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~番外編~
穏やかな昼下がり
しおりを挟むお見合い騒動から数週間。
水面下で繰り広げられた親VS子どもたちのせいでどことなく緊張した空気を漂わせていた屋敷はすっかりいつものゆるやかな雰囲気を取り戻していた。
裏社会のみならず実はこの国の王位継承権さえもその手に握っている我らがボスにセイラが元気よく噛みつく姿は屋敷で働く者たちに心からの安堵をもたらした。
そして今日もやっぱり不器用な親子は周りの生温かい視線を受けながら低レベルな親子喧嘩を繰り広げていた。
「どうしてパパまでいるの!?というかそこ私の席なんだけど!!どいてよ!!」
「うるせぇ、俺がどこに座ろうと俺の勝手だ。
大体俺は、リヒトに誘われたんだよ。リ ヒ ト にな。
気にいらねぇならテメェがどっか行けクソガキ」
「~~っ!!ふざけないで!私だって毎日兄様とお茶するって決めてるんだから!
この時間のために私がどれだけ頑張ってると思ってんの!?」
「ハッ、興味もねぇな」
「……父さん?じゃあ母さんも来るの?」
「あぁ。というかお前は何やってんだ。ステラを離してやれ」
ふぇっと半泣きのステラは随分とボロっとしてる。
「……一緒に来るっていうから。それにくっついてるのはステラだよ」
「アルバ様があんなとこに置き去りにするってゆーからっ!!ふぇっボス~~~!!」
「本当にお前は何をやってんだ。バカ息子」
サッとアルバの手を離して助けを求めるようにノクトにしがみつく。
よほど怖い思いをしたのだろう。
ぐすぐすと泣きだす寸前のステラの背をあやすように撫でながら呆れ混じりにアルバを睨みつけると拗ねたような顔がフイっと横にそれた。
途端にその頭がガクンと揺れる。
目を見開いたのはノクトだけではなかった。ステラまでもが小気味のいい音に反応してパチリと目を瞬く。
視線の先にはニッコリと笑うセイラと頭を押さえて反論する寸前に固まっているアルバ。
心なしかヒクリと引き攣った口角に血の気が引いてどんどん悪くなる顔色。
「私がいない間に意地悪するなって言ったわよね?」
「べ、べつに、イジワルしたわけじゃな」
「ステラを苛めるな、泣かせるなって言ったわよね?」
「だから、いじめたわけじゃ」
「言 っ た わ よ ね ?」
「はい……」
「せ、セイラ様、私、大丈夫です!
真っ暗でコウモリがいてビックリして怖かったですけど……で、でも!もう大丈夫ですからっ!」
「真っ暗な上にコウモリですって…?この馬鹿弟!!
か弱い女の子をなんてとこに連れて行ってるの!?
どーして我が家の男共は……!!」
「ちい姫、その辺にしとけ。ステラが怯えてるぞ」
「父様っ!!」
助かった……!!ステラはぎゅむっとその長い脚にしがみつく。
とたん呆れ顔だったジオの顔はだらしなくやにさがる。
その顔に軽い頭痛を覚えたノクトは素早く目をそらし毒にしかならない光景をシャットアウトする。
こんなやつが自分の右腕だなんて……。
もう少しそのだらしない顔を取り繕う努力をしろ。
そう言ってやりたいが言っても無駄なことはうんざりするほどよく分かっているので言わない。
「ジオも兄様に呼ばれたの?」
「あぁ、時間があったら来いってな。今日の菓子は久々にリヒトが作ってるらしいぞ」
リヒトが作るという言葉に反応したセイラたちの瞳はこれでもかというくらいに輝く。
ルナに付きあってキッチンに立つリヒトはメインであるルナをほっぽってメキメキと料理の腕をあげた。
それはもう一緒に練習していたはずのルナがほっぺを膨らませてリヒトを睨むくらいに。
おまけに屋敷を出てからの寄宿舎での生活で更に腕を磨いている。
ルナの新たな触感と味が開拓される摩訶不思議な物体Xやニナの努力の跡が涙を誘うちょっぴり見た目が残念なお菓子たちとは違うのだ。
素直に瞳を輝かせて大人しくなったセイラたちにジオは微苦笑を零し、ノクトは呆れた視線を注ぎながらも口元を小さく綻ばせた。
「………お待たせ」
どことなく疲れたリヒトの声に小首を傾げながら入口を見ると渇いた笑みを浮かべるリヒトと満面の笑みを浮かべるルナがいた。
期待に輝いていた瞳が急速に輝きを失い、浮かべられた笑みは盛大に引き攣る。
ノクトとジオも心なしか表情を引き攣らせてじっとリヒトを見つめる。
リヒトはその視線に微苦笑を零して小さく頷いた。
「姉ちゃんが手伝ってくれたんだ」
その一言に子どもたちの表情が凍りつく。
セイラはヒクリと表情を引き攣らせて伺うようにルナを見上げた。
「ね、ねぇ、ママ。ほんとーーーに、手伝っちゃったの??」
「もちろんよ!今日のは上手にできたの!ね?リヒト!」
「そうだね。美味しくできたよ。ニナのお墨付き」
「……ちょっと待て。お墨付きを出したニナはどこだ?まさか、あいつ自分だけ……!」
「失礼ですね。今回は本当に美味しくできてましたよ。
という訳で後片付けの手伝いよろしくお願いします」
「ごめん、ジオ。俺もすごく手伝ってほしい。俺たちだけじゃ手に負えない」
「手に負えない、だと……?一体どうなってやがるんだ」
「……聞かない方がいいと思いますよ」
「俺もそう思う。
さぁ、冷めちゃう前にはじめようか」
穏やかな昼下がり
(溢れるのは大切な人たちの笑い声)
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