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第1章~平和な日常が戻ってきました~
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緊張した面持ちで向き合う若い男女にジオは緩みそうになる口元を意識して引き締めた。
あれだけ面倒だなんだと言っておいてなんだが微笑ましい光景にしか見えなくなってきた。
これが見合いマジックか?
いや、見合いどうこうじゃない。重要なのは誰がそれをしているか、だ。
若かりしボスの護衛で来た時はこんな気持ち欠片も芽生えなかった。
芽生えたのは相手のご令嬢への心からの同情と胃の痛みだけ……。
あぁ、ボスに見合いなんかさせた前ボスへの恨みごともあったな。
あと俺護衛につけた自分の教育係兼前ボスの右腕への不満も。
兎に角、あのとき生まれたのはこんな思わず笑みがこぼれてしまうようなものではなく負の連鎖だけだった。
それにくらべてリヒト達は……。
なんかもう、若いっていいな。ガンバレ若人よ!と背中を押してやりたくなる。
ご令嬢の恥じらう仕草とそれを気遣うリヒトの姿がよりいっそう微笑ましい気分にさせる。
断わること前提できたが、ここからはじまるのも有りじゃないか?
強引な売り込み方をしてきただけあって美人だし性格だって問題があるようには見えない。
なによりもこっちの方が見ていて胃に優しそうだ。
「ぁ、あの、その、……本日はワガママを申し上げて申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらないでください。
こんなことを申せば失礼かもしれませんが、相手が貴女でよかったと思っています」
「リヒト様、」
「……よく剣の実技授業を見学に来られていたでしょう?」
「……覚えて、おいでだったのですか……」
くしゃりと顔を歪めて泣きだしそうな顔をする令嬢にリヒトは優しく微笑んだ。
ついでに対面してからずっと生温かい視線を送ってくるジオの足をテーブルの下で踏みつけることも忘れない。
完全に油断をしていたせいでビクリと体を揺らすジオを視線だけで黙らせてリヒトは素知らぬ顔で視線を戻した。
「うちの娘とお知り合いだったのですか?」
驚いた伯爵の声にリヒトは困ったように眉を下げる。
しまった。彼女の緊張をほぐす為にと思ったのにこれでは都合が悪い方向に話が進む。
内心舌を打ちながらリヒトは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。
「リヒト様、」
「……そうですね。ジオ、伯爵、申し訳ありませんが少し席を外して頂けませんか?」
「あ、あぁ。それは気が回らなくて申し訳ありません」
「ダリア嬢も申し訳ありません」
期待に満ちた顔で出て行ったふたりの背を静かに見送ってふたりは再び向き直る。
互いの保護者と保護者代理がいなくなって場の空気が幾分か軽く柔らかくなった。
「……どこまでご存じなのですか?」
「この見合いが双方にそれぞれ思惑があるということくらいは」
「そう、ですわよね。貴方はあの方と懇意にしていらしたし。ご存じないわけありません」
「いや、あいつとはただの腐れ縁で親しかったという訳ではない、と思いたいんですが……。
それにこれは俺が自分で調べた情報ですよ。ダリア嬢」
「ふふ、お変わりありませんわね」
「……ようやく笑いましたね」
「ねぇ、リヒト様。貴方様が全てを承知なさっていると知った上でもうひとつだけワガママを言ってもいいですか?」
「―――俺でいいのなら」
紡がれた了承の言葉にダリアはふわりと微笑んで唇を動かした。
あれだけ面倒だなんだと言っておいてなんだが微笑ましい光景にしか見えなくなってきた。
これが見合いマジックか?
いや、見合いどうこうじゃない。重要なのは誰がそれをしているか、だ。
若かりしボスの護衛で来た時はこんな気持ち欠片も芽生えなかった。
芽生えたのは相手のご令嬢への心からの同情と胃の痛みだけ……。
あぁ、ボスに見合いなんかさせた前ボスへの恨みごともあったな。
あと俺護衛につけた自分の教育係兼前ボスの右腕への不満も。
兎に角、あのとき生まれたのはこんな思わず笑みがこぼれてしまうようなものではなく負の連鎖だけだった。
それにくらべてリヒト達は……。
なんかもう、若いっていいな。ガンバレ若人よ!と背中を押してやりたくなる。
ご令嬢の恥じらう仕草とそれを気遣うリヒトの姿がよりいっそう微笑ましい気分にさせる。
断わること前提できたが、ここからはじまるのも有りじゃないか?
強引な売り込み方をしてきただけあって美人だし性格だって問題があるようには見えない。
なによりもこっちの方が見ていて胃に優しそうだ。
「ぁ、あの、その、……本日はワガママを申し上げて申し訳ありませんでした」
「いえ、お気になさらないでください。
こんなことを申せば失礼かもしれませんが、相手が貴女でよかったと思っています」
「リヒト様、」
「……よく剣の実技授業を見学に来られていたでしょう?」
「……覚えて、おいでだったのですか……」
くしゃりと顔を歪めて泣きだしそうな顔をする令嬢にリヒトは優しく微笑んだ。
ついでに対面してからずっと生温かい視線を送ってくるジオの足をテーブルの下で踏みつけることも忘れない。
完全に油断をしていたせいでビクリと体を揺らすジオを視線だけで黙らせてリヒトは素知らぬ顔で視線を戻した。
「うちの娘とお知り合いだったのですか?」
驚いた伯爵の声にリヒトは困ったように眉を下げる。
しまった。彼女の緊張をほぐす為にと思ったのにこれでは都合が悪い方向に話が進む。
内心舌を打ちながらリヒトは曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。
「リヒト様、」
「……そうですね。ジオ、伯爵、申し訳ありませんが少し席を外して頂けませんか?」
「あ、あぁ。それは気が回らなくて申し訳ありません」
「ダリア嬢も申し訳ありません」
期待に満ちた顔で出て行ったふたりの背を静かに見送ってふたりは再び向き直る。
互いの保護者と保護者代理がいなくなって場の空気が幾分か軽く柔らかくなった。
「……どこまでご存じなのですか?」
「この見合いが双方にそれぞれ思惑があるということくらいは」
「そう、ですわよね。貴方はあの方と懇意にしていらしたし。ご存じないわけありません」
「いや、あいつとはただの腐れ縁で親しかったという訳ではない、と思いたいんですが……。
それにこれは俺が自分で調べた情報ですよ。ダリア嬢」
「ふふ、お変わりありませんわね」
「……ようやく笑いましたね」
「ねぇ、リヒト様。貴方様が全てを承知なさっていると知った上でもうひとつだけワガママを言ってもいいですか?」
「―――俺でいいのなら」
紡がれた了承の言葉にダリアはふわりと微笑んで唇を動かした。
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