完全幸福論

のどか

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第1章~平和な日常が戻ってきました~

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役割分担を決めたセイラ達の行動は早かった。
自分たちではまだ足元にも及ばないという自覚がある相手に挑むのだから慎重に相手の油断をチクチクつっつきながら準備を進めていく。
セイラはステラの持ち帰った情報とアルバが用意した脱走経路を頭の中に叩きこむ。
ここからはセイラの仕事だ。
ステラが持ち帰った情報はたぶん正しい。
あのジオがステラを警戒している訳がない。
不安そうな顔をするステラに授けた“秘策”は親バカの弱点をピンポイントで突いたはずだ。
アルバの脱走経路も問題ない。
人が仕事している間フラフラと何をしているのかと思っていたがこういうことならしょうがない。
屋敷の間取り図にも載っていない隠し部屋やら隠し通路まで調べ上げてあるのには本当にビックリした。
しかも侵入者対策のトラップについてまで書いてあった。

「問題は屋敷を抜け出したあと、か」

甘い香りに促されてセイラは顔を上げる。
無意識に辿りついていた場所をぐるり見渡して苦笑いを零した。
咲き誇る百合にそっと指を伸ばす。
セイラにとって白い百合は特別な花だった。
リヒトへの恋心を自覚してからずっと落ち込んではこの花のところへ来た。
自分と同じように届かない人に恋をしてその恋を実らせた彼女―――この花を象徴とする美しい女神に助力を請い願うように。

「……力を貸して。終わらせたくなんかないの。
 だから、どうかディアナ様―――貴女の加護を私に」

愛する人を戦場まで追いかけて行った人。
どうかその強さを。
阻むものを払いのけて恋を叶えた人。
どうかその勇気を。
命をかけてただひとりだけを愛し抜いた人。
どうかその情熱を。
少しだけ私に分けてください。
“妹”という微温湯のような場所を自分から捨てる私の背中を少しだけ押してください。

「今日はまた熱心に祈っておられますのぅ」
「おじいさん。えぇ。少し煮詰まってしまったからディアナ様に助けて頂こうと思って」
「……はて、ちい姫様は戦にでもいかれるのかのぅ?」
「いいえ。ちがう…事もないわね。
 そうだわ!おじいさん。近く、肥料を買いに街に出たりしないかしら?」
「そうですなぁ。そろそろ買いに行かないといけませんかな」
「だったら、その時に私も乗せて行ってくれないかしら。
 我儘を言うなら5日後なら助かるわ」
「……それはご命令ですかな」

人のよさそうな庭師の笑みが深まる。
世界がガラリと表情を変えた。
試されている。今、とても大切な選択を迫られている。
この後の言葉で決まるのはお見合い会場への移動手段じゃない。
それよりももっと大きくて大切な何かだ。
セイラの眉間が無意識に皺を刻んでその異質な空気に呑まれてしまいそうになった瞬間、ふわりと甘い香りが鼻孔をくすぐった。
その香りにセイラはふっと笑って真っ直ぐに庭師の目を見つめた。

「―――――――――」

「なら仕方ありませんな」
「ありがとう!おじいさん!!
 今度アルバとステラをつれてお手伝いにくるわ。」
「それは楽しみですじゃ」

苦笑いする庭師にセイラはにっこりと笑って屋敷へと戻っていた。
その腕にディアナの加護―真っ白な百合―を抱いて。
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