておかえりなさい」
「ただいま」
愛する我が家に帰ってきました
(よぉし!これからも俺がビシビシ鍛えてやるからな!)
(ズルイ!リヒト様、分からないことがあったら私に何でも聞いてくださいね!!)
(今まで以上に扱き使ってやる。覚悟しろ)
(リヒト!おかえり!!ぎゅううう!)
(ママずるい!!私も!)
(俺たちも!!)
(リヒト兄様、ぎゅうです!!)
(……お手柔らかに。
ていうか苦しいよ!姉ちゃん!セイラ!アルバ!ステラ!!)
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
罪悪と愛情
暦海
恋愛
地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。
だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる