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第3章~あなたの愛に完全幸福します~
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しおりを挟む「なぁ、やっぱ俺と一緒にここに残ろうぜ」
期限が近付くにつれて鬱陶しくなってくるジェロージアに溜息を吐きながら決まりきった答えを返す。
「嫌だっていってるだろ。俺がお仕えする人は決まってるの」
ジェロージアを適当にあしらいながら少し前にアルバが持ってきた情報を整理する。
例の夜会にはやっぱり何か裏があるらしく、夜会に顔を出さないことで有名なノクトのところにも招待状が届いたらしい。
普段は公式行事で絶対参加の場合しか王家からの招待状は届かない。
今回の夜会は完全に私的なものだ。それなのに、ノクトだけならまだしもまだ社交界デビューしていないセイラとアルバにまで参加するようにとのお言葉まであったらしい。
侯爵家―――夜の闇の後継者候補のお披露目という建前までつけて。
ただでさえあんな煩雑な場に可愛い弟妹を出したくはないのに、断われない理由を押し付けられてはどうしようもない。
ラヴァンシーの事件の時のセイラを思い出してリヒトは顔を顰める。
王女の替え玉として参加したあの夜会でだってセイラは視線を集めていた。
あのころより綺麗になっているだろうセイラはきっと男たちの視線を集め、群がられるだろう。
そう思うとますます面白くない気がした。
「いいじゃん。お前帰ると俺寂しい」
「知るか」
「リヒト、俺を置いてくなよ」
思考を遮るように腕を掴んで切なげに囁いてきたジェロージアの頭を掴まれていない方の手で殴る。
「気持ち悪い」
「何度も言ってるだろ。俺は本気。俺と一緒に残れよ」
じゃれているときは適当に振り払えばいいが、こうして真剣に見つめられるとリヒトはどうしていいか分からなくなる。
たまにこうした顔で真意のわからないことを囁くようになったジェロージアにどう対処すればいいのかリヒトは未だに分からなかった。
それでもいい加減向き合わないといけない。
いつもなら聞かなかったことにして逃げるように足を進めていたリヒトは、ピタリと足を止めて真っ直ぐにジェロージアを見つめ返した。
「なぁ、ジェロ。俺はあの場所で生きたい」
「リヒト」
「俺、きっとあの場所でしか生きられないんだ」
優しくて優しくて、泣きたくなるくらいに温かいあの場所でしかきっと生きられない。
あの場所で満足に息をすることを覚えてしまったから。
あの場所に自分の居場所を見つけてしまったから。
俺は、ボスの本当の息子じゃないけど、ボスと姉ちゃんに拾われた子どもだけど、だけど、あのふたりは俺に好きに生きてもいいって言ってくれた。
一緒にいてもいいっていってくれた。
血の繋がりのない俺が双子のお兄ちゃんでいてもいいっていってくれた。
俺のことも大事な息子だって、愛してるって言ってくれた。
「だから、俺はお前がどんなに必要としてくれても応えてやれない」
「……それで、俺が納得するとでも?」
「してくれるよ。
だってお前、俺の親友なんだろ?」
今まで絶対に認めようとしなかったジェロージアを見つめてそう言う。
悔しくて悔しくて、だけど、どこかで喜んでいる自分がいて、それがまた悔しくてジェロージアは真っ直ぐに向けられている視線から逃れるように俯いた。
「ジェロ。ごめん。ありがとう」
「、んだよ。ずっと逃げ続けてくれれば、ずっと追いかけられたのに」
ちゃんとジェロージアと向き合って、考えて、答えを出されてしまったらそれ以上何も言えない。
今までみたいに言い逃れや言いわけを盾にして逃げ続けてくれればよかったのに。
「……親友はやめないからな。休暇もらったら遊びに行くし」
「うん」
穏やかに答えるリヒトに泣きそうになりながらぐだぐだと言葉を続ける。
珍しくリヒトは鬱陶しがることなくきちんと全部に返事をしてやった。
ようやく顔をあげたジェロージアの何かをふっ切ったような笑みが浮かべられていてほっと息を吐く。
「ありがとな、リヒト」
認めてくれる人が欲しかった。
自分をレドモンド家の次男じゃなく、ジェロージアというひとりの人間として認めてほしかった。
そんなときに無意識にそれをやってのけたリヒトに出会った。
あの手この手で懐柔しようとしても決して懐かないリヒトにいつのまにか懐柔されていたのは自分の方で、リヒトの特別がほしかった。
だけど、思えばとっくの昔にもらっていたのかもしれない。
リヒトがあからさまに邪険に扱うのは自分だけだから。
それだけちゃんと心を許してくれていたのかもしれない。
ちゃんと、特別にしていてくれたのかもしれない。
いつだってリヒトはちゃんと自分をみていてくれたのだから。
「ばーか」
スタスタと歩きだしたリヒトを慌てて追いかけた。
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