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第1章~平和な日常が戻ってきました~
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玄関ホールで待ちかまえていたノクトたちにリヒトは微苦笑を浮かべた。
あからさまにソワソワしてそれを誤魔化すようにノクトにくっついているルナと不貞腐れた顔をするアルバに自然と目が行ってしまう。
クスリと小さく笑いを零せばムッとした視線が返ってきてリヒトは困り顔でノクトに視線を戻した。
ノクトの視線はリヒトの隣でしおらしくしているセイラに向けられている。
「……お前は後だ。リヒト、報告に来い」
「はい。ボス」
ぎゅうっと握りしめられていた手をやんわりとほどいて背を向けて歩き始めたノクトを追いかけた。
形式的な報告が終わった途端に意地悪くニヤリと笑うノクトにリヒトはじと目を向けた。
「人生初の見合いはどうだった?」
「すっごく疲れた」
その不貞腐れた子どものような声にノクトは可笑しそうにと喉で笑いながら楽にしろと声をかける。
リヒトは待ってましたと言わんばかりにキッチリ絞められたネクタイを弛めて来客用のふかふかのソファーに身を沈めた。
同じようにソファーに腰をおろしたジオから呆れた視線を向けられた気がしたがリヒトは黙殺して悠然と執務椅子に座っているノクトに目をやる。
「それで俺をダシにしてやりたかったことはできたの?」
「なんだ。まだそんなこと言ってやがったのか」
「誰だってボスが俺の経験のためだけにわざわざ結婚が決まってる相手とお見合いさせるなんて思わないよ」
「経験のためだけの見合いだから、だろ」
「ちょっと待て!なんだ!結婚相手が決まってる相手って!?
お前らめちゃくちゃいい雰囲気だったじゃねぇか!?」
「彼女、俺の友人――いや腐れ縁のお兄さんと結婚が決まってるんだよ。
……言ってなかったっけ??」
「聞いてねぇぞ。
……だから話が纏まらなかったのにあんなに晴れやかな顔してやがったのか」
「それにしてもボス。
悪だくみについて教えてくれないのはしょうがないけど、セイラが来ることくらいは教えてくれてもよかったんじゃないの?」
どうせそれも知ってたんでしょ?というリヒトの責めるような視線もノクトはサラリと受け流す。
「さぁな」
「俺、すっごくビックリしたんだけど」
「なんだ。ついに自分を嫁にしろとでもごねたか?」
「まさか!ただ、結婚するのはあと3年待っててさ。
ダリア嬢より絶対にイイ女になるからって。
そんなの決まってるのにね。なに張りあってるんだか」
呆れ顔でそう言ったリヒトにノクトは娘に同情した。
セイラの精一杯の行動はリヒトにはちっとも伝わっていないらしい。
「俺にそんな宣言してもしょうがない気がするんだけどな。女の子って分からないや」
なんてブツブツ言っているリヒトにジオは蟀谷を抑えてゆるく首を振った。
………相手が悪かったな。ちい姫。
ふたりの瞳にセイラへの同情が浮かび、その瞳が呆れを含ませて真っ直ぐに自分へと向けられていることにリヒトは気付かない。
「そういうのを身内の贔屓目っていうんだぞ」
「……ボスだって同じこと思ってるくせに」
「当然だ。俺の娘が他に劣る訳がねぇ」
「親バカ、妹バカもいい加減にしやがれ!
一番の問題はちい姫がひとりで脱走してアッサリ会場まで辿りついた事だろ!?
リヒト、お前、どっかに発信機でもしこまれてんじゃねぇか?」
真顔でトンデモナイことを言いだしたジオにリヒトの呆れた視線が向けられる。
その上で酷く冷静な声が淡々とひとり事の次第を把握しきれていなジオのために説明をはじめた。
「アルバが手伝ったなら簡単だよ。
セイラがボスの仕事を手伝ってる間アルバはいろんなとこに抜け出してるみたいだし。
俺たちの通れないような抜け道もあの子たちなら通れるからね」
「場所と時間が割れたのはお前の不注意とステラの功績だな」
「……ま、まさか」
『父様、お仕事おつかれさまです。』
そう言ってステラがコーヒーを出しに来た。
可笑しいなと思わないでもなかったが、それでも年齢的に反抗期がすぐそこまでやってきている娘に『父様。お仕事ばっかりで寂しくて…お手伝いできることがあったら言ってくださいね!』なんて言われてなにも思わない親がいるだろうか。いや、いない。
ジオはそのまま可愛い可愛い娘をぎゅうぎゅう抱きしめた後しっかり膝の上に抱き込んでそのまま仕事をした。
そのとき、見合いの会場だのなんだのという詳細が記された書類ももちろん机の上にあった…ような気がする。
「嘘だろぉ。あの散らばった書類の中から見つけ出して覚えたとか……」
「あいつらの側に居るんだ」
「ステラだって可愛いだけの女の子じゃないよ」
「お、俺の可愛い可愛い天使が悪魔に毒されていく……!!」
「どういう意味だ」
「そうだよ、ジオ。
セイラとアルバだって可愛い天使だろ?」
「その前に“堕”を付けるなら頷いてやる。
あいつらが天使なのはリヒトの前限定だろ。」
そういうわけでジオが対双子用に幾重にも張り巡らせた罠はあっさりと愛娘の手によって暴かれた。
あぁ、可愛い娘が。俺の癒しが。俺の愛する天使が……!!
ジオは娘の手を握り無表情のまま悪魔の尻尾を揺らすアルバとその背後で天使の笑みを振りまきながらパタパタと真黒な羽をなびかせるセイラの姿を見た気がした。
あからさまにソワソワしてそれを誤魔化すようにノクトにくっついているルナと不貞腐れた顔をするアルバに自然と目が行ってしまう。
クスリと小さく笑いを零せばムッとした視線が返ってきてリヒトは困り顔でノクトに視線を戻した。
ノクトの視線はリヒトの隣でしおらしくしているセイラに向けられている。
「……お前は後だ。リヒト、報告に来い」
「はい。ボス」
ぎゅうっと握りしめられていた手をやんわりとほどいて背を向けて歩き始めたノクトを追いかけた。
形式的な報告が終わった途端に意地悪くニヤリと笑うノクトにリヒトはじと目を向けた。
「人生初の見合いはどうだった?」
「すっごく疲れた」
その不貞腐れた子どものような声にノクトは可笑しそうにと喉で笑いながら楽にしろと声をかける。
リヒトは待ってましたと言わんばかりにキッチリ絞められたネクタイを弛めて来客用のふかふかのソファーに身を沈めた。
同じようにソファーに腰をおろしたジオから呆れた視線を向けられた気がしたがリヒトは黙殺して悠然と執務椅子に座っているノクトに目をやる。
「それで俺をダシにしてやりたかったことはできたの?」
「なんだ。まだそんなこと言ってやがったのか」
「誰だってボスが俺の経験のためだけにわざわざ結婚が決まってる相手とお見合いさせるなんて思わないよ」
「経験のためだけの見合いだから、だろ」
「ちょっと待て!なんだ!結婚相手が決まってる相手って!?
お前らめちゃくちゃいい雰囲気だったじゃねぇか!?」
「彼女、俺の友人――いや腐れ縁のお兄さんと結婚が決まってるんだよ。
……言ってなかったっけ??」
「聞いてねぇぞ。
……だから話が纏まらなかったのにあんなに晴れやかな顔してやがったのか」
「それにしてもボス。
悪だくみについて教えてくれないのはしょうがないけど、セイラが来ることくらいは教えてくれてもよかったんじゃないの?」
どうせそれも知ってたんでしょ?というリヒトの責めるような視線もノクトはサラリと受け流す。
「さぁな」
「俺、すっごくビックリしたんだけど」
「なんだ。ついに自分を嫁にしろとでもごねたか?」
「まさか!ただ、結婚するのはあと3年待っててさ。
ダリア嬢より絶対にイイ女になるからって。
そんなの決まってるのにね。なに張りあってるんだか」
呆れ顔でそう言ったリヒトにノクトは娘に同情した。
セイラの精一杯の行動はリヒトにはちっとも伝わっていないらしい。
「俺にそんな宣言してもしょうがない気がするんだけどな。女の子って分からないや」
なんてブツブツ言っているリヒトにジオは蟀谷を抑えてゆるく首を振った。
………相手が悪かったな。ちい姫。
ふたりの瞳にセイラへの同情が浮かび、その瞳が呆れを含ませて真っ直ぐに自分へと向けられていることにリヒトは気付かない。
「そういうのを身内の贔屓目っていうんだぞ」
「……ボスだって同じこと思ってるくせに」
「当然だ。俺の娘が他に劣る訳がねぇ」
「親バカ、妹バカもいい加減にしやがれ!
一番の問題はちい姫がひとりで脱走してアッサリ会場まで辿りついた事だろ!?
リヒト、お前、どっかに発信機でもしこまれてんじゃねぇか?」
真顔でトンデモナイことを言いだしたジオにリヒトの呆れた視線が向けられる。
その上で酷く冷静な声が淡々とひとり事の次第を把握しきれていなジオのために説明をはじめた。
「アルバが手伝ったなら簡単だよ。
セイラがボスの仕事を手伝ってる間アルバはいろんなとこに抜け出してるみたいだし。
俺たちの通れないような抜け道もあの子たちなら通れるからね」
「場所と時間が割れたのはお前の不注意とステラの功績だな」
「……ま、まさか」
『父様、お仕事おつかれさまです。』
そう言ってステラがコーヒーを出しに来た。
可笑しいなと思わないでもなかったが、それでも年齢的に反抗期がすぐそこまでやってきている娘に『父様。お仕事ばっかりで寂しくて…お手伝いできることがあったら言ってくださいね!』なんて言われてなにも思わない親がいるだろうか。いや、いない。
ジオはそのまま可愛い可愛い娘をぎゅうぎゅう抱きしめた後しっかり膝の上に抱き込んでそのまま仕事をした。
そのとき、見合いの会場だのなんだのという詳細が記された書類ももちろん机の上にあった…ような気がする。
「嘘だろぉ。あの散らばった書類の中から見つけ出して覚えたとか……」
「あいつらの側に居るんだ」
「ステラだって可愛いだけの女の子じゃないよ」
「お、俺の可愛い可愛い天使が悪魔に毒されていく……!!」
「どういう意味だ」
「そうだよ、ジオ。
セイラとアルバだって可愛い天使だろ?」
「その前に“堕”を付けるなら頷いてやる。
あいつらが天使なのはリヒトの前限定だろ。」
そういうわけでジオが対双子用に幾重にも張り巡らせた罠はあっさりと愛娘の手によって暴かれた。
あぁ、可愛い娘が。俺の癒しが。俺の愛する天使が……!!
ジオは娘の手を握り無表情のまま悪魔の尻尾を揺らすアルバとその背後で天使の笑みを振りまきながらパタパタと真黒な羽をなびかせるセイラの姿を見た気がした。
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