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第3章~あなたの愛に完全幸福します~
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しおりを挟むあのやりとりが夢だったかのようにジェロージアは普段通りに戻った。
最初は警戒していたリヒトも段々面倒臭くなって最近は放置している。
それでも一応、ノクトには面倒なやつに想像以上に気にいられていたらしいという報告はしておいた。
すぐに、それがジェロージアだろうと今のリヒトの状況を楽しんでいるらしい返事が届いてなんとも言えない気分になった。
素直に同情もとい心配してくれる手紙をくれたのはジオとニナ夫婦からだけだった。
セイラたちからの手紙は―――うん、見なかった事にしようと思う。ステラ、ごめん。
「さて、今日はこの国の興りについての授業にしましょうか」
「リヒト様、それなら私もう」
「えぇ、ですから裏の歴史です」
普通の授業では語られることのない夜と朝の歴史。
王族と夜の闇とノエルの話。
「、」
「この間のクーデターはご存じですね?」
「はい」
「この国の未来を担う者として貴女はこの関係をきちんと知らなければならない。
この件に関しての認識が甘いと先日の比ではない被害が出る可能性があります」
「しっかり学びますわ。教えてくださいませ」
真剣な面持ちでそう告げる王女にリヒトはにこりと微笑んだ。
語られるのは一般に教えられる歴史を交えた本当の記録。
悪だと教えられた最後の王が最大の犠牲者だという真実の話。
何の罪もない王が夜明けを告げる為だけに処刑された哀しい記憶の物語。
「そん、な。それでは、それではノエルは……!!」
自分たちはなんて罪深いのだろう。
苦しげに表情を歪めた彼女は確かに罪を感じている。
彼らの存在を、この歴史を忘却してしまった王族は数多くいる。
自分たちの罪から目をそむけて知らぬ存ぜぬを貫きとおしてきた王は少なくない。
けれど、彼女にそれを許す気はない。
リヒトはそんな自分に自嘲の笑みを零しながらクーデターの加害者であり、一番の被害者である。“彼女”の話をした。
見守る役目を果たすことが叶わず、その名を利用され穢されるくらいなら全ての企てを自らの命を持って破綻へと導いた気高い睡蓮の話を。
「だからこそ、今、力ある者が守らねばなりません。あのようなことは二度とあってはならない」
「はい」
今にも泣き出しそうな顔をしながらも力強く頷いた王女にリヒトは優しく微笑んだ。
しっかりと返事をした自分に優しく微笑んで礼を言ったリヒトを思い出して王女は溜息を吐いた。
重たいと思った。自分が背負うものをはじめて重たいと思った。
否、今までは本当の意味でそれを理解していなかっただけで、これからきっともっと重たいものを背負っていることを自覚しなくてはならなくなるのだろう。
けれど、それを自分たちが背負わなければその負担は全て夜の闇に押し付けられるのだと知った。
それは嫌だ。あの少女に、リヒトの心を占め続ける義妹に負けたくない。
クーデターの起こった夜会で彼女が言った言葉を覚えている。
『姫が国をお治めになるころには私が女が殿方に劣らないと証明しておりますからどうぞご安心を』
彼女は笑ってそう言ったのだ。
負けたくない。リヒトが誇らしげに語る彼女に。
彼が家族への手紙に花を添えて送るのを知っている。
その花が母親である侯爵夫人ではなく、義妹であるセイラ嬢への贈りものだということも知っている。
リヒトは優しい。時間制限付きだということを忘れてしまいたくなるくらいに。
離したくない。ずっと側にいて欲しい。これからもずっと。
「これが、恋というものなのかしら……?」
婚約者のいる自分にはあってはならない感情だ。
けれど自分をなんとも思っていない、ただ従兄というだけで婚約者に名が挙がったあの男よりも優先する価値はあるはず。
そう思ってしまう私はいけない子ですか?
星が輝く夜にまたひとつ溜息を吐いた。
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